『FF7 リメイク』のモブや広告から見えてくるミッドガルの恐るべき社会状況と文化─本当にプレート上層は裕福で幸せなのか【特集】

『FF7 リメイク』のモブや広告から見えてくるミッドガルの恐るべき社会状況と文化─本当にプレート上層は裕福で幸せなのか【特集】

※本記事は、2020年4月26日に公開した内容を再構成しています。

2月29日の発売を予定している『FINAL FANTASY VII REBIRTH(FF7 リバース)』。同作は、1997年発売のオリジナル版『ファイナルファンタジーVll』を3部作でリメイクするプロジェクトの2作目に位置付けられています。

リメイクによって、世界観を表現するありとあらゆる要素のディテールが作り込まれるようになりました。では前作『FINAL FANTASY VII REMAKE(FF7 リメイク)』の細やかなディテールから、どのような社会状況や文化が垣間見えるでしょうか? そこにはオリジナル版よりも生々しく、恐るべき状況が広がっているのです。

本記事には半分くらい妄想が含まれていますが、「そういう風に世界観の広がりを想像させる作りこみがある」ということでよろしくお願いします。また『FF7 リメイク』のネタバレを数多く含んでおります。特に後半はクリア後推奨の内容があります。ご注意ください。

プレートの上層部と下層のスラムからうかがえる社会状況

まずは「ミッドガルの社会状況はどのように捉えられるか?」という点についてご紹介しましょう。

オリジナル版ではクラウドやエアリスたち主人公がクローズアップされがちで、あまり社会状況については分かりませんでした。しかし『FF7 リメイク』では、名もなき人々ひとりひとりに注目することで、様々なミッドガルの姿が浮かび上がってきます。

◆神羅社員になれば富裕層というわけではない?

アバランチが魔晄炉爆破を成功させた後、列車へ乗り込んだ際に神羅社員と出会うシーンがあります。

オリジナル版では些細だったこのシーン。しかし『FF7 リメイク』の神羅社員はわずかな登場ながらも、ミッドガルの複雑な社会状況を想像させる人物へと仕上がっています。

ミッドガルではプレートの上層部と下層部とで経済格差が圧倒的に広がっているというのが、オリジナル板での基本的な社会状況の認識でした。ということは、ミッドガルを統べる神羅の社員になれたのであれば、富裕層になれる足がかりになったのではないか? と、私は思うわけです。

ところがアバランチのみんなと同様、電車内の神羅社員たちもプレート下層部のスラムの駅へ降りてくるではありませんか。なんと彼らもスラムに暮らしているのです。どういうことでしょうか? オリジナル版ではまだローポリゴンで漫画的だったからスルーできた描写でしたが、『FF7 リメイク』では不思議な印象が残ります。

スラムにはモンスターも生息していますし、ひどい環境であることは確か。神羅に就職したとしても、プレート下層で暮らさざるを得ないという状況がうかがえます。皆さんは一流企業に就職が決まったら、治安も環境も最悪な場所に住み続けますか? すぐさま引っ越しますよね。

彼らは「神羅魂」なんて威勢よく言っているので、ネームバリューや企業理念にほだされ、就職時にかなり低賃金な契約内容でサインしてしまったのでしょうか。でなければスラムで暮らしている理由の説明がつきませんからね。実際、社員たちは「プレート上に引っ越したい。でもこの給料じゃ無理」と言っていますし。

現実世界におけるスラム街の暮らしは、地域によりますが働いたとしても一日1,000円前後しか貰えないそうです。月給に換算すればおよそ2~3万円。そんなリアルを想像すると、神羅のような大企業に採用されたのであれば例え低賃金だとしても、舞い上がるのも無理はありません。スラムに住む他の住人よりは、きっと稼げてるでしょうからね。

とはいえ、神羅社員のように世界を支配する企業に就職しながらも、プレート下でスラム生活をしている層が存在するのか。続いて、その理由も考察していきます。

◆プレートの上層部もどうやら富裕層ではない

プレート上層で暮らす人々は、みんなタワーマンションや高級住宅街に暮らしているような人々なのだろうなあ、とオリジナル版を遊んでいた当時は想像していました。しかし『FF7 リメイク』をプレイしたところ、残念ながらそうとは言い切れないようです。

プレート上層の環境は、オリジナル版では壱番魔晄炉、八番街、神羅ビル本社しか描かれていませんでした。『FF7 リメイク』ではそれらに加え、オープニングムービーにて街の様子が見受けられるほか、七番街のプレート上層へ向かうイベントが追加されています。

その七番街プレート上層を見ると、どうやら決して富裕層とは言えないことが発覚。神羅の社員区画住が広がっていますが、派手な暮らしがあるようには見えません。概ね中産階級の暮らしであるといえるでしょう。

あるイベントでは住宅のひとつに入ることになります。そこではなんとベッドに横たわり、医療機器に繋がれている人がいるではありませんか。

情報を集めると、どうやら魔晄炉の作業員だったとのこと。それが勤務中の事故で寝たきりになってしまったそう。ということは、この暮らしはとんでもなく危険な仕事に従事している人間がなんとか得たものである、ということが見えてくるのです。

さらに住宅街を見渡すと、神羅兵を募集する看板もあります。神羅カンパニーは兵士をスラム街からではなく、中産階級に属している人々から雇用しようと考えているのでしょうか。

前述の神羅社員はスラム暮らしでありながら本社で勤務しているのに対し、中産階級であるプレート上層の住人が魔晄炉作業員や神羅兵といった、危険な仕事に関わっている可能性が垣間見えるわけです

スラムにはアバランチのような反体制思想を持つ人間がいるから、兵士や魔晄炉に関わる仕事には雇用できない。しかし、スラムから抜け出したい、成り上がりたいという野心も同様に持ち合わせているだろうから、その心の隙を突くかたちで低賃金で雇用する。

反対に、神羅の関係者として中産階級になった人間は本社に従順な可能性も高く、兵隊や魔晄炉作業員として雇用しやすい。そんな社会状況が見えてくるのではないでしょうか。

◆神羅本社にアバランチと協力していいと考える人間がいてもおかしくない

ストーリーが進むと七番街のプレートは落とされ、中産階級~貧困層が一度に抹殺されてしまう展開となります。神羅カンパニーの公式声明ではアバランチの仕業であるとされていますが、ある程度リテラシーのある人間であれば「神羅カンパニーがプレートを落としたのでは…?」と考える可能性もあるでしょう。

クラウドたちが神羅ビルに侵入するシーンまで進めると、裏で協力してくれる社員に出会います。しかしなぜ彼は危険なテロリストに手を貸してくれるのでしょうか?

前述の通り、神羅社員の中にはスラム出身の人々もおり、貧困層の暮らしも当然知っています。そこから出世するなどしてプレート上層に引っ越せたとしても、せいぜい中産階級止まりでしょうし、状況によってはプレートを落とされた七番街のように会社の都合で切り捨てられるということも、なんとなく感じ取ってはいるでしょう。

そんな現実を目の当たりにしたのならば、暗に造反を考えている社員がひとりやふたり生まれるのも、おかしくはありません。

広告から見えてくるミッドガルの文化

『FF7 リメイク』ではミッドガルの至る場所で広告が見受けられます。オリジナル版では映画「LOVELESS」の広告が印象深かったですが、本作ではより多様になっているのです。そんな広告からも、ミッドガルの文化を考察してみましょう。

◆ミッドガルの美術に貢献しているらしいコルネオ

『FF7 リメイク』の印象深い小悪党といえば、ウォールマーケットのボスであるドン・コルネオですよね。オリジナル版ではスケベジジイ以外にあまり印象が無かったのですが、『FF7 リメイク』ではハイクオリティなキャラデザインとなり、嫁選びイベントもアダルトビデオの中年男優のように気色悪さが増したキャラとなっています。なにせ腹揺れまでありますからね。

ところが、街を眺めてみると「単なるスケベジジイではないのかも?」と思わせる広告がチラホラ。壱番街魔晄炉近くの駅では「古留根尾美術」のポスターが貼られているのですが、そこからコルネオがなんらかの美術に関わっていることがわかるのです。

広告の情報のみでは、美術展か美術商なのかはわからないのですが、いずれにせよミッドガルになんらかの文化貢献をしていることはうかがえます。アダルトビデオで気持ち悪い演技をする中年男優が、プライベートでは極めて紳士な姿を見せるような二面性が垣間見えます。

しかしコルネオの審美眼は確かなものでしょうか? 彼の屋敷に置かれたいくつかのものを見ると、到底まともな美意識があるとは考えにくいのです。オリジナル版で印象深かった「ぷう」の置物も、最新のグラフィックで生まれ変わっていますが、脱力感も相当パワーアップしています。まさか、彼が言う“美術”とは、こんなのばかりなのでしょうか?

「もしかしたら、美術の主流となるのは陶器などの骨董品なのかな」とも考えるのですが、ツボの上にはいろんなものが乗せられていますし、保存状態は最悪。

コルネオ美術の広告は壱番街プレート上層にあったため、おそらく中産階級以上の住民に向けているのは確かですが、おそらくみんな騙されてます。すいません、先ほど「小悪党であるコルネオの二面性」と書きましたが、ミッドガルの文化を腐らせる大悪党の可能性も見えてきました。

◆本屋大賞がある!? ミッドガル世界の出版状況

『FF7 リメイク』の電車内を見渡していて、驚いたのはこの広告。「ラストフライト」という小説がベストセラーになっているようで、20万部以上売れていると宣伝しています。著者はチヅル・ギャッビアーニ。「本屋さんが選んだ泣ける小説第位!」とのことですが、まず、ミッドガルに本屋大賞が存在するという時点で驚きです。

しかしベストセラーとのことですが、一体どこに本屋があるのでしょうか? 少なくとも七番街や伍番街のスラムには、まったく本屋の影も形もありません。あるのは飲食店か武器屋ばかり。周囲にモンスターが生息するなどの過酷な環境が、プレート下層住人の読書離れを生み出したのでしょうか。

本屋はおそらくプレート上層に集中しているということでしょう。「ラストフライト」もそこで販売されているはず。

とはいえプレート下層にまったく本屋がないわけではありません。少なくとも、ウォールマーケットには「千年堂」があります。しかし古書店なので、新刊は仕入れていないのかも。

おそらくプレート上層で販売された本が、ここに流れ着いているのでしょう。「エリクサーをクリアまで溜めこむ人間は終わっている」みたいな、読者を無駄に煽るビジネス本もあったりして。

◆神羅の音楽文化~ある演歌歌手の一生~

一方、プレート下層でも音楽文化は盛んのようです。街のあちこちでレコードが流れていたり、武器・防具屋がジャズアレンジされたレコードを販売していたりするほか、ウォールマーケット「蜜蜂の館」でも素晴らしい音楽とダンスが提供されています。

現実でも貧困層のいる地域から、ヒップホップをはじめ魅力的な音楽が誕生していますね。ですがここで取り上げたいのは、音楽の裏街道をいく、ある歌手のことです。

その男はAKILAさん。ウォールマーケットに広告を貼っており、居酒屋のカラオケで営業活動を行う、SHINRA RECORD所属の売れない歌手です。

彼の持ち歌は「ミッドガル・ブルース」。キャッチフレーズは「己の魔晄を熱く燃やし、大都会の悲哀を唄う」と、実質的に神羅の提灯持ち以外に考えられないのですが、売れていないようなのです。

ここまで神羅カンパニーにすり寄る歌を唄いながら、プレート下層で営業しているとはどういうことでしょうか? 「こんな提灯持ちの歌なんて聴いてられるか!」とさすがの音楽ファンもそっぽを向いたということでしょうか。

逆にAKILAさんのバックを考えると、神羅カンパニーがプッシュしてもおかしくはない気もしますが…。「魔晄にはお金を出すが、文化にはお金を出さない」という思想があるのでしょうか。しかしコルネオとは関係していますし、先述の「古留根尾美術」に神羅カンパニーが協賛している可能性は高いでしょう。まあ、美術が色々と酷いことになっていますし、音楽に関わりすぎていないだけマシかもしれません。

そんなAKILAさんですが、どうやら格闘技が好きな模様。ウォールマーケットの地下闘技場で勝利を重ねていると、なんと大きな花輪を送ってきてくれます。「お前はそんな大物か?」と思うほど他の花輪を圧倒しているのですが、演歌歌手としての見栄なのかもしれません。「あなたが花輪を送られる側としてがんばってくれ」というほかないじゃないですか。

オリジナル版から違いすぎるITの環境

※ここから『FF7 リメイク』の特に重要な要素に触れています。未クリアの方は注意してください!
オリジナル版は1997年にリリースされた当時、パソコンが並んだオフィスやPHSという当時の携帯電話を登場させました。その後、2005年にリリースされた映像作品『ファイナルファンタジーVll アドベントチルドレン』では、キャラクターがガラケーで連絡をしあう様子も。各時代に合わせてテクノロジーの姿を変えています。

そしてオリジナル版の発売から、20年以上。『FF7 リメイク』では、PHSやガラケーの姿は消えました。そこから『FF7 リメイク』に囁かれている並行世界説の可能性を見だしていきます。

◆神羅社員、当たり前にスマートフォンを使う

オリジナル版では仲間とパーティを切り替える際、PHSで連絡を取り合うという形をとりました。この仕掛けによって「ああ、この世界は当たり前に通信インフラが整っているんだな」とも感じたものです。

それが『FF7 リメイク』ではどうでしょうか? PHSはまったく見当たりません。ガラケーなんて影も形もありません。当然のように神羅社員たちはスマートフォンを使って連絡しあっているではありませんか。

スマートフォンがあるということは、もしかしたらSNSも存在するのかもしれません。会社にバレないよう、猫やモーグリといった可愛い裏アカウントを作って文句を書いていたりして。

なお、スマートフォンはプレート下層では一切見当たらないため、神羅社員だけが使っているのかもしれません。現実世界では貧困層も使っていることは多く、そこから権力を持つ側へ抵抗する試みが見られるのですが、『FF7 リメイク』の世界ではそうした可能性が封じられています。というより、単にまだロンチしたばかりなだけかもしれません

◆PHS、 “運命の番人”を乗り越えて別物へ……

ではオリジナル版のPHSは過去のものとなり、忘れられたのでしょうか? いいえ、そうではありません。『FF7 リメイク』にも登場しています。ただし、まったく異なった姿で。

さてPHSはどこにあるのでしょうか。それは、神羅ビルの研究区域にあります。しかしその姿は、「PHS Terminal」と単純な職場内の連絡機器になってしまっていました。

筆者はオリジナル版を遊んだ当時、PHSで連絡しあうクラウドたちに、現代的な姿をみていたものでした。そんなPHSが、いち研究施設内の連絡機器に変えられた、あまりにもな “運命”を辿ったことから、『FF7 リメイク』で最重要な概念 “フィーラー”のことを考えてしまいました

フィーラーとは決められた運命通りに進行させようとする、灰色の亡霊のような概念です。『FF7 リメイク』はオープニングの時点でエアリスの花が通行人に踏まれる演出がありました。これまでの『FF7』全体の物語が変化していることを暗示しているように、オリジナル版から違う運命を歩む世界だと示しています。

フィーラーは『FF7 リメイク』がオリジナル版から変わろうとすると、クラウドたちの運命を修正しようと向かってくる、というのが本作で重要なポイントになっています。ですが逆にいえば、オリジナル版から大きく変わっている部分は「フィーラーが運命が変わっても許している部分」とも解釈できます。

バレットがサングラスをかける、ティファがインナーと二―ハイソックスを着るという運命の変化は「まあいいか」とフィーラーたちは許しています。携帯電話がスマートフォンになったり、パソコンがすべて最新型になっていたりするのもスルー。しかし、ジェシーが独特なデザインの鎧を着る運命は変えさせないというムラもあります。

そこからわかることは、たぶん「フィーラーは全員、テクノロジー関連が難しくてわからないのでこの運命の変化はスルー」ということです。クラウドたちはフィーラーたちに直接立ち向かうことで、これまでの運命から脱しようとするのですが、どうやらテクノロジーに関してはさらりと運命を超えている模様です。いや、だからといってPHSが単なる職場の連絡機器になることはないじゃないですか。


これだけではなく、まだまだ紹介しきれていない広告やモブはたくさんあります。広告があるということは、その企業や産業がミッドガルのどこかにあるということですし、あるモブがいれば、そこに何らかの社会状況を見出すことができるのです。

『FF7 リメイク』をクリアしたプレイヤーも多いはず。もし2周目をプレイするなら、ぜひ細やかな広告や人々に目を向けてみてください。そこからミッドガルに存在するであろう、隠された社会と文化が見えてくるでしょう。

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