ミスコングランプリ俳優・中川紅葉。今年は「喋る、書く、演じる」を中心に活動

バンド活動で有名になる足がかりとして、日本一の新入生を決めるコンテスト「FRESH CAMPUS CONTEST 2019」に出場し、グランプリを獲得したことから女優への道が開けたというユニークな経歴の持ち主・中川紅葉。昨年末、NHK BSプレミアム4Kのドラマ『アイドル誕生 輝け昭和歌謡』でピンク・レディーのケイを演じて存在感を放った。

「キレイ系を目指していると思われても……」という理由で、最近、長い髪をばっさり切り、ドラマーとして在籍していたバンドからも脱退。「喋る、書く、演じるの3つの軸で勝負します!」と話す彼女の現在地とは? ミスコン出身者のイメージを覆す、個性的な人物像にニュースクランチが迫った。

▲中川紅葉【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-Interview】

[Alexandros]の演奏シーンを見てドラマーへ

――バンドがやりたくてミスコンに出場した、というユニークな経歴をお持ちの中川さんですが、それをきっかけに女優になられたんですね。

中川:大学1年生のとき、その当時はバンド活動にプラスになればと思ってミスコンに出たんです。でも、ミスコンが終わったタイミングでコロナ禍になってしまい、ライブ活動ができなくなって……そんなときに声をかけてくれたのが今の事務所でした。それをきっかけに演技の世界に入らせていただいて。ドラマや映画を見るのは好きだったんですけど、まさか自分が演じる側になるとは。

――大学もバンドがやりたくて選んだとか。

中川:青学の軽音部がすごいと聞いて入学しました。ライブにたくさん人を集めるにはどうしたらいいかと考えて、ミスコンに出場したらグランプリに選ばれて……。バンド活動がなければ、今の仕事はしていなかったと思います。何がどう転ぶかわからないから、少しでも“やってみようかな”と思ったら絶対にやったほうがいいんだ! と思いました。

――大学に入る前は、ずっと女子校育ちだったんですよね。

中川:小学校から高校まで女子校で、高校時代は外でバンド活動をする軽音部の幽霊部員でした(笑)。うちの学校はダンス部やミュージカル部に所属してる子が1軍なんですが、私はヒエラルキーが上のほうではないなと思っていて。

高校時代はギャルっぽい見た目に憧れていたんですが、いまひとつ振り切れず。でも、ファッションをマネしたり、ギリギリのラインを攻めては先生に怒られていました(笑)。あとは早弁したりもして怒られてましたね(笑)。

――いつからバンドに興味を持ったんですか?

中川:中学2年生まで水泳に打ち込み、フィンスイミングをやっていたんです。でも、中学3年生でやめたときに目標を見失い、本当にやることがなくなってしまったんです。それから家でずっとテレビを見ていたんですけど、[Alexandros]の演奏シーンを見て「これだ!」と思いました。

もともとドラムは小6の頃から始めていたんです。運動会の鼓笛隊のドラムがやりたくて。そのオーディションのためにドラムの習い事に通わせてほしいと、親にお願いしました。

――鼓笛隊にはいろんな楽器ありますけど、なぜドラムに?

中川:一番大きかったから、カッコよく見えたんだと思います(笑)。それで中3から軽音部に入って、ドラマーとしてバンド活動を始めました。

昔からの友達に心配されたミスコン出場

――バンドを始める前のフィンスイミングは、習い事でやっていたんですか?

中川:普通の水泳を小5ぐらいまで習っていて。背泳ぎの選手でしたが、腕よりも足の力のほうが強いと言われてたんです。たまたま練習場でフィンスイミングをやっている人の泳ぎを見て、「あっちのほうがいいんじゃないか」って。形から入るタイプなので、フィンが大きくてカッコいいし、フィンを肩にかけて学校に通うのも「カッコよくない?」って(笑)。

――「大きくてかっこいい」って、ドラムと同じ理由ですね(笑)。それで始めたフィンスイミングでは、アジア選手権の日本代表アジアジュニアメンバーに選ばれたそうですね。それをやめたのは理由があったんですか?

中川:今まで話したことがなかったんですけど……高校3年生まで続ければ大学受験でスポーツ推薦の枠に入れるんです。でも、中学3年生になる前に、この競技をずっと続けられるか考えたとき、ここからあと4年も頑張れないと思ったんです。

水泳から転向してくる子もたくさんいて、自分の才能の限界を感じてしまって。しかも、最後の大会も良い成績が残せず、しっかりめに「終わっちゃった」と挫折感がありました。そのあと、“何もすることない……”と、ひきこもっていた私を救ってくれたのがバンドだったんです。

――そこからバンドを続けていましたが、最近やめてしまいましたね。

中川:個人の仕事が忙しくなったことが大きな理由です。そして、これも自分の才能との兼ね合いで去り際を考えて、今だと思いました。今でも音楽は好きなので、いつか演技の仕事でドラマーの役ができたらいいなと思います。以前に舞台でギターを弾いたことがあるんですが、そのときも“こういう掛け合わせができるのはいいな”と思いました。

――先ほど学生時代はヒエラルキーが高いほうではなかったとのことでしたが、ミスコンのようなヒエラルキートップの世界に飛び込んで、違和感やプレッシャーはなかったんですか?

中川:昔からの友達にはめちゃくちゃ心配されました。「急にどうしたの?」って。大学デビューしたと思われたようですが、今となってはみんな「そういうことか!」と納得してくれています。そういう私自身を知ってくれている濃い友達は何人かいるんですけど、友達が多いタイプではないので、良くも悪くもそれほど周りの目が気になることはなかったですね。

――そのミスコンから人生が開けていきました。

中川:どうなんでしょう。自分的には何も変わっていなくて、マネージャーさんにも「私って一生、焦ってるよね」と言っています(笑)。

――不安症なんですか?

中川:そうだと思います。何かをしてないと何もなくなっちゃうんじゃないかと思って、すぐ動いちゃうんです。水泳をやめてドラムをちゃんとやろうと動くまでの半年が、人生で一番無駄にした時間で。ベッドから1ミリも動かないみたいな生活でしたから。

――燃え尽き症候群ですね。

中川:またそうなるのが怖いし、同じ状態にはなりたくないから焦るんだと思います。

「こういう人になりたい」という理想像を探す日々

――周囲は就活をするなかで、俳優としてやっていくことに決めた経緯は?

中川:事務所に入った頃はコロナ禍で、お仕事もたくさんあるわけでもなかったので、資格の勉強をしつつ就職をしようか迷いました。でも、少しずつお仕事をいただけるようになって、両親からは「あなたは定時に出社して同じ会社で働き続けることに向いていない」と言われてもいたんです。確かにそうだなと思い、この仕事で頑張ってみようと決めました。

去年から今年の始めにかけては、恋愛リアリティーショーやバラエティ、イベントなど、未経験の仕事が重なって。まずはやってみないと気が済まないタイプでもあるので、頑張って取り組んで、自分がどのジャンルが好きなのか1年かけて考えました。

それで2024年はやりたいことを全部ではなく、中途半端にならないように2~3個に絞ろうと決めたんです。それでバラエティも含めての喋る仕事、エッセイなどの書く仕事、それと演技が好きだから演じる仕事、その3つに絞ることにしました。

――中川さんの性格として、ひとつのことに集中しちゃうタイプなんですね。

中川:そうなんです。あれもこれもやっていたら、1つにかける時間がどんどん少なくなり、結局、自分は何がやりたいのか……数年後にはわからなくなっちゃいそうだなって。それで、今までやってきたことは1回リセットして、今やりたいことって何かな?って考えたんです。

――喋る、書くというのは具体的にはどんな仕事ですか?

中川:喋るのはラジオやバラエティ。書く仕事はエッセイをウェブで連載しています。もともと本を読むのは好きで、コロナ禍の自粛期間に一番時間を費やしました。

――そこから書く仕事につなげたということですね。エッセイの連載をやってみた感想は?

中川:自分に向いていたらいいなと思います。まだ、誰かのために書くことができないんですが、自分のために書いていることでも「私もそうです!」と共感してくれる方がたくさんいるのはうれしいです。あまり媚びを売るのが得意じゃないので、それでもいいと思ってくださる方がいて、読んでもらえたらうれしいです。

――役者業についても聞かせてください。これまでもいろんな作品に出演されてますが、演じる楽しみを知ることができたのはどの作品ですか?

中川:最初に刺激を受けたのは舞台です。目の前にいるお客さまの前で演じること、そこで発するセリフの重みを痛感しました。そして、NHK BSのドラマ『アイドル誕生 輝け昭和歌謡』は、キャストの皆さんが朝ドラや大河ドラマで見てきた有名な方ばかりだったので、また違うフェーズの洗礼を受けました。

しかも、私の演じた役は、ピンク・レディーのケイさんがモデルだったので、後悔のないようにしたくて、役で初めて減量をしました。そしてダンスや歌という個人的には一番苦手なことをやる役でもあったので、“何かになるためにやらなきゃいけない過程”が一番ハードだった作品で、とても印象に残っています。

演技のために日常生活を送る俳優さんも多いと聞きますが、“それもそうだな”と感じられるほど、自分に足りてないものが明白にわかった時間でもありました。

――この先のビジョンについてもお聞きしたいと思います。“喋る、書く、演じる”という仕事をするうえで理想とするスタイルはありますか?

中川:バンドも水泳も「この年齢までにこれをやる」という近い目標を置いて、「ゆくゆくはこういう人になりたい」みたいなビジョンがあったんですけど、今はその理想像を探しているところです。

ミスコンに出る人に恋愛話はご法度だと思うんですが、私はミスコンに出つつ恋愛リアリティーショーにも出る異端児!?(笑)。それぞれのジャンルで憧れる人はいるんですが、「死ぬまでにこういう人になっていたい」という人物像を見つけていきたいと思っています。

(取材:本嶋 るりこ)


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