アイアンの「ストロングロフト化」は本当か?/女子プロクラブ考VOL.6

7番アイアンのロフト角、把握していますか?

昨年の秋口に大々的な女子プロのクラブ調査を行ったが、彼女たちがどんなクラブを使い、どんなスペックで戦っているのかは、同じヘッドスピード帯の我々(男子アマ)のクラブ選びに大いに参考になるだろう。膨大なデータを元に、女子プロのクラブの傾向をギアマニアが分析・検証していく。6回目はアイアンのロフトについて。

みなさん自分の7番アイアンのロフト角知っていますか?

そもそも「ロフト角」とは何を指すか、ご存知だろうか?ロフト角はシャフトを垂直にセットして計測する。垂直にしたシャフトの中心線に対してのフェース面の角度をロフト角と呼ぶ。ロフト角が大きいとボールの打ち出しが上がり、スピン量は増える。ロフト角が小さいとボールの打ち出しは下がり、スピン量は減る。つまりボールの高さに一番影響する角度ということ。「ロフト角が○度=○番アイアンと表示する」といったような規格、業界内の密約など一切無い。メーカーがロフト角に関係なく、各番手の数字を決めているのが現状だ。

市販されるアイアンのロフト角を調べると、40年前は7番アイアンが36度前後、20年前では34度前後と推移していたが、ここ10年でロフト角の立った飛び系アイアンがヒットし、ストロングロフト化が一気に加速。現在では30度ぐらいが標準となり、昔に比べて2番手ぐらい小さくなった。アスリート向けアイアンに関しても34度前後が一般的だったが、こちらもストロング化が進んでいる。自分のアイアンのロフトが分からない方は、一度調べてみてほしい。

一番人気は 7 番で 31度前後のアイアン ややストロング化傾向

7番アイアンのロフト角 32度前後が半数以上という結果に

では、女子プロのロフト角はどうなっているのか?調査の結果、7番で30~32度のロフト角を使っている選手が38人中21人と半数以上いて、ややストロング化傾向が進んだ。さらに市販のアイアンの中でも人気のあるモデルを使う選手が多かった。ちなみに国内男子ツアーはマッスルバックを使う選手も多い分、7番のロフト角の主流は33度前後とやや大きい。

ロフト角31度前後が今や7番のスタンダードロフトと言えるかもしれない。選択肢も多く、極端にロフト角が小さいわけではないので飛び過ぎるということもなく、番手別の飛距離の階段もイメージしやすい。彼女たちに人気があるモデルに共通するのは、軟鉄鍛造ボディでヘッドサイズは大きめ、ライ角とロフト角を調整できるキャビティが深めのモデルが多い。フェースは軟鉄ではないものも多いが、弾く打感にならないように工夫されている。

人気は櫻井心那らが使うダンロップ「スリクソン ZX5 Mk II」(7I/31度)、吉田優利などが使うブリヂストン「221CB」(7I/32度)など、アスリート向けとしてはややロフト角が小さめで、ある程度飛距離も意識したモデル。「飛び、コントロール、構えやすい」と三拍子が揃っており、アマチュアにもオススメのモデルだ。

飛び系アイアン使っている選手はいるのか?

菊地絵理香はタイトリスト「T350」(7I/29度) を使用

いわゆる「飛び系アイアン」とは、ロフト角を小さくして飛距離を出すコンセプト。クラブ長も通常より長く、ロフト角が小さくてもボールが上がるように低重心化してあるのが一般的。さらにフェースを薄くして反発を出し、飛距離アップを狙っている。今回調査した38人中で、最もロフトが小さかったのは金田久美子の27度(ステルスグローレアイアン)。

他にもロフト角が小さい選手を探してみると、7番アイアンでロフト角30度未満の選手は、西村優菜「X FORGED STAR」(7I/29度)、菊地絵理香「T350」(7I/29度)など38人中5人のみ。彼女たちの特徴は、「飛び系の中でもロフト角は大きめ」ということ。ロフト角が小さいとスピン量は落ち、ボールが止めにくい弾道になる。ツアーのセッティングでもボールを止められるギリギリのロフト角を見極めているようだ。また、ソール幅を広くしたり、比重の重いタングステンなどで低重心化したりして、ボールの上がりにくさをカバーしているのも見逃せない。

勝みなみは唯一のマッスルバックユーザー

一方で、7番アイアンが33度以上の選手は38人中12人。男子プロにも人気があるようなハードモデルを選ぶ選手が意外と多い。33度以上のアイアンは、フェースが肉厚かつしっかりとした打感で、コントロール性能の高いモデルがほとんど。中にはマッスルバックを選ぶ選手もいた。ロフト角が大きいとスピン量も増えるので、硬いグリーンでもボールをしっかり止めることが出来る。

勝みなみはマッスルバックタイプの「スリクソン Z-フォージド II アイアン」(33度)を使用

勝みなみは、今回調べた選手の中で唯一のマッスルバック使用者(ダンロップ「スリクソン Z-フォージド II アイアン」(7I/33度)。国内より更にハードな米ツアーを主戦場にしている勝にとって、スピンコントロールのできるヘッドは大きな武器になっているだろう。

ロフト角が大きいアイアンは飛ばないがメリットもある

アマチュアがロフト角33度以上のアイアンを使うことは、メリットがある。ボールを上げやすいし、バックスピン量も増える。打ったボールが落下する時の角度を落下角度(ランディングアングル)と呼ぶが、この角度が大きくなることで、グリーン上でボールを止めやすくなる。プロがアイアンを選ぶ際、この落下角度を重視するようになってきているのも事実。弾道計測器が普及し、数値として止めやすさが分かるようになった事も要因の一つだろう。

この落下角度、PGAツアーではグリーンを狙う際に50度以上が必要とされている。我々アマチュアがプレーする一般営業のグリーンだとどうか。落下角40度以上あれば、グリーン上で止めることができるだろう。フィッティングでも落下角度が重視する傾向にある。基本的にはグリーン上のポイントを狙うことが求められるアイアンには、「飛ばすこと」より「止めること」の価値にもっと目を向けて欲しい。(文・田島基晴)

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