門には「ハブ実験飼育中」…日本最南端の東大研究施設は旧海軍基地跡にあった 奄美病害動物研究施設、熱帯・亜熱帯の風土病克服を目指す

門には「ハブ実験飼育中」の文字=2023年12月、瀬戸内町

 れんが色の門をくぐると、うっそうと茂るガジュマルやアカギが目に飛び込んでくる。鹿児島県瀬戸内町役場の西約1.5キロ。東京大学の奄美病害動物研究施設だ。全国に約50ある東大の施設で最南端に位置し、奄美大島で120年余りの歴史を重ねてきた。

 東大医学研究所の前身である国立伝染病研究所が1902(明治35)年、名瀬郊外にハブの採毒所を開設したのが始まり。66年、鹿児島大の熱帯医学研究施設(82年閉鎖)を間借りし現在の場所に発足した。風土病のハブ咬傷(こうしょう)やフィラリア症の治療法の開発で成果を挙げてきた。

 施設では定期的にハブを飼養して研究を続けている。「抗血清のおかげで亡くなることはまれになったが、筋肉の壊死(えし)や痛みで永久的に苦しむ人がいる」と、獣医師の横田伸一助教(49)=動物生命科学。抗血清の改良なども進めているという。

 研究棟には奄美大島の気候に適応できた新世界ザルも40頭ほどいる。南米原産のリスザルやヨザルで、熱帯・亜熱帯地域で流行するマラリアの研究などに用いられてきた。現在はワシントン条約で輸入が制限されており、横田助教は「バイオリソース(生物遺伝資源)を守る意味でも重要な施設」と胸を張る。

 ひときわ目を引く建物があった。昨年6月に改築した新研究棟だ。世界三大感染症に数えられるマラリアのほか、デング熱やジカ熱などは蚊が媒介する。この棟では、さまざまな病原体を封じ込めつつ、媒介蚊を使った感染実験が可能になった。

 2015年から常駐する横田助教は力を込める。「国際共同利用研究拠点として、国内外のさまざまな機関と連携しながら研究を進め、熱帯・亜熱帯地域の風土病や新興感染症の克服を目指したい」

【メモ】旧日本海軍の基地跡で、敷地面積約8000平方メートル。事務棟1棟、研究棟2棟、特定動物飼養棟1棟があり、教員と技術補佐員の計6人が常駐する。

ハブを飼養する箱。施設ではトカラハブやヒメハブなど4種を取り扱うことができる

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