年金月17万円の80代父「お金のことは心配ない」と笑顔で入所も…温厚な50代長女が激高した“老人ホーム請求額”【FPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

長年連れ添った配偶者が先に亡くなってしまったら、老後はひとり暮らしになります。高齢になってからのひとり暮らしはなにかと大変。そんなとき、バリアフリーが施され、医療や介護の体制が整っている「老人ホーム」への入居は有力な選択肢のひとつとなるでしょう。ただ心配なのは、その費用。いったいいくらかかるのか、誰が負担するのか……。本記事では、土井さん(仮名/82歳)の事例とともに老人ホーム費用の注意点について、FP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が解説します。

ひとり暮らしの父が決めた老人ホームへの入所

地方都市に住んでいる土井さんは、6年前の76歳のときに妻が先立ち、ひとり暮らしをしていました。あまり自炊をしたことがなかったので、ひとりになってからは、コンビニやスーパーの総菜を購入して食事をしていました。

子どもは、2人の娘がいますが、どちらも嫁いで別々に暮らしていました。54歳の長女は同じ県内に住んでいましたが、車で2時間弱かかります。そう頻繁には行けなくても、昔から温厚で面倒見のよい長女は、ひとりになった父を心配して、盆や年末のほか、年に2~3回程度顔を見せていました。

80歳を超え、ひとり暮らしはそろそろ限界に

82歳となった土井さんは、年齢による体の衰えはあったものの、元気に暮らしていました。ただやはり、年を重ねるたびにひとりでの食事や家の掃除、庭の手入れなどを負担に感じるようになっていきます。

土井さんは、現役時代には一般的な生活を送れていました。裕福とはいえませんが、貯蓄は1,200万円、現在の年金は月に17万円と、生活に困ることはありませんでした。

長女は以前に、土井さんから「そろそろひとり暮らしは限界かもしれない。老人ホームに入ることも考えている」と相談を受けていました。長女は早速数ヵ所の老人ホームのパンフレットを取り寄せ、土井さんに渡します。長女も、父が広い家にひとりでいるより、老人ホームに入ってくれたほうが安心すると考えてはいたものの、父と一緒にパンフレットを見ながら「思っていたよりもお金がかかるものなのね……」と心配します。

しかし、土井さんは月額の住居費が20万円の施設のパンフレットをひとつ指さし、「これくらいだったら予算内。お金のことは心配ないよ」と笑顔を浮かべます。

それからしばらくして、土井さんは長女へ連絡を入れ、老人ホームへの入所を決めたことを伝えました。

自宅の売却費用と貯金、年金で老人ホーム費用は足りるはずが…

土井さんが選んだ施設は、住居型有料老人ホームでした。高齢ということもあり、将来的に介護が必要になったら介護のサービスも受けられる施設でした。

入所一時金は100万円。住居費は、家賃を含めて20万円と、月の年金額よりも上回っていました。ただ、入所前に自宅の売却契約を済ませていました。家の売却である程度のまとまったお金が入ることで、土井さんも長女も安心します。自宅は約700万円で売れましたが、施設入所後に受け渡しを行い、土井さんが手元に受け取ったお金は600万円程度でした。売却に関する諸費用や自宅の片付け費用が掛かったようです。

そうはいっても、現在の貯蓄1,200万円と合わせて1,800万円となるため、年金以上の費用負担も賄えるだろうと考えていました。

契約には長女も付き添い、費用面についても説明を受けて帰りましたが、実際にどれくらいになるのかは、ぼんやりとしていた部分も。長女にとっては、父は体の衰えはあるものの、ひとりで買い物に行ったり、いまは免許を返納しましたが少し前まで運転したりと、普通に暮らせているという印象だったので、大半のことは父に任せており、そのほかの費用については、特段気にしていませんでした。

住居費以外にかかる、細々とした出費

土井さんは入所後、これまで通っていた病院の通院が毎週あり、付添サービスを利用していました。30分1,000円という料金でしたが、通院の日は日用品の買い物などにも行っていたので、毎週3時間程度となっていました。また、健康とはいえ、年齢的に歩くのがゆっくりとしたペースになっており、ひとりで散歩に行くことを不安に感じていたため、そのときにも付添サービスを使うように。

さらに土井さんは、食欲はまったく衰えておらず、食事以外にもお茶請けをたびたび買ってきて、食べていました。ときにはほかの入所者や職員へも勧めることも。

土井さんは、貯蓄もあるし、80歳を過ぎていることで、多少の贅沢をしてもお金が底をつくということはないと思っていたのです。

しかし、日用品やお茶請け、付添サービスなどを利用していると、あっという間に料金が高くなり、月に25万円~28万円になることもありました。

面会に訪れた長女が、ふと目に留まった請求書をみると、請求額が28万円となっていることに驚きます。当初、月20万円と聞いていた長女は慌てて土井さんに事情を問いただし、激しく怒りをぶつけます。

「いまみたいな利用の仕方じゃ、あっという間に、お金が底をついちゃうわよ! こんなにお金を使っちゃうなんてなにを考えているの? 私の息子もいまは大学生でまだまだお金がかかる時期なのよ! 足りなくなったらどうするの、私たちに頼るしかないでしょう」

落ち込んだ土井さんは使い方を見つめ直す、となんとか長女をなだめました。

住居型有料老人ホームの注意点

土井さんは、資産がある程度ある状態だったこともあり、お金の使い方に無頓着になったことも考えられます。

住居型有料老人ホームなど、基本料金は明確になっていますが、追加のサービスについては、実際に利用したときに、金額が見えてくることもあります。

入所前や入所時に、追加のサービスをどれくらい使ったら、どれくらいの料金になるという目安を付けて、家族で利用頻度を考えておくことも必要かもしれません。

また、家族が訪問したときなどは、必要なものを買っていくことや買い物や散歩の付き合いを行うなど、サービスを使わずに身内で賄うことも考えておくと節約につながります。

介護が必要になってくると、今度は介護保険の適用となるサービスもあることなどが考えられますが、今回のように要介護認定や要支援認定がされない場合は、負担が増えることも考えられます。介護保険サービスを利用した際に、自己負担の上限を越えた場合は、市区町村に申請することで「高額開度サービス費」や「高額医療・高額介護合算制度」から超えた金額の還付を受けられる制度もあります。積極的に利用していくとよいでしょう。

また、有料老人ホームも費用については施設によってばらつきがあります。追加サービスも含めた費用を考えて入所先を決めることも考えておきたいですね。

吉野 裕一

FP事務所MoneySmith

代表

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