アングル:稼ぎより自分の時間優先、将来悲観する中国の「寝そべり族」

Nicoco Chan

[上海 15日 ロイター] - 中国では経済の停滞に伴い、若者は就職や労働を通じた将来の見通しがききにくくなっている。そうした中で、チュー・イさん(23)が選んだ道は「寝そべり族」。自分が楽しめる時間を過ごすのに必要なだけの稼ぎを得るため、最低限しか働かない人々のことだ。

チューさんはかつてアパレル関係の会社に勤めていたが、2年前に退職した。頻繁に残業しなければならない上、上司が嫌いだったからという。

今は在宅で旅行会社の仕事を週1日こなすだけ。そのおかげで、フルタイムのタトゥーアーティストになるための半年の見習いに入り、たっぷり練習できる時間を確保している。

寝そべり族はチューさんだけではない。どれだけの若者が従来のような会社勤めを放棄したのか、統計はないものの、マクロ経済がなお新型コロナウイルスのパンデミック前の成長軌道に戻れず、大学新卒者の間からは収入を得るために就職口で妥協を強いられたとの声が聞かれる中で、昨年6月時点でも若者の失業率は21.3%と過去最悪に達していた。

「私にとって、働くことに大きな意味はない」とチューさんは言う。「大部分は上司のために仕事をやり遂げ、上司が喜ぶだけのように思える。だから(必死に)働かないと決めた」

中国でチューさんのように1995年から2010年に生まれた約2億8000万人の「Z世代」は、あらゆる年齢層で最も悲観的だ。

この半世紀近くで成長率が最低圏に落ち込んだ今、習近平体制にとってはZ世代の不安をいかに和らげるかが重要な政策課題になっている。1月には人力資源・社会保障省が、今年は特に若者の雇用を増やす取り組みの強化が必要だと訴えた。

米ミシガン大学で社会学助教を務めるチョウ・ユン氏は、一部の若者は会社で出世するための激しい競争から進んで身を引いたように思えるが、彼らの将来に対する悲観主義を見過ごすことはできないと強調する。

チョウ氏は、中国では経済が減速し、労働市場は逼迫(ひっぱく)したままだと指摘。「社会格差が固定化され、政治的な統制強化が進み、経済の先行き期待が持てない今の中国は若者らにとって非常に生きづらくなっている」との見方を示した。

これら全ての要素が重なった結果、チューさんのような若者は自分の幸福や興味を充実させることを、会社で働くという「終わりなきプレッシャー」よりも大事に考えるようになった。

実際チューさんは、以前よりずっと幸せを感じており、自らの選択には「価値がある」と信じている。

「私の今の給料は、多いとは言えないが、毎日の生活費を賄える。自由な時間は、数千元のお金よりもはるかに貴い」。チューさんはそう話した。

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