「昔、親にされて嫌だったこと」を親本人が理解してくれないワケ【Xフォロワー1.5万人・心理カウンセラーが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

大人になると、「自分も親も大人になったのだから」と同じ目線でわかり合えるのではないかと希望を持つのは自然なことでしょう。しかし実際には、話し合おう、思いを打ち明けようとするとかえって衝突してしまい、昔よりも険悪になってしまうこともあります。なぜ親とわかり合うことが難しいのか? 心理カウンセラー・寝子氏の著書『「親がしんどい」を解きほぐす』(KADOKAWA)より一部を抜粋し、「記憶している出来事の違い」に着目して解説します。

人の記憶が持つ「3つの特性」

人の記憶は、出来事をただ平等に覚えているのではなく、主に3つの特性を持ちます。

まず1つは、記憶は出来事と感情がリンクされて覚えられるというものです。そのため、一般的には出来事に伴った感情が強いほど、はっきり覚えています。ただし、その感情がそのときに抱えられないほどの衝撃であったら、その感情と共に出来事も記憶から消すことで、人はなんとか生き延びようとします。

2つ目は、危機に備えるために嬉しいことよりも「負の感情を伴った体験」のほうが記憶されるというものです。最後の1つは、完了できずに中途半端なままである「未完了」を覚えているという特性です。

この記憶の特性により、親が覚えている出来事と、子どもが覚えている出来事の食い違いが起こります。

親と子では「記憶に残りやすい出来事」が異なる

親は、子どもに“してあげたこと”と“してあげたかったけどできなかったこと”をよく覚えている傾向があります。

“してあげたこと”には、「親の能動性」という積極的な感情が伴うため記憶されやすくなり、“してあげたかったけどできなかったこと”については、「完了できなかった(未完了)」という心残りと負の感情も伴って忘れにくいものになるからです。

反対に、子どもは親に“してもらえなかったこと”を覚えている傾向にあります。

子どもが親に”してもらえなかったこと”を覚えているのは、“してほしい”という気持ちが「未完了」であることが一因でありますが、それ以上に精神的な傷となるからです。

子どもが親に“してほしかったこと”は、「気持ちの支えになってほしかった」である場合がほとんどです。たとえば、「誕生日を祝ってほしかった」と思っていたら、その真意は「自分のことを大事に思ってくれる、親の気持ちを感じたかった」からでしょう。

「親が寄り添ってほしいときに寄り添ってくれなかった」という精神的に必要なサポートがなかったことは、子どもにとって心の傷になってしまうのです。だから、埋めようとして記憶し続け、親から精神的なサポートを得ようと試み続けます。

子どもがこの心の傷を認識して言葉にできるのは、大人になってからになります。

ここでも、親と子で認識のズレが生じやすいのです。

子ども側は大人になって「やっと言える」と思う一方、親は「もう大人になったのだから親の気持ちをわかって」と欲するようになっていると、わかり合えない状態で膠着(こうちゃく)してしまいます。

親には「過去の弱点」と向き合う覚悟がない

子ども側が親のかつての対応で本当に傷ついたことこそ、“親にわかってほしい”という望みを強めるものです。

ただ、子ども側が本当に傷ついたことこそ、「親にとって認めづらい自分の弱点」であることが非常に多いのです。そのため、親は痛いところをつかれた反応として、非を認められないという心情になり、怒りで返してしまいます。この反応は、一般的な対人関係のもめ事でも頻繁に生じています。

親が自分の行いを認めることができていないと、事実を言われただけであっても「攻撃された」と反応してしまうため、子ども側に攻撃し返してしまうこともあります。

人は、きちんと反省することが難しい生物です。

自分に向き合う覚悟がないと、容易には自分の過ちを認めることができません。

親の介護も含め、子ども側はまだ長い人生があり、自分の人生について考え悩む必要が生じています。一方で親側の人生は、子育てを終えたと共に、悩むよりも「今後は楽に生きよう」と望むようになる傾向があります。

その場合、向き合う気持ちがない親に、どんなに向き合うように働きかけても徒労に終わってしまいます。

どちらの記憶も「それぞれの物語」と捉える

このような傾向が親に見受けられるようであれば、「本心を話してわかってもらう」という直接的なアプローチをしたほうがいいのか、その徒労を考えるとやめたほうがいいのか、ご自身の対応を改めて検討してみることをお勧めします。

時には、深くわかり合うことを諦めるのも、必要になるかもしれません。

一方で、すべて諦めるということはせずに、考えに幅をもたせてみることも有効です。親が過去を振り返らないようであれば、「どちらの話もそれぞれの物語」と思いながら、「少し自分の思いを話してみよう」や「今はとりあえず穏やかな関わりを優先する」といったように考えられると、極端な選択に限定されることを防ぎ、気持ちに少し余裕ができることがあるように感じます。

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<本稿のまとめ>

●親は“してあげたこと”と“してあげたかったこと”を覚えている。

●子どもは“してもらえなかったこと”が深い心の傷になる。

●どちらの記憶も、それぞれの物語であると捉える。

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心理カウンセラー 寝子

臨床心理士。公認心理師。スクールカウンセラーや私設相談室カウンセラーなどを経て、現在は医療機関で成人のトラウマケアに特化した個別カウンセリングに従事。トラウマの中でも、親子関係からのトラウマケアと性犯罪被害者支援をライフワークとしている。

臨床業務の傍ら、X(旧Twitter)で心理に関する発信をし始め、フォロワー1.5万人超え(2024年1月時点)。対処法よりも自分を理解することに重きを置いた内容が支持され、ブログ記事は「探していた答えが書いてあった」「自分の状態がクリアに理解できた」と評判になっている。

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