“クレイジー”な名将ビエルサ。天才過ぎる故に衝突や批判もあるが...【コラム】

昨年5月、マルセロ・ビエルサがウルグアイ代表監督に就任している。2026年W杯南米予選は4勝1敗1分けでアルゼンチンに次いで2位。上々のスタートと言えるだろうが…。

ビエルサの本質は、結果よりも内容にある。

「選手を鍛え上げ、最強チームを作る」

その手腕において、右に出る者はない。まさに天才的。クレイジーな領域にいる監督だ。

2011-12シーズン、アスレティック・ビルバオを率いていたビエルサは、当時最強を誇ったバルサとサン・マメスで2-2と堂々打ち合った。そのゲームは、敵将ジョゼップ・グアルディオラも感極まるほどの内容だった。ビエルサが仕上げた精鋭軍団の戦いは、胸を熱くさせるものがあるのだ。

「1対1で勝ち続ける」

攻撃でも、守備でも、ビエルサはその気高さを求める。間断なく攻め続け、失ったら最前線から守備に入り、電光石火のカウンター。嵐のように怒涛のサッカーだ。

「できることなら、90分間、攻め続けたい」

ビエルサは言うが、その完璧主義は理解されないことも少なくない。凡人に疎まれて、不必要に仲違いし、自滅することもしばしば。ビエルサ本人が、周りの些細な遅延や失策を許せない。アスレティック監督時代には、オフ明けに完成しているはずだった施設の工事が終わっていないことに癇癪を起こしてしまい、行き過ぎた言動が批判の的になった。

<天才過ぎる>

ビエルサの欠点があるとすれば、そこにあるだろう。ときに周りが凡庸に見えてしまうのだ。

もっとも、変わり者だが、他者を疎んじる性格というわけではない。例えば、練習場を訪れた子どもたちには、誰よりも優しく接することができる。断っておくが、粗野な人物ではない。

しかし、サッカーに対して自信がストイックなだけに、約束を守れないことに苛立ってしまう。プロフェッショナルな指揮官としては神経質。周りに同じレベルのことを求め、そこで妥協できない性格というのか。天才的なサイエンティストの肖像が重なる。

ただ、頑固さは名将が持っているキャラクターでもある。悪と決めつけるべきではない。動じず、怯まない、自分への責任という部分もある。リーダーとして欠かせない天分とも言えるのだ。

もしリーダーが人並み外れた勝利への執念を持っていなかったら、死に物狂いの選手たちを率いることはできない。当然、スペクタクルも生み出せないだろう。狂気はサッカーへの熱量でもある。

“クレイジー”と異名をとるビエルサが、ウルグアイをどのようなチームにするのか。楽しみでならない。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

© 日本スポーツ企画出版社