令和の時代に合った相撲を教える「未経験者歓迎」浅香山部屋の育成方針

昨今の大相撲界で、親方衆が第一の課題として挙げるのが、力士数の減少。少子化も相まって、力士になる若者の数は減ってきており、約30年前の若貴ブームの頃は800人を超えていたが、今年に入って600人を割ってしまった。

今回、元大関・魁皇の浅香山親方に取材。たたき上げ(中学卒業後に入門)の親方は、スカウトが苦手と笑うが、どのような人材育成をしているのだろうか。

▲新年早々、浅香山部屋にお邪魔しました

大事なことは“強くなりたい”という気持ち

――現在、9人の力士が所属している浅香山部屋。そのほとんどが相撲未経験で入門しているとお聞きしていますが、皆さんどういった経緯で入られているのでしょうか?

浅香山親方:うちの部屋のホームページを見て、親御さんに連れられてくることが多いですね。父親が元力士の子もいれば、柔道経験がある子、知り合いの紹介で来た子など、経緯はさまざまです。

私のスタンスとしては、まずは稽古や部屋の雰囲気を見てもらって、そのうえで入りたいかどうか決めてください、といった感じです。というのも、私自身が意思なく大人同士の話し合いで入門が決まってしまったから、中学3年の秋から卒業までの憂鬱な期間は本当に忘れられないね(苦笑)。

そんな思いをさせたくないので無理強いはしません。ただ、角界に入ったからこそ今の自分がいますし、うちを辞めていった子でも、力士になったことを後悔しているという話は聞きません。だからこそ、少しでも興味があるならやってみる価値は絶対にあるよと話します。

――入門希望の子が来たら、どんなところに注目しますか?

浅香山親方:大事なのは気持ちです。気持ちさえあれば、体格も技術もいくらでも変えることができる。例えば、いま22歳の魁陽龍(かいひりゅう)は、高校を卒業してうちに来たとき、体重は75キロもありませんでした。それから約4年で110キロ近くあります。決して無理させたわけではなく、自分から食事も運動もしっかりするので、体が出来上がっていきました。本人に強くなりたい気持ちがあれば、自然に体ができて相撲も覚えてくるんです。

▲四股の踏み方を丁寧にレクチャーしていた

――すごいですね。親方は、学生や子どもの大会にスカウトへ出向くこともありますか?

浅香山親方:そういうのが苦手なんですよ(笑)。自分はたたき上げで、学閥などのつながりもありませんからね。相撲をやっている学生は、いずれどこかの部屋に入って角界を盛り上げてくれればいいので、自分は、ほかの競技をやっている子や、相撲未経験の子たちを引っ張ってきて強くする。そういう違った目で見ることも大事かなと思っています。

私自身、小学校は空手、中学では柔道、相撲の経験はほとんどありませんでした。相撲をやっていなくても、ほかの競技で相撲に合っている子がいるかもしれない。そういう子に来てもらっています。

――浅香山部屋は、優しい親方の性格をそのまま映したような、和やかな雰囲気がありますよね。意図している部分はあるんでしょうか?

浅香山親方:自然とそうなっているのかな(笑)。気を抜かないで思い切って稽古できるならそれが一番ですが、あまり厳しくしすぎてもついてこられませんからね。いろんな雰囲気の部屋がありますが、どんな場面でもブレずに稽古できれば、それでいいと思っています。

見学に来てくれる子たちにも、よその部屋も見ればいいし、うちはあくまで選択肢のひとつと思ってくれればいいよ、と話しています。って、そんな悠長なことを言っているから、なかなか新弟子が来ないのかな(笑)。でも、うちの部屋に入らなくても、ほかの部屋に入ってお相撲さんになってくれたら、それだけでうれしいですよ。

その子に合った相撲を教えるのが自分の仕事

――穏やかで心優しい親方ですが、怒ることはありますか?

浅香山親方:たまにありますよ。力士に関しては、あまり気が抜けるとケガしてしまうのでね。遊びに来ているんじゃない。相撲で強くなるために入っているんだから、そこを忘れさせちゃいけません。厳しいことを言われたり怒られたりするのは、どこの部屋も、どの世界も一緒。いずれは社会で経験することを、早いうちから経験するのはいいことだと思います。

▲一生懸命な弟子たちを優しく厳しく見守る

――元プロレスラーで明るく元気ハツラツなおかみさんも、部屋を支えてくれていますよね。

浅香山親方:普段の生活での、みんなの様子を気にして見てくれています。ちょっと様子が変だとか、体調がよくなさそうだとか、私だけでは気づかないことにも気づいて、声をかけてくれるんです。悩み相談なんかは、ほとんどおかみさん。男同士でできないコミュニケーションもあるので、違った目で見てくれて助かっていますよ。

――親方が相撲の指導において大切にしていることはなんですか?

浅香山親方:未経験者には、相撲の基礎から教えます。もちろん、前に押すのが基本ですが、その子にとって“どの形で押す”のが一番力を発揮できそうか、教えながら一緒に考えていくんです。上手を取ったら投げるんじゃなくて、そのまま前に出るとか、徹底的に押しながら、その子の型を模索していく。

自分が四つ相撲だからって、四つ相撲だけを教えるのではなくて、押し相撲も教えます。自分が四つ相撲だったからこそ、どう押されたらイヤかがわかるから教えられるんです。一人ひとりを見て、その子に合った相撲を教えるのが自分の仕事だと思います。

――稽古以外、例えば食事や体調管理に関する指導について教えてください。

浅香山親方:そんなに厳しくは言わないけど、食べるものには気をつけろと言います。昔に比べると稽古量がかなり減っていることもあるので、塩分の濃いものや甘いものを摂りすぎてはいけません。水分もしっかり取って、考えながら食事をすること。昼も夜もちゃんこをしっかり食べていれば、間食する必要もないはずなんですが、現代はコンビニもジャンクフードもいろいろあって、みんな言うこと聞かない(笑)。

ただ、内臓を壊したら力が出ません。健康にだけは気をつけてほしい。飲酒もそうです。我々、昔のお相撲さんは、たくさん飲んだし飲まされてきたけど、もし弟子に無理矢理飲ませようとしてくる人がいたら「いまは時代が違うのでやめてください」とお願いします。コンプライアンスの観点だけでなく、生活を乱すと病気になってしまいますからね。

――力士の皆さんは、親方にさまざまなことを教わっているだけでなく、大切に守られてもいるんですね。最後に、どんな子に浅香山部屋に入ってきてほしいですか?

浅香山親方:うちは未経験者がほとんどですから、相撲をやってみたいな、ちょっと興味があるな、そう思う子にはぜひ来てほしいですね。のんびりした性格の子が合っているかもしれませんが、やってみたいと言って来てくれる子は、いつでも歓迎します。まずは稽古見学に来てください。

▲温かく受け答えしてくださった浅香山親方


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