「やはり上のレベルに挑んでいきたい」日本女子のエース日比野菜緒が示す世界での戦い方と後進たちへの教示<SMASH>

「やっぱりここ来てみたら、全然テニスが違うんですね、WTA125に出ている選手たちと。上に行くんだったら、やっぱりここの選手たちに勝っていかないといけないって」

にじみ出る思いを言葉に置き換えるかのように、日比野菜緒がそう言ったのは、先日閉幕したカタール・オープンでのことだった。

四大大会の全豪オープン後の日比野は、WTA250のタイ・オープンに続き、WTA125のムンバイオープンに出場。その翌週は、WTA1000のカタール・オープンに予選から挑んだ。

現在の日比野のシングルスランキングは、93位。WTA250カテゴリーなら高確率で本戦から出られるが、それより上のレベルだと、予選からになる可能性が高い。ツアーの予選から挑戦するか、それともチャレンジャー(WTA125)やさらに下部ツアーであるITF大会に出るかは、判断が難しい立ち位置である。

この1カ月の間に、3つの異なるカテゴリーを経験した日比野は、タイでは初戦を突破し2回戦敗退。インドでは、試合前日に食あたりに見舞われる不運もあり、初戦で惜敗。「こんなことなら、アブダビ(WTA1000)の予選に行けば良かったな」と、思わず苦い笑みをこぼした。
小さな悔いも抱えながら挑んだカタールでは、予選の初戦で、本玉真唯と対戦。昨年9月の東レパンパシフィックオープンで負けていただけに、「一番、当たりたくない相手だった」と打ち明ける。

その試合に快勝した日比野は、2回戦では68位のティメア・バボスに競り勝った。本戦初戦では32位のマグダ・リネッテに敗れるも、「自分が上回っている点も多い」と感じたという。

「トップ10となってくるとまたレベルが一つ違うけれど、トップ50なら、全体を見渡しても私が劣っていると感じることもない。結果として(リネッテに)負けたけれど、トップ50になら自分も行けるのではと感じました」

グランドスラムに次ぐハイカテゴリーの大会に出て、改めて得た手応え。それら一連の経験も踏まえ、「やはり、上のレベルに挑んでいきたい」と日比野は明言した。

「次はドバイに行き、その後もインディアンウェルズ(BNPパリバ・オープン)と、マイアミ・オープンに予選から行きます。その後は、安藤証券オープンと岐阜のITF10万ドルに行こうかという思いもあったんです。でも今回ここ(カタール)に来てみて、そっちじゃないなって。トップ70を目指すなら、ITFに行っても良いかもしれない。でもトップ50より上を目指すんだったら、マドリードとローマ(いずれもWTA1000 )に、予選からでもチャレンジしていくべきかなと感じています」
同時に、現時点の日本女子ナンバー1にして、唯一のトップ100プレーヤーでもある日比野は、後進たちにも「挑戦」を望んだ。

「日本の選手も、もっとWTA(ツアー)に挑戦したら良いのになって思います。最近は本玉さんが上に出ていますが、(坂詰)姫野ちゃんや(内島)萌夏ちゃんも、それこそもっとトライしていってもいいんじゃないかなと。

いくらITFでポイントを稼いでいても、結局はツアーで戦って勝っていかないといけない。ツアーに挑戦していれば、ワイルドカードに当たったり、ラッキールーザーで上がれたりというチャンスが巡ってくることもある。なのでもっと、みんな怖がらずに挑戦してほしいですね」

そんな思いの原点には、日比野自身が若手だった頃に、先達の背を追ってきた経験がある。

彼女の場合、最も身近なパイオニアは、昨年引退した土居美咲と、そのコーチのクリス・ザハルカだったという。

「20代前半の頃、私が一度、インディアンウェルズの予選に出られるランキングだったのに、裏の中国のITF6万ドルや8万ドルの大会に出たことがあったんです。その時にクリスから『そんな回り方をしていたら、トップになれないよ』と言われて、なるほどと思ったんです。実際に美咲ちゃんがそういう(上の大会に出る)回り方をしていたので、お手本にしたというのはありますね」
かつて土居らが果たしてくれたそれらの役割を、今度は自分が担っていきたいとの思いも、今の日比野にはあるようだ。

「今思えば、美咲ちゃんたちの存在はありがたかったなって。今、本玉ちゃんがこうやって出てくれると、やっぱり私も先輩として負けたくないとか、彼女が頑張ってるから自分も頑張ろうって思えるんです。身近に日本人がいた方が、年齢は関係なく切磋琢磨できるのかなって思います」

カタール・オープン後、自信を携え向かった現在開催中のドバイ・オープン(WTA1000)で、日比野は予選を突破し本戦の切符を勝ち取っている。

若手の先鋒だった彼女も29歳を迎え、年齢でもランキングでも、日本テニス界を牽引する立場に立った。その背を後進に示しつつ、かつての自分を越えに行く。

現地取材・文●内田暁

© 日本スポーツ企画出版社