日本の温泉のわずか約0.5%!希少価値の高い〈天然炭酸泉〉の秘湯スポット【温泉学者がおすすめ】

(※写真はイメージです/PIXTA)

数ある温泉の泉質の中でも、希少価値が高く、老若男女から支持を集める「天然炭酸泉」。美容や健康への高い効果が期待できるため「浸からなければ損」と、温泉学者であり、医学博士でもある松田忠徳氏はいいます。松田氏の著書『全国温泉大全: 湯めぐりをもっと楽しむ極意』より、天然炭酸泉の持つ魅力を詳しく見ていきましょう。

急速に人気を集める“天然”炭酸泉

心身に優しいナチュラルな温泉に健康増進や美容を求める女性や若い人たちがふえてきたせいか、炭酸泉(二酸化炭素泉)に対する関心が急速に高まっています。それに加えて地球の温暖化が原因なのか、“酷暑”とも表現されるくらい暑い夏には「シュワシュワ~」と、清涼感のある「ぬる湯」の炭酸泉が人気になるのもうなずけます。全身に細かな気泡が付くことから、俗に“ラムネ温泉”などとも呼ばれています。

まして“天然”の炭酸泉に浸かりながら夏場の猛暑をしのぎ、健康と美容効果が期待できるとなると、「浸からなければ損」というものでしょう。

日本の温泉法では、温泉水1リットルに250ミリグラム以上の炭酸ガス(二酸化炭素)が溶け込んでいるものを、炭酸泉と定義されています。そのなかで1,000ミリグラム以上の高濃度の炭酸泉は「療養泉」に指定され、大いに医学的な効果が期待できます。

ただヨーロッパとは異なり活火山が多い日本列島では、泉温が高いためガス成分が揮発しやすく、それだけに炭酸泉は希少価値が高いといえます。事実、炭酸泉は日本の温泉のわずか0.5%程度しか存在しません。

都市の温浴施設で“人工炭酸泉”がふえていますが、“天然温泉”の炭酸泉との大きな違いは、人工的な炭酸泉には無機物は混在していませんが、天然の炭酸泉は地中深くから湧出するので、さまざまな鉱物や有機物も含有されていることです。これらの含有成分は、もちろん炭酸泉(二酸化炭素泉)にプラスされた相乗効果が期待できます。「さまざまな成分が化合した状態にあるのが、温泉の特性であること」を肝に銘じておいてください。まさに温泉は複雑系なのです。

炭酸泉のわかりやすい特徴は全身に付着する気泡で、入浴が楽しくなります。天然炭酸泉の気泡は一般的に人工炭酸泉と比べると、小粒。しかし、天然温泉の小さな気泡の方が、皮膚を覆う被膜の表面積が大きいため、また気泡が安定的なため、結果として炭酸泉の作用は強いことが知られています。

人工炭酸泉のメリットは高濃度の炭酸ガスを作り出せる点にありますが、水を加温するため、入浴前からガスのある程度の散逸は免れません。一方、天然炭酸泉の場合はガスが抜ける量は少ないといえます。

もっとも天然の炭酸泉の場合でも、大半が20℃台から30℃未満の低温泉や冷鉱泉が多く、たとえ源泉の炭酸ガス濃度が2,000ミリグラムあっても、加温して利用することが多いのです。そのため肝心の浴槽では濃度が5分の1、10分の1というケースも少なくありません。

それだけに大分県の長湯温泉「ラムネ温泉館」(32.3℃)、七里田温泉「下湯(したんゆ)」(36.3℃)、筌(うけ)ノ口温泉「山里の湯」(38.3℃)のような、30℃台の加温していない「源泉100%かけ流し」の天然炭酸泉の人気が高まるのは、当然と言えば当然のことなのでしょう。

天然と人工の炭酸泉の決定的な違いがもうひとつあります。天然炭酸泉は“還元系”であることです。すでにふれたように温泉の本質は還元系で、抗酸化作用があることでした。天然炭酸泉には炭酸ガスの働き以外に細胞を酸化から防ぐ、天然ならではの効果があることを付け加えておきます。

一口に炭酸泉といっても、炭酸ガス濃度が多い少ないだけでは判断できないということです。もちろん他の泉質でも温泉の本質は還元系であり、源泉かけ流しであれば酸化されていないことにあります。

天然炭酸泉がある場所は限られている

天然炭酸泉が湧出する地域を見ると、その分布はかなり限定的で、とくに長野県の八ヶ岳周辺や長野と岐阜の県境地帯に集中しています。ただ泉温は10℃前後の冷鉱泉がほとんどです。通常のボイラー等で沸かすと、遊離二酸化炭素の大半が失われかねませんので注意が必要です。

また塩素殺菌・濾過・循環方式の浴槽(「非・源泉かけ流し」)では、炭酸ガスが失われ効果は限定的になりますので、こちらのチェックも必要です。貴重な炭酸泉の効果を大切にする温泉施設では、冷鉱泉であっても、源泉のままの浴槽と沸かしの浴槽を設えているものです。事前に確認しておくと安心ですね。

たとえ泉温が低い場合でも、飲泉(飲み湯)なら問題ありません。湧出したての還元系の新鮮で衛生的な炭酸泉を飲むと、炭酸ガスが胃の粘膜を刺激して、血管が拡張し血流がふえます。胃腸のぜん動運動が活発になり、排便もスムーズになります。100ミリリットル程度の少量の飲泉でも、副交感神経が優位になり、食欲が増すことが確認されています。その3~5倍飲むと、満腹状態になり、食べ過ぎを抑える効果も期待できそうです。

高濃度の炭酸泉は「ぬる湯」といっても、世界に冠たる高温浴好きの日本人には30℃以上の湯温は欲しいところですね。ただし体温以下でも、炭酸泉には血管拡張作用があり、実際には2、3℃高く感じられます

次に30℃以上の炭酸泉のエリアをご紹介します。島根県中部、三瓶山の麓には小屋原温泉千原温泉など、私もぞっこんの加温せずに入浴可能な30℃台の炭酸泉の秘湯が点在します。

最近もっとも人気なエリアは大分県の九重連山周辺です。なかでも長湯温泉といえば、「聞いたことがある」という人も多いでしょう。長湯は旅館や日帰り入浴施設の数が多く、湯量にも恵まれていて、30℃台から40℃前後の日本人には入りやすい炭酸泉で知られています。

こと炭酸濃度だけで見ると長湯を凌ぎそうな温泉が、先にふれた長湯温泉と同じ九重エリアにある七里田温泉共同湯「下湯」(大分県)と筌ノ口温泉日帰り温泉「山里の湯」(同)です。

一方、炭酸濃度は600~1,000ミリグラム程度に下がりますが、40℃台の冬期間でも入りやすい炭酸泉が霧島火山を熱源とする天降川流域にあります。妙見温泉を中核とした新川渓谷温泉郷(鹿児島県)が高温の中濃度炭酸泉地帯です。妙見温泉、安楽温泉、坂本龍馬ゆかりの塩浸温泉日の出温泉など、療養の温泉として根強い人気があります。

老若男女問わず驚く炭酸泉の効能

炭酸ガスは脂に溶けやすく、皮膚からよく吸収されます。血中の二酸化炭素の濃度が上がり出すと、脳は「酸素不足だ。全身に酸素を回さなければ」と判断し、指令を送ります。そうすると体はより多くの酸素を取り入れようと、毛細血管を拡張するわけです。その結果、血圧も下がり、血行がよくなり、体の芯から温まります。

高濃度の炭酸泉に浸かると、皮膚の表面に細かな気泡がびっしりとつき、ヨーロッパでは「真珠の泡」などとロマンチックな言葉で呼んでいます。これは炭酸ガスが毛穴から吸収されているために生じる現象です。この気泡をできるだけ取らないようにすることが、薬理的効果のうえから大切です。

また毛細血管が拡張して血流量がふえることによって、皮膚が赤くなる「潮紅現象」が起こることもあります。

温泉医学が進んでいるヨーロッパでは、炭酸泉は「心臓の湯」といわれ、昔から評価の高い泉質です。とくに高血圧症、心臓病、糖尿病、肝臓病等にも効果があるといわれてきました。現代人は低体温化の傾向があるだけに、「ぬる湯」である炭酸泉を活用すると、体に負担をかけずに生活習慣病の予防ができそうです。

その他に期待できるのは、血流の促進により、筋肉疲労やPCやスマホを手離せない現役世代に多い肩こり、首こりの改善。自律神経のバランスも整えてくれます。よく知られているように自律神経は“緊張の神経”交感神経と“リラックスの神経”副交感神経からなり、血圧、体温、心臓の拍動、呼吸等をコントロールしています。自律神経が乱れると、睡眠障害をはじめ精神的、肉体的にさまざまな変調をきたすといわれていますので、上手に炭酸泉を活用したいもの。もちろん“非日常”の温泉地へ出かけると転地効果も期待できます。

また日本人の2人に1人が罹患するといわれるがんやウイルスと闘うNK(ナチュラルキラー)細胞を活性化すると報告されているのも、心強いかぎりです。免疫力を高める効果があるということです。

炭酸泉は美容の面でも有効です。弱酸性の炭酸泉には「アストリンゼント効果」と呼ばれる皮膚を引き締める作用があります。さらに顔の毛細血管の血流量がふえますから、キメの整った肌が期待できます。

松田 忠徳
温泉学者、医学博士

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