【ハンドボール】レフトバックは点取り屋 | ポジション解説 | JHL名鑑vol.2

JHLで活躍するレフトバックの選手。左から喜田ことみ、喜納歩菜、菊池杏菜、行本朱里、川島悠太郎(いずれも久保写す)

ハンドボールの各ポジションの役割、求められる資質について、日本リーグ(JHL)でプレーする選手(プレー経験のある選手も含みます)のプレースタイルとともに紹介します。第2回はレフトバックです。昔の用語で言う左45度で、右利きのエースシューターのポジションです。各チームの点取り屋がひしめくポジションですが、点を取るパターンは人それぞれ。ロングシュートが多いのか、カットインが多いのか、得点の割合で個性が見えてきます。 (Pen&Sportsコラムニスト・久保弘毅

【ロングシュートが打てる】部井久アダム勇樹

9mラインの外から打ち込むロングシュートは、レフトバックの一番の見せ場です。9mより外からシュートが入る選手は、世界でも一握りだけ。才能が大きく物を言います。

 日本代表のエースに成長した部井久アダム勇樹(ジークスター東京)は、世界基準のロングシューター。国際試合でも9mの外からの強打で状況を打開してくれます。以前は枠外に吹かすこともありましたが、シュート精度は年々向上しています。女子球界では小川玲菜(飛騨高山ブラックブルズ岐阜)が貴重なロングシューターです。ツボにはまった時の迫力は、国内の女子ではトップクラス。先日の名古屋セントラルゲームズ(日本リーグの集中開催)では豪快に流しの上(ゴールの右上)に打ち込み、伊藤寿浩ヘッドコーチが「練習でも見たことない」と驚いていました。

【シュートフォームが武器になる】喜納歩菜

大きいボールを扱うハンドボールでは、面白い投げ方の選手がたまに出てきます。野球よりも投げ方が確立されていない分、個性的な技で生き残る選手も多いようです。

 日本代表の得点源・吉野樹(トヨタ車体)は大きめのテークバックで有名です。本人は「バッティングセンター(のマシン)」と自虐ネタにしていますが、肩甲骨周りを十二分に使ったダイナミックなフォームは唯一無二。変則的なフォームでもゴールの四隅を狙うコントロールは抜群です。服部沙也加(オムロン)は不思議な投げ方で注目を集めているルーキー。右肩が外れたかのようなテークバックから、思ったよりも速い球を投げてきます。オムロンの水野裕紀監督は「腕の振りとシュートの威力が一致しないから、GKが捕りにくそう」と、服部の動きを評していました。ザ・テラスホテルズの内定選手・喜納歩菜はコンパクトなモーションで、DFとかぶりながらのシュートを得意としています。野球経験者らしく腕がしなって、その動きは併殺打を処理する内野手のようです。二塁ベース上で走者をかわしながら一塁に転送する動きが、そっくりそのまま喜納のジャンプシュートと重なります。

【アウトスペースを割れる】喜田ことみ

レフトバックにはロングシュートのほかにも、1対1でアウトスペースを割る動きが求められます。相手DFの1枚目と2枚目の間を強く割ることで、DF全体の間が広がります。強力な3枚目DFを孤立させるためにも、アウトスペースを攻めるボディブローは欠かせません。

 竹内功(福井永平寺ブルーサンダー)は1対1に特化した選手です。レフトバックでもライトバックでも、広い1対1でシンプルに勝負します。バックステップでDFと距離を取ったあと、勢いをつけて走り込み、突破を狙います。喜田ことみ(大阪ラヴィッツ)はまだ若くてもアウトを抜ける技術を持っています。若い選手は利き手側(レフトバックならイン)に行きたがる傾向があるのに、喜田はインとアウトのバランスが優れています。早い段階でいい教えを受けたのでしょう。孫敏敬(オムロン)は韓国の選手らしく、インにアウトにキレキレのフェイントが持ち味です。

【センターバックも務まる】川島悠太郎

レフトバックは単なる「打ち屋」だけでは務まりません。センターバックもできるくらいの視野の広さがあると、チーム全体の得点力が上がります。

 可児大輝(大同特殊鋼)は所属ではエースですが、代表では「得点力のある2番手センター」の役割が期待されています。大同でも一時期センターをしていましたが、隣にいるデネル・ヤーニマーの要望に応えきれず、自身のよさも消えていた印象でした。パワーヒッターの資質を伸ばしつつ、将来的にはヤーニマーを気持ちよく打たせるだけの技量がついてくるといいですね。川島悠太郎(大崎電気)は賢いので、打ち屋にもなれるし、ゲームコントロールもできます。左腕の松浦慶介(大崎電気)とのクロスから始まる攻撃は、北陸電力時代からの阿吽の呼吸です。豪腕・水町孝太郎(豊田合成)は、ワイルドな見た目からは想像もつかない知性の持ち主。年々プレーも洗練されて、センターでも無難にセットOFを統率できます。女子では飯塚美沙希(三重バイオレットアイリス)やオムロンで売り出し中の谷藤悠が、司令塔もできる点取り屋の代表格です。

【エゴを出さない補助役】行本朱里

センターやライトバックにファーストオプションがいるチーム構成の場合、レフトバックにエゴの強いエースタイプを置くよりも、調整役になるタイプが入った方が、セットOFがスムーズになります。

 信太弘樹(ジークスター東京)は高度なバランサー。「無茶打ちをしない」ポリシーが強かったために、代表のエースとしては若干物足りなさが残りましたが、チーム全体のバランスを見る眼は超一流です。2対2からのミドルシュートは確実に入る時だけ狙いつつ、難しいプレーをさらりとやってのけるセンスは健在です。重藤駿介(福井永平寺)はセンターでも機能する視野の広さと展開力を、須坂佳祐監督に買われています。村田龍(アースフレンズBM)は、サッカーで言う「シャドーストライカー」の言葉がぴったり当てはまる選手。エースがDFを引きつけた反対側のスペースで得点を奪います。行本朱里(アランマーレ)は、センターエース・横嶋彩のよき相棒。補助役としてすべてのプレーをこなし、DFでは160㎝ちょっとしかないのに3枚目にも入ったりして、攻守のバランスを整えます。

【3枚目を守れる】成田幸平

守れるバックプレーヤーが1枚いると、メンバー構成がとても楽になります。特に3枚目を守れるレフトバックは貴重です。攻守両面でチームの背骨になってくれる、頼もしい存在です。

成田幸平(トヨタ紡織九州)はロングシュートを打てて、3枚目を守れます。両方が足りなかった紡織にとっての「ラストピース」になるでしょうか。小澤基(大同特殊鋼)は丁寧なアウト割りだけでなく、3枚目を守れるDF力でも、チームの背骨になれる男。ケガからの復帰が望まれます。山口眞季(三重バイオレットアイリス)は、ソニー時代は守れる大型サイドで育てられていましたが、三重に移籍してからは3枚目のDFとロングシュートで評価されています。黄慶泳監督は、かつて日本代表の中心選手だった東濱裕子(元オムロン)のような役割を、山口に期待しているのかもしれません。

【DFでもハードワーク】山﨑洸平

3枚目を守らなくても、エースが2枚目でハードワークしてくれたら十分です。「OFにエネルギーを温存」と考える点取り屋よりも、「OFもDFも全力で」と考えるファイターの方が、チームメイトから信頼されるのは当然のことでしょう。

キューバ出身のヨアン・バラスケス(豊田合成)は豪快なロングシュートだけでなく、DFでのハードワークにも定評があります。長いリーチでパスコースを制限したり、背後から忍び寄ってボールを奪ったり、攻守両面でチームにプラスをもたらします。山﨑洸平(安芸高田ワクナガ)は中学時代から世代屈指のロングシューターで有名だったのに、リバウンドやルーズボールにも率先して飛び込みます。山﨑の泥臭さが、今季のワクナガの一体感にも大きく影響していると思われます。

【身体能力が高い】藤坂知輝

レフトバックに身体能力の高い選手が入ると、アップテンポな展開を増やせます。走って、跳んで、攻守にエネルギッシュに動いてくれると、チームの士気も高まります。

富永聖也(トヨタ車体)のバネは、エースの吉野樹以上。高く跳んだり、大きな1歩で間を割ったりと、独特のリズムで流れを変えてくれます。藤坂知輝(福井永平寺)はコートの両端に置いておくより、40mを走らせた方がよさが出る選手。セットOFで無茶打ちをするより、アップテンポな展開で身体能力を得点に結びつけた方が、チームに勢いが出ます。秋山静香(イズミ)はエースで3枚目を守る攻守の要ですが、まだポテンシャルの一部しか出せていません。もっと自由に動き回れたら、秋山本来の野性味が出るのに……。玉野光南高校時代にトップDFで躍動する姿を知っているだけに、つい辛口になりました。

【短時間で点が取れる】菊池杏菜

途中出場でサクッと点を取れる選手がいると、セットOFが行き詰った時に重宝します。ベンチからの得点源、インパクトプレーヤーは、現代ハンドボールで欠かせません。短時間に効率よく点を取る能力は、スタートのメンバーとは違った「特殊な才能」です。

 北マケドニアでプレーしている松岡寛尚(元大崎電気)は、先発でも途中出場でも関係なく、どんどん点が取れる選手です。フルに使うと攻守のバランスが難しくなるので、短時間でよさを凝縮させた方が、チームにとってもプラスになります。菊池杏菜(アランマーレ)は女子には珍しい瞬発力のあるタイプ。ゲームに入ってすぐに、フィジカルを生かした1対1で勝負できます。菊池のような「最初のワンプレーで、自分のベストを出せる」選手が、今までの日本の女子にはいませんでした。練習は短時間集中で、フィジカル強化にこだわる、アランマーレらしい選手です。

【エースのメンタリティ】伊藤極

エースは不調な時にも打ち続けてこそエースです。たとえ前半にシュートが入らなくても、打ち続けていくなかで調子を上げて、最後はしっかりと決めてくれる。昔の大エースには、そういったタフさがありました。男子で言えば神田友和(元北陸電力)、女子では上町史織(元北國銀行)が、エースのメンタリティの持ち主でした。

 伊藤極(ゴールデンウルヴス福岡)は長年チームを背負って打ち続けてきました。他にロングが打てる選手がいないチーム事情もありますが、伊藤が打たなきゃウルヴスの攻撃は始まりません。藤川翔太(トヨタ自動車東日本)は昨年の日本選手権準優勝の立役者。新人の藤川が打ち続けてくれたから、東日本は初めてファイナルまで進めました。その後は肩のケガで苦しんでいましたが、今年2月にようやく戻ってきました。藤川が復活すれば、逆転でのプレーオフ進出も見えてきます。

以上がレフトバックに求められる資質です。次回は司令塔・センターバックを予定しています。

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