【現役ケアマネがアドバイス】大事なのは今!メンタルをやられないための対応方法
85歳になる近居の母(要介護2)を通いで介護しています。要介護2とはいえ、物盗られ妄想や作り話がすさまじく、同居していないものの家族は辟易。特に昼夜構わぬ鬼電による睡眠不足が仕事のパフォーマンスにも影響しています。
特別養護老人ホーム(以下、特養)に入れたいのですが、要介護2なので無理かと。一応簡単な自炊もできている状態なので施設に入れるのは時期尚早なのかもしれないのですが…。
というわけで、長期戦での通い介護を覚悟し始めたものの、自分の体力・メンタルが持つかどうか自信がありません…。どうしたらよいでしょうか。
ケアマネジャーの筆者のもとに、こんなお悩みが寄せられました。
お母様は、もの盗られ妄想や作り話などの症状をお持ちとのこと。相談者である娘様は、昼夜を問わない電話に疲れておられます。
仕事にも影響が出始めているとのことなので、早期の対応が必要です。今回は、以下の3つのポイントについて詳しく解説していきます。
- 症状の期間:いつまで続くのか?
- 適切な対応:どのように対応すれば良いのか?
- 特養入所に向けての準備:スムーズな入所のために何をすれば良いのか?
それでは詳しく解説していきます。
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もの盗られ妄想は認知症の「初期から中期」に見られる
お母様は要介護2で、簡単な炊事などはご自分でされるとのことでした。もの盗られ妄想は、認知症の初期から中期にみられる症状です。
身の回りのことがある程度自分ででき、在宅介護が可能な状態の人に多くみられます。
認知症が進行して中期以降となり、身の回りのことができないレベルまで進むと、もの盗られ妄想などの症状はみられなくなるのが一般的です。
認知症の進行速度は個人差が大きく、一概には言えません。しかし多くの場合、もの盗られ妄想は症状が進行するにつれて徐々に収まっていく傾向があります。
もの盗られ妄想が起こる原因
認知症になると、記憶障害や思考能力・判断力の低下などの症状が出現します。もの盗られ妄想が起こる原因は、置き忘れやしまい忘れであることが多いです。
自分が置いた場所を忘れてしまい、「誰かに盗まれた」と誤って認識してしまうのです。
また認知症の人は、もの忘れを自覚しており大きな不安を抱えています。不安な心理状態が積み重なって「誰か」のせいにしてしまうことも珍しくありません。
その「誰か」は、今回のように身近な家族であることも多く、大きなストレスを抱えてしまうことがあります。
認知症の進行について
認知症が進行し中期以降になると脳の萎縮により、歩行障害や筋力低下などの症状も出現します。よって、もの盗られ妄想についても症状の進行と共におさまってくるのです。
認知症の一般的な進行については、以下の通りです。
- 初期(軽度): 記憶障害が出現し直前のできごとを忘れる、同じことを何度も聞き返すなどの症状が現れる。身近なことは自分でできるため、発見が遅れることもある。
- 中期(中度): 記憶障害が加速し、新しい出来事を覚えられなくなる。判断能力も低下し、日常生活に支障をきたす。
- 末期(重度): 物ごとへの無関心や意欲低下がみられる。自発的な行動が少なくなり、日常生活に大きな支援が必要になる。
※認知症の進行過程は、誰にでも当てはまるわけではありません。周囲の接し方や治療などで進行速度を抑えられることもあります。
大事なのは今【認知症の物盗られ妄想】でメンタルをやられないための対応方法3つ
認知症が進行すると、もの盗られ妄想などの症状は少なくなっていくことを前章にてお伝えしました。とは言え、ご家族は今大変な思いをされています。ここでは、もの盗られ妄想への対応方法について紹介いたします。
その1 まずは落ち着いて対応する
もの盗られ妄想に対しては、肯定も否定もせず落ち着いて話を聞きましょう。一番不安を感じているのは本人です。まずは「物が無くなって不安な気持ち」に共感することで、相手を落ち着かせます。
認知症の人は、自分の症状に気付いていると言われています。その不安な気持ちを身近な家族にぶつけているので、冷静に受け止めることが重要です。
その2 探しているうちに忘れることも
落ち着いて話を聞いた後は、身の回りを一緒に探します。見つかったら「よかったね!」などと声掛けをするとよいでしょう。
また認知症の進行度合によっては、探しているうちに忘れることもあります。別の話題について話すことで本人の興奮が収まり、穏やかになることもあるのです。
その3 介護サービスを利用し負担を軽減
今回ご相談いただいた内容では、夜間にも電話がかかり仕事に支障が出ているとのことでした。そこでお勧めしたいのは、デイサービスなどの介護サービスを利用して、日中に適度な運動を取り入れることです。
他の利用者と交流したりレクリエーションをしたりすることは、ストレス解消になり体力も使います。夜によく休んでもらうためには、日中の活動を活発にすることが有効です。
人によっては、集団行動が苦手な方もおられます。その場合はヘルパーを活用するのも有効です。お母様とヘルパーさんがコミュニケーションをとりながら、一緒に家事などをするのもよいでしょう。
特養入所へ向けて行うべきこと
ここでは、特養入所へ向けて行うべきことについて紹介します。
主治医へ相談する
もの盗られ妄想への対応方法については、前章にて解説しました。しかし認知症の症状は、人によって差が大きいものです。どんなに工夫しても対応が難しいケースもあります。
そんな時は、主治医へ相談し服薬内容を見直すことも重要です。服薬内容を見直すことで、症状が改善することもあります。決して一人で抱え込まず、ありのままを相談してください。
ケアマネジャーへ相談し区分変更を検討する
特養入所のためには、要介護3以上の介護度が必要です。症状が悪化していると感じたときは、ケアマネジャーへ介護度の区分変更を依頼しましょう。
介護度は「介護に必要な手間や時間」で判定されます。昼夜問わずに電話がかかることや、ご自分の仕事に影響が出ていることも全てケアマネジャーへ伝えましょう。
グループホームやショートステイを活用する方法も
区分変更を行っても、希望の判定が出ないこともあるかもしれません。そんな時は、グループホームへの入所を検討するのも一つの選択肢です。
グループホームであれば、要介護2の方も入居できます。グループホームは正式には認知症対応型共同生活介護と呼ばれており、認知症対応に特化した施設です。
少人数制のユニットで構成されており、利用者同士で家事などを役割分担しながら生活を送ります。
またショートステイを利用し、ご家族の精神的な負担を軽減することも必要かもしれません。主治医や担当ケアマネジャーと相談しながら、ご家族に無理のないように支援なさってください。
まとめにかえて
認知症の症状を持つ方、支援しているご家族は、共に大変な思いをされています。介護保険制度は、本人だけでなくご家族をサポートするための制度でもあります。
無理をして仕事がうまくいかなくなったり、体調を崩したりしては本末転倒です。決して一人で抱え込まず、周囲の人や専門家に頼り、無理のない支援体制を整えましょう。
参考資料
- 厚生労働省「認知症ケア法-認知症の理解」
- 橋本衛「認知症の妄想」