「タマゴをもらうからにはいいお返しを」魚、コメ、野菜…栄養たっぷりのエサで育てたニワトリが生むTKGは「甘い香り」福島

東日本大震災後、福島県相馬市で養鶏を始めた男性がいます。作っているのは、高い評価を受けるタマゴ。地元食材をエサに混ぜるなど「地域の循環」にこだわる若手農家の挑戦です。

まるでレモンのような鮮やかな黄身に、こんもりと盛り上がった白身。名前は「相馬ミルキーエッグ」。いま、福島県内で注目を集めています。

生産するのは、相馬市にある「大野村農園」。700羽のニワトリを飼育しています。

代表を務める菊地将兵さん(38)。もともと農業とは無縁でしたが、10年ほど前にふるさとで養鶏を始めました。きっかけは、震災そして原発事故です。

大野村農園代表・菊地将兵さん「放射能とか色々言われて野菜が全く売れなくて、苦しい思いをいっぱいしてきて。やっぱりここにしかないものを生み出して見返してやるとか、子どもたちがここに生まれて良かったという思いを持てるようなことをしていきたいと思った」

目指すのは「地域循環」地元の魚をエサに

「相馬にしかないもので、最高の食材を」。そんな思いが菊地さんを駆り立てました。こだわるのは、ニワトリに与えるエサです。

菊地さん「市販のエサを全く使っていないので、自分で魚屋さんから魚をもらってきたり、コメ農家さんから割れて製品にならないコメをもらってきたり」

この日、愛車の軽トラで向かったのは「浜の駅松川浦」。お目当ての品がありました。

菊地さん「おはようございます、よろしくお願いします。結構あるんですね!」 浜の台所くぁせっと店長・黒田夏貴さん「地魚のだしを取ったあとのアラなんですが、全部使っていただけるので助かっています」

魚を捌いた際に出る、頭や中骨などのアラ。エサには、欠かせないといいます。

菊地さん「タンパク質がいっぱい入っているからすごい貴重なんですよ」 黒田さん「よかった。循環しているのでうれしいです。うちも相馬の魚を主に使っているのでありがたいですね。(菊地さんは)地元の人も応援している農家のひとりだなと思っています」

地元の魚やコメ、それに野菜などを混ぜ合わせてオリジナルのエサを作っています。ニワトリのために努力は惜しみません。

菊地さん「僕は地域循環で本当にいいものを目指すのであれば1000羽以上は超えない、それを守る。地元で出る魚の量に合わせているんですよ。大量生産に走らずに、自分たちができる範囲でやるからこそ価値があるしいいものができたりする」

こだわりのエサ「タマゴをもらうからにはお返しを」

ここは、旬を迎えたブロッコリー畑。農園では野菜も栽培しています。通常、葉の部分は収穫しないそうですが、菊地さんが葉っぱも含め全てを刈り取ります。それには理由が。

菊地さん「ニワトリが食うからです。わざと葉っぱも集めているんです。だからうちは一番下の方から切ってあとで店で並んでいるように切り直すんだけど、その葉っぱを全部ニワトリに持っていく」

実際に葉っぱを与えると…。

菊地さん「見て分かる通り、ニワトリは植物を食べるのがすごく好きなんですよ。人間と同じでキャベツとかを食べていたら、ビタミンとか色々な栄養素を補えますよね。タマゴはもらって奪うものではないので、もらうからにはこの子たちにもすごいいいお返しをして、この子たちとも物々交換をしているようなものですよね」

エサにこだわった「相馬ミルキーエッグ」は、農園の直売所などで販売されています。タマゴを割ってみると、黄身は自然な色合いで、白身は二重にふくらんでいます。鮮度抜群の証です。

水津邦治アナウンサー「ミルキーエッグは卵かけごはんがおすすめということです!いただきます!なめらかですごく優しいですね。味が黄身の甘い香りがしておいしいです」

子どもたちにも夢 あらゆる「循環」を

そんな菊地さんが目指しているものは「地域の循環」です。

菊地さん「この町は最高だっていうのを僕は伝えていける自信はあるし、日本中とかどこに出したってすごい恥ずかしくなく、本当にすごいものだって言わせる自信があります」

農園では、農業ボランティアも受け入れていて、ここで働きたいという若者も出てきているといいます。

菊地さん「将兵さんみたいなことをやってみたいと言ってくれるから、そういう子を増やしていくのが僕の目標かなとは今は思っていますけど」

「人とのつながり」を通して若者や子どもたちにも夢をつないでいきたいと意気込んでいます。

菊地さん「循環というのはニワトリのエサとかそういう食べ物だけではなくて、結局最終的には人と人にもつながってくるし、子どもたちにもつながっていくし、僕は本当にあらゆるものを循環しています」

これからも菊地さんは元気なニワトリ、そして相馬ミルキーエッグを通じて相馬の魅力を発信していきます。

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