介在犬への道のり ~動物介在教育~

こんにちは。内田友賀です。

マナーニが実施する小学校での動物介在教育には、一般の飼い主さんと愛犬が参加しています。

もちろん、事故防止や授業の質の向上のために一定のスキルが必要になりますので、特別な養成講座を修了した、ハンドラー(飼い主さん)と介在犬(愛犬)が参加しています。

私たちはそのペアを「UNIT(ユニット)」と呼んでいます。

今日は、養成講座を経て小学校での動物介在教育へのデビューを果たしたUNITをご紹介します♪

山本てぃなちゃんUNIT

(トイプードル)

ワクワクと不安からのスタート

「いつか、てぃなと一緒に人に喜んでもらえることをやりたい!」

そんな夢を描いていた山本さん。色々な団体を検索していたところ、マナーニを知りました。活動内容を見て「これが私のやりたいことだ!」と思い、入学を決意しました。

夢を叶えるため入学を決めたものの、てぃなちゃんに介在犬としての適性があるのか、そのレベルに到達できるのか、という一抹の不安が山本さんの脳裏をよぎります。

初回の講座は、飼い主だけが参加する「ヒューマンスキル・プログラム」。

これから共に活動することになるであろう、マナーニのスタッフや同期生との初対面でした。

いよいよ、本当に始まるんだ。

山本さんの思い描いていた夢が、一歩、実現に近づいた瞬間でした。

てぃなちゃんはもっと不安だった!?

2週間後の次の講座は、てぃなちゃんと一緒に参加する「ドッグスキル・プログラム」でした。どうか上手くいきますように、と祈るような気持ちで緊張して教室に入った山本さん。

「まずは、いつものようにコミュニケーションを取ってから、足元で犬を落ち着かせてください。」 そんな講師の投げかけも全て試験のように聞こえてしまう緊張感の中、山本さんの心境が伝わったのでしょうか。てぃなちゃんの不安もどんどん増してきます。

ねえママ、抱っこして! 抱っこして!

山本さんの足元で、ぴょんぴょんと“おねだり”をするてぃなちゃんと、動揺する山本さん。

そうなると、もう山本さんの声はてぃなちゃんには届きません。

「てぃな、ね、てぃな、オスワリ。あれ? どうしてだろう? 家では出来るのに。てぃなちゃん、ね、オスワリ。あれっ・・・どうしよう・・・」

こうして、てぃなちゃんからの「思わぬ最高のギフト」からスタートしたのです。

それこそ大切な、学び

「どうしてだろう? 家ではできるのに」というのが、実はとても大切なキーワードなのです。

犬にとって、初めての場所で他人の注目がある中、「飼い主さんの提案に応える」というのは簡単なことではありません。それは、「愛犬ができなかった」のではなくて「飼い主さんが、適切にアプローチができなかった」ことに大きな理由があります。

人と犬とのコミュニケーションを紐解いていくと、犬の行動学や心理学から見た理由があります。それを知らずに、多くの飼い主さんは感覚でやってみて「出来たつもり」になっていることが、実はたくさんあるのです。

愛犬の行動を丁寧に観察し、犬の行動学や心理学、そしてその愛犬が持っている個性や伝え方の特徴などから考えていくと、大きな気づきが生まれます。コミュニケーションは、まず相手(犬)を知ることから始まるのです。

これって、私たちが子どもたちに教えていることと同じ。

興味を持ち、理解を示し、心を合わせることを忘れてはいけません。

観察と実践を重ねて生まれた、新しいコミュニケーション

「SIT(オスワリ)のコマンドをして、出来たら褒めてみましょう」というテーマでも、数多くの観察ポイントがあります。

その一連の流れに対し、講師が細やかに質問をしていきます。愛犬の視線、座るまでの動きやタイミング、褒め方、指示を解除した後の愛犬の動きなど、「そんなことまで見てなかった!」というようなこともあります。

でも、講師は簡単に正解を教えません。問いかけを繰り返す中で、飼い主さんの観察力を高めていくのです。観察を重ねると、愛犬の小さな行動の意味が分かってくるのです。

そうすると、愛犬の行動を通じて心境を理解することができ、それに合わせた対応ができるようになります。

その瞬間、お互いに「通じた!」という感覚と自信が生まれるのです。

こうやって山本さんとてぃなちゃんは、毎回出される課題に対して、毎日コツコツと練習を重ねたのです。

いよいよ認定試験!

ついに成果を見せる日がやってきました。試験は実践と筆記。半年前に緊張して入ったのが、まるで昨日のようにも、ずっと昔のようにも感じます。

実践試験は、飼い主さんと愛犬の単独でのスキルチェックのほか、実際に小学生の子どもも参加し、授業の流れを行います。

「半年間、毎日頑張ってきた。楽しんで、やれるだけやろう!」

山本さんの顔に、笑顔と余裕が見えてきました。

一人ひとり、一頭一頭の個性を見たサポート

山本さんが養成講座で色々な困難を乗り越えた理由を、こう語ってくれました。

「一人ひとり、一頭一頭を見て、丁寧にアドバイスを頂けたことで、でぃなのできることがどんどん増えてきました。そうした変化を講師の方がちゃんと見てくれたことで、私自身にもてぃなにも自信が付いたんだと思います」

養成講座で何度も伝えていることがあります。それは「介在教育に参加することを、目的としない」ということ。介在教育は、あくまでも目標の1つであって、その先には必ず飼い主さんと愛犬の、より幸せな姿が見えないといけません。

養成講座を通じて愛犬との唯一無二の絆をつくっていく中で、「介在教育」という出来事が、より豊かにしてくれる。そんなポジションだと思っています。

待ちに待った「介在教育」デビュー

いよいよ、新UNITとして現場へ出る日がやってきました。

もう今日からは、練習ではありません。

山本さんの自信と喜びにあふれた様子をみたてぃなちゃんも、今までに見たことがないほど落ち着いた「お仕事モード」になっていました。

介在教育のなかで、飼い主さんたちは、一期一会で出会う子どもたちが、愛犬を通じて“犬”という生き物に心を開くとても尊い瞬間に出逢います。その時、子どもたちからの優しいまなざしと“愛情”という名のギフトを受け取るのです。

「活動を通じて、私と愛犬の絆の深まりを、より感じます。それと同時に、子どもたちの反応や気持ちにも変化がある事を感じると、私自身もハッピーな気持ちになります。」と語ってくれた山本さん。

山本てぃなUNITが紡ぎ出す奇跡と愛の物語が、これからたくさん生まれてくることでしょう。

説明会で聞いた「その子に合った“できること”がある」という言葉を信じて。

Lots of Love.

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