自宅マンションの買い替えを検討する退職金2,300万円の60歳男性「高値で売り抜け」ひと安心…査定額を高めた「不動産会社の助言」【専門家が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

生活環境の変化などで「住み替え」を検討したとき、所有している物件を“1円でも高く売りたい”と考えるのは当然でしょう。そこで今回、分譲マンションを高値で売却するポイントについて、『60歳からのマンション学』(講談社)より、著者の日下部理絵氏が事例をもとに解説します。

【物件概要と登場人物の紹介】

物件概要……3LDK86.42m/12階建て7階/築22年45戸/最寄り駅徒歩10分
資金概要……住宅ローン返済中
家族構成……夫58歳※年齢は買い替え検討開始時、妻56歳の2人暮らし、別居の子供2人(長男28歳、長女26歳)

【あらすじ】

2人の子どもたちも独立し、「夫婦2人で住むには広すぎるから」とマンションの買い替えを検討していた加藤圭司(仮名・58歳)・陽子(仮名・56歳)夫妻。しかし、ひょんなことからマンション管理組合の「副理事長」に就任することに。理事会では、「管理費等長期滞納者」や「2度目の大規模修繕」など、問題が山積み。加藤氏は、この問題にどう立ち向かうのか……。

築22年のマンションは、あちこちに傷みが…

タイルの浮きやクラック(ひび割れ)、コンクリが白くなる「白華現象」がみられた

第2回理事会では、管理事務報告と収支報告のあと、管理会社の建築設備の専門部署に所属する一級建築士より、建物の傷み具合について説明があった。建物の向きによって、傷み具合は違うようだが、外壁のクラック、タイルの浮きや汚れ、白華現象などが見られるという。

クラックとは、建物の外壁や内壁、基礎などにできる亀裂やヒビ割れのことで、そこから雨水などが入り込むと、鉄筋腐食や軀体(建物を支える構造部材)の損傷につながりやすいそうだ。

タイルの浮きを放置すると、内側のモルタルなどを損傷させ、外壁全体の耐久性が落ちかねないそう。万が一、タイルが落下した場合は、通行人にケガをさせることもあるという。「早急ではないが、数年以内に予防保全として、大規模修繕をおすすめします」とのことだ。

また給排水管については、「一度、管内の様子を専門調査したほうがいいです」とすすめられた。管内にカメラを入れたり、配管の一部を抜き出して行う抜管調査などを行い、さびによる配管の詰まりや、腐食による穴あきなど劣化状況を確認するという。

ほかには2回目の大規模修繕で一斉にインターフォンを変えるマンションもあり、一般的には15年程度が交換の目安といわれているので、各住戸にアンケートなどで意向を聞いて決定してもいいのではと提案された。

「大規模修繕」は、回数を経るほどお金がかかる

すかさず、フロント担当者から、

「大規模修繕は、一般的に1回目より2回目、2回目より3回目のほうが費用がかかると言われています。特に3回目は工事内容にもよりますが、2回目の約1・5倍かかるともいわれています。2回目の大規模修繕に向けては、実施する工事内容にもよりますが、マンションの収支状況をみると、いまのところ大幅な値上げや一時金の徴収なく実施できるかと思います。ただし、滞納者が増えてしまうと、帳簿上での金額と実際の金額に乖離が出てしまうことがあります」

との説明があった。

「いま売る」or「修繕後に売る」…思ったより高い査定価格に揺らぐ心

一方、加藤家も新たな動きがあった。訪問査定による査定価格が出たのだが、思ったよりも高い価格であった。新築マンションの価格高騰により、中古マンションの人気が高まり需要があるからだそうだ。

毎月15万円をコツコツ返済も…いまだ「1,800万円」残るローン

それよりショックだったのは、住宅ローンの残高だ。加藤家のマンションは、購入価格4,500万円、頭金は1,000万円、借り入れ金3500万円。将来のことを考え35年間の固定金利4%を選択、以来22年間、毎月15万円を滞納せずコツコツ返してきた。

手堅く借り入れしたつもりだったが、いまだ半額近い1800万円ほどの残債があるという。それは固定金利が4%と高かったこと、元利均等返済方式を選んでいたのが良くなかったようだ。

返済の内訳をみると、借りた当初の元金は3万8,000円ほどで残り約11万円あまりは利息分、当初は利息ばかり返していたようだ。3,500万円の借り入れに対して利息は約3,000万円かかり、返済総額は6,500万円以上というから驚きしかない。

圭司さんは定年間近…「修繕後の買い替え」を目標に、夫婦が立てたプラン

マンション価格の高騰により、いま売却すれば、幸いにも残債より高く売れそうである。不動産会社へ支払う仲介手数料などを引いても手元に1,000万円以上は残りそうだ。住宅ローン残債があると売却できないと思っていたが、残債があっても残債より高く売れるか、残債を補填できるなら売却することができるという。

圭司さんの58歳という歳を考えると、定年後の再雇用を入れてもいまの会社の制度では、働けるのは10年以下。売却後の住まい、買い替える際の住宅ローンは借りられるのか、老後資金は大丈夫なのかという不安がよぎった。

不動産会社に聞くと、中古マンションの価格は、社会情勢や物件にもよるそうだが、築15年ほどまでの下落率が大きく、変動が小さい時期を経て、築30年ほどで下げ止まるそうだ。自宅マンションはすでに築15年を超えているため、一般的に数年程度だとあまり査定額は変わらず、むしろ大規模修繕を検討中なら修繕後のほうが高くなる可能性があるという。

また、いまはマンション・バブル中で、売却するなら高値で取り引きできるチャンスだという。そこで夫婦で相談した結果、3つの目標を立てた。

①数年後の大規模修繕工事が終わった直後に売却できるよう準備。情報収集に努める。

②60歳の定年後には、できるだけ良い条件で再雇用を目指す。退職金は買い替える物件の頭金にあてる。

③バブル期ではあるが、すぐには売らず数年間はなるべく繰り上げ返済をする。

実際コロナ禍で行けなかった両行の費用分を繰り上げ返済に回すことができた。目標ができると不思議と人生に張り合いが出るものだ。陽子さんは元気ないまのうちにと近くのスーパーで働き出した。しかも、健康のため、2人でウォーキングすることが日課となった。

紆余曲折あったが…「大規模修繕」のおかげで3年前より高値に

2年後、定年を迎えた。以前の給料の6掛けにはなったが、無事に圭司さんの再雇用も決まった。また退職金は約2,300万円であった。

2回目の大規模修繕については、2年間の役員任期中には、話がまとまらなかった。腐食が確認された給水管について、既存配管の内側の錆を落として塗膜でライニングし延命させる「更生工事」を行うのか、高性能ポリエチレン管やステンレス管など最新技術の新しい配管に取り替える「更新工事」を行うのか、理事会として結論が出なかったからだ。

ただし、任期中にいいこともあった。長期滞納され裁判により分割払いになっていた部屋が売却され、滞納が解消された。これで管理組合の会計収支に影響を与えるほどの目立った滞納者はいなくなった。

大規模修繕については、次の役員の任期中に臨時総会が開催され、無事に承認された。長期滞納者がおらず、一時金などの徴収がなかったのもスムーズに承認された要因であろう。結局、大規模修繕の検討から工事完了まで、3年ほどかかったが、マンションは見違えるほどキレイになった。

査定額は3年前より100万円アップ…すぐに売却が決まり、2人は新築マンションへ

大規模修繕が終わってすぐに、不動産会社と媒介契約を締結し売却活動をスタートさせた。3年前の査定額より、築年数が古くなったにもかかわらず、査定額は100万円ほどアップした。一方、ローン残債は、約3年にわたる毎月の返済と繰り上げ返済により、約1,800万円から1,000万円になった。

まもなくして、小さい2人の子供がいる30代の夫婦に売却が決まった。駅からは少し遠いが部屋の広さと共用部分のキレイさが決め手だったそうだ。内装は購入後に最新設備などに入れ替えるリノベーションを行うという。

売却代金からローン残債と仲介手数料を引いた2,500万円と退職金から1,800万円(500万円は取得税や保険料などの諸費用とイザという時のために手元に残した)をあわせた4,300万円を頭金に、駅から徒歩5分、2LDK53mの5,100万円の新築マンションへ買い替えをした。

反省を踏まえ、ローンは「元利均等返済方式」→「元金均等返済方式」に

キャッシュでもギリギリ買えそうだったが、残りの800万円は住宅ローンを組んだ。借り入れ時年齢61歳、完済年齢は70歳。

今回は変動金利にしたが、金利は以前借りた時の約10分の1であった。また再雇用が確実で元気なうちにより多く返したいため、今回は「元金均等返済方式」にしたが、それでも毎月の返済額は約7万5,000円といままでの約半分である。内訳も利息は毎月数千円程度で金利が安いというのはありがたいものだと感じる。

望んだわけではなかったが…振り返れば「50代で理事になってよかった」

当面、住宅ローンがあるのは不安だが、高値で売却できたこと、金利が安かったこと、買い手が見つかったことなど、加藤さん夫婦はとても恵まれていた。しかも手元に資金を残しておきたい、生活の質は落としたくないという願いもかなえることができた。

何よりあのまま住み続けて、70代で3回目の大規模修繕を迎えるとなるとゾッとする。そういう意味では、あの時期に理事になれたのはとても良かったと圭司さんは思う。マンションは、個々の懐と管理組合の懐、両方が大事なのだと学んだ。

それに、駅からの利便性が良くなると、立ち寄りやすいのか、親が心配になったからなのか、子供たちが頻繁に顔を出すようになったのは2人にとっての嬉しい副産物であった。

ここ数年、何かとお金と向き合うことが多かったが、気力・体力・お金があるうちに駅近の新築マンションに買い替えられ、本当に良かったと圭司さんは思っている。

日下部 理絵
マンショントレンド評論家
オフィス・日下部 代表

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