ラジカセで街頭演説、議会の質問は手話で 耳の聞こえない市議会議員 前回選挙ではトップ当選した議員の日常に密着 

愛知県豊田市で市議会議員をしている中島竜二さん(35)は、生まれつき耳が聞こえません。手話や筆談、CDラジカセを駆使し、障害のある人の「声」を政治に届けようと日々奮闘しています。彼の日常に密着しました。

ラジカセで街頭演説、手話と筆談で市議会議員活動をする日々

2024年1月4日、早朝6時。中島さんがCDラジカセと旗を持って愛知県の豊田市駅に向かいます。駅でCDラジカセを取り出すと、スピーカーからは別の男性の声が。

中島さんにとって、これが街頭活動です。両手の人差し指を曲げているのは、挨拶の手話。生まれつき耳が聞こえない中島さんは、話すこともできません。自分の主張を音声で吹き込んでもらい、CDラジカセを流して伝えています。市民の中には、時には手話で挨拶を返す人も。

(手話で挨拶した人)
「立っていると必ずやる。応援しているので。(手話を)思い出したのは、中島さんがきっかけ。みなさん興味を持つといい」

市議会での中島さんは、一般質問に立つと手話で発言し、その内容を議会に常駐する手話通訳者が音声で場内に伝えます。取材も、筆談です。

(豊田市・中島竜二議員)
「今はまだまだ見えない差別や気づいてもらえないバリアなどがたくさん存在しています。AIやITなど素晴らしい技術が発展していますが、その一方使いづらくなっているものが出てきています。障害者目線で誰もが安心して暮らせるまちづくりを目指して、代弁者としてしっかり声をあげていきたいです」

こうして、日々の議員活動が成り立っています。

トップ当選!日々の積み重ねで市民からも厚い信頼が

中島さんは現在2期目。2019年の初当選時には市側がすぐに手話通訳者を手配し、議会本会議や委員会で意思疎通に不便のないよう配慮をしています。

(豊田市・中島竜二議員)
「やはり、情報バリアフリー化推進です。今手話通訳者をつけていますが、字幕がまだない状態です。手話のできない難聴者も気軽に参政しやすい、傍聴しやすい環境づくりが重要です。ぜひバリアフリーのある議会を目指して取り組んでほしいです」

(豊田市・木本文也議長)
「それほど支障なく手話通訳者含め、うちの議会は対応していた。やった時に気付かない点で、改善したこともある」

合理的な配慮さえあれば、障害があっても議員として十分活動出来ることは中島さんの存在が証明しているともいえます。

(豊田市民)
「人の痛みを分かる人は、他人のこともわかると思うので、本当に『変えたい』と思っている人が市議になるのはうれしい」

今では市議としての知名度も上がっている中島さん。2023年4月の市議選でトップ当選を果たしたことも、その現れです。

家族に支えられながら、障害者の社会参画を目指す

家で中島さんを支えるのは妻・陽子さんです。

(中島さんの妻・陽子さん)
「結婚した時に『体に気を使いたい』と言って、『豆腐とサラダは絶対に食べさせてくれ』と言われたのでそれだけは毎日やっている。耳が聞こえないというと、聞こえる世界だけで育ってきた人にとっては『耳が聞こえないなんて大変なことだ』と思うが、いざ会ってみると周りとしては、たいしたことない」

出会った当初は手話が全くできなかった陽子さん。筆談から始まりスマートフォンに文字を打つなどして、コミュニケーションを取っていました。少しずつ手話を勉強し、今では手話で会話できるように。さらに一昨年11月、夫婦には女の子が生まれました。

(中島さんの妻・陽子さん)
「気持ちよく過ごせるようにと思うが、お互い選挙の前とかはイライラしがちだったので、大変な時もあった」

別の日、愛知県内では女性議員、障害のある議員らが活動報告を行いました。中島さんがこうした活動をしている背景には、障害者の社会参画が進まない現状があります。民間企業で働いている障害者は約64万人。国・地方自治体などの公的機関では約7万3000人と労働人口の2~3%を占め、年々増えています。しかし政治の世界では…。

(豊田市・中島竜二議員)
「障害者の人口の割合は10%くらい。同じくらいの比率の障害のある議員がいることが理想。現実は難しいかもしれない。いろんな障害者がいて、立候補だけでも勇気がいるし、お金もかかるし支援も必要。かなりハードルが高い」

ゴールは「障害のある人が、障害のない人と同じ舞台に立てる社会」

国の調査では、全国民の約9.2%に何らかの障害があると考えられています。その一方で、国会議員や地方議員のうち何らかの配慮が必要な障害者は47人、約0.14%しかいません。10%近い障害者の声を政治に届ける障害者の議員は、0.1%台という現実。

(豊田市・中島竜二議員)
「障害のある人が障害のない人と同じ舞台に立つことができるのが社会のあるべき姿であり、ゴールでもある。それを目指して変えていかなければならない。時間はかかるかもしれないが、実現できることから取り組んでいきたい。そのために議員がいると思っている。これからもずっと頑張っていきたい」

障害者支援を広げていくということは、誰にとっても暮らしやすい社会に繋がるということ。中島さんは今日も街角で静かに、そして熱く訴えかけます。

CBCテレビ「チャント!」2月7日放送より

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