真夏に発生する猛毒・硫化水素を無毒化! 広島カキの救世主はカキ殻!?

広島を代表する味覚といっても過言ではないカキ。しかし、今シーズンのカキは、夏の暑さや鳥インフルエンザの影響というさまざまな困難に直面していました。

地御前漁協 峠誠二 理事
「辛いですね」

そんな中、カキを救う救世主として注目されるのは、カキの殻。

広島大学 山本民次 名誉教授
「すごくいい働きをカキ殻はしている」

このカキ殻の活用に広島県なども予算をつけて動き始めました。カキ殻の新たな活用法に迫ります。

小林康秀 キャスター
焼いても、蒸しても、フライにしてもおいしいですよね、カキ…。ところが、このカキ、ことしはまさに3重苦を乗り越えて出荷されているんです。

(1)近年の栄養不足で生育不良
(2)夏の暑さで死ぬ
(3)鳥インフルエンザの影響でカキ打ちに制限

こういった問題を行政的にもなんとかしようと、来年度の予算案には、県ではカキ殻の「有効活用対策推進事業」として5300万円が、広島市では漁協に対するカキ殻の購入費の補助に500万円が計上されました。

というのも、この3つの問題のうち下の2つは、カキ殻をしっかり活用することで解決に向かいそうだということなんです。どういうことなんでしょうか?

最盛期のカキですが、今シーズンは順調とはいえない滑り出しとなりました。ことし1月までは「隔週水曜日」にはカキ打ちが中止されていたのです。

地御前漁協 峠誠二 理事
「わたしたちもせっかく作ったものですから、どんどん出荷して、お客さまに食べていただきたいんですけど、それを止められるというのは辛いですね」

カキ打ち中止の主な原因は、鳥インフルエンザでした。

通常、広島県内の生産者から排出されるカキ殻は廃棄されず、100%再利用されています。しかし、去年、飼育される鳥の数が激減し、エサとして消費されていた、カキ殻がだぶついたのです。

広島かき生産対策協議会は、出荷量を減らしてでも、排出される殻の量を抑えるという苦肉の策をとったのでした。

それでも県内6か所の堆積場が満杯に近いということで、シーズン最盛期を前に、県は先週、協議会に対し、広島市の海に面した県有地をカキ殻の一時保管場所として貸し付けることを決めました。

カキの生産量全国一の広島で、排出されるカキ殻の6割を加工している「丸栄」です。

丸栄 立木仁 常務
「こちらでうちの原料・カキ殻を堆積しています」

― これだと、まだまだ積めそうなんですけど?
「上に積むことは可能なのかもしれないんですけど、小潮の満潮時に全部のカキ殻が浸かるように管理をしなさいという指導がありますので」

カキ殻の堆積を海水に浸かる高さまでに制限することで、殻についた有機物が水中で微生物に分解され、腐敗を防ぎます。

広島県内に3か所ある丸栄の堆積場は、すでに8割から9割が埋まっているそうです。

丸栄 立木仁 常務
「今は殻をむかれている時期なので、原料としてはどんどん入ってくる時期。なので、容量としてはかなり厳しくなってきていている状況」

カキ殻は、工場内に引き上げられた後、300℃の熱風で加熱され、粉砕されます。炭酸カルシウムが主成分のカキ殻は、海のミネラルを豊富に含み、畑の肥料としても利用されます。鳥のえさとして利用されるのは、2ミリから4ミリの大きさのものです。

丸栄 立木仁 常務
「鶏のエサを供給させていただいているお客さま、養鶏場さんが去年、特に鳥インフルエンザの関係で多く発生してしまったことがありますので、その分だけ、供給させていただく量が少なくなっているという状況です」

供給量が減っても、堆積場を空けるためにも、生産ラインを止めるわけにはいきません。

そんな中、今、注目されているのは、カキ殻の水質改善の力です。

御前漁協 峠誠二 理事
「目の前のカキいかだ…。あそこにまきました。2021年、3年前にまきました」

廿日市市の地御前漁協は、3年前からカキ殻の海底散布に取り組んでいます。

地御前漁協 峠誠二 理事
「最初は、カキの身入りが夏場の高水温で悪くなっていたんですよね。何がいかんのかなと思っていて、カキ殻をまいたらいいよねっていうような話も聞いて」

近年のカキの身入りの悪さの原因の1つが、夏の暑さだといわれています。

表面の水温が上がると上の方のカキが弱るだけでなく、海の底が酸欠状態になり、何十年もかけて蓄積したヘドロの中で菌の動きが活発化。大量に発生した硫化水素が下の方のカキも死滅させると考えられています。この問題の救世主が、カキ殻だというのです。

広島大学 山本民次 名誉教授
「硫化水素は猛毒なので海の生物も住めないんです。だから海底にはもう全然、生物がいないんです」

山本名誉教授は、15年ほど前からカキ殻の浄化能力に注目した、さまざまな研究を進めています。

広島大学 山本民次 名誉教授
「わたしがやった中で一番の注目は、硫化水素を吸着する―。吸着だけじゃない、酸化して無害なものにする―ということがわかったので」

海底にカキ殻をすき込むことで有毒な硫化水素を吸着して無害化するといいます。

広島大学 山本民次 名誉教授
「カキ殻の表面にそれ(硫化水素)をどんどんくっつかせながら酸化していく。硫酸イオンは無害。海水中にたっぷりある。また、そこに戻しちゃうので、すごくいい働きをカキ殻はしている」

カキ殻は、そのまま使うよりも焼いて使う方が効率がいいことが実験結果でわかってきました。

広島大学 山本民次 名誉教授
「もとは炭酸カルシウム(CaCO3)なんだけど、熱を加えると、表面が酸化カルシウム(CaO)になる。CaOになると、硫化水素を抑える機能がぐっと上がるんです」

地御前漁協 峠誠二 理事
― 今のところの感触は?
「体感的にパッと見たときにカキ自体、海自体の変化は、はっきり言ってわからんです。これ、まいてすぐ変化があったら大変なこと」

地御前漁協は、3年前にカキ殻を散布して以来、海底の硫化物の量などを調査してきました。

その結果、改善とまでは行かないまでも、ほかのエリアでは増加している硫化物がカキ殻をまいたエリアでは「増加しない」という成果を確認しています。

廿日市市では、今のところ、カキ殻の購入費用の負担は生産者頼みですが…

地御前漁協 峠誠二 理事
「でも、やっぱり、お金がかかってもカキを作りたい。(カキの生産を)続けられるなら、ずっと毎年、カキ殻をまいていって、海の底の環境をよくしてあげて、それで全体的によくなってくるような、そういう思いはあります」

小林康秀 キャスター
▽一度まいたカキ殻は5年~10年、効果が続くとみられています。
▽広島県では、今年度もすでにおよそ8700万円を投じてカキ殻を漁場改良資材として活用する実験を始めていて、一定の効果があれば、拡大していく方針です。
▽関係者が口をそろえて言っていたのは、「カキ殻は、ゴミではなくて、広島の資源だ」ということ。有効活用することで循環する、そのルール作りが必要となっています。

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