耐えた築200年、もてなし再び 珠洲・三崎町の古民家レストラン

レストラン「典座」を切り盛りする坂本さん夫妻=珠洲市三崎町伏見

  ●「店開けないと張り合いない」

 珠洲市三崎町伏見の細い路地に、味わい深い古民家が建っている。レストラン「典座(てんぞ)」。築約200年の木造は瓦がずれ、一部にブルーシートが掛けられているものの、激しい揺れに何とか耐え、営業を再開していた。「やっぱり、店を開けないと張り合いがないから」。経営する夫婦は客の喜ぶ顔を生きがいに、地震前の生活を取り戻そうと奮闘していた。(佐内まこと)

 倒壊家屋が多く目に留まる珠洲市街地から車を走らせること約20分、レストランに到着すると、店主で珠洲焼作家の坂本市郎さん(63)と妻の信子さん(55)が迎えてくれた。

  ●「地盤のおかげか」

 「地盤のおかげかな。建物は奇跡的に無事だったんです」。信子さんがほっとした表情で家屋を見上げた。周辺には木造の建物が多いが、全壊や半壊が目立った他地域に比べて被害は少なかったという。

 レストランは、地元食材を使った精進料理を珠洲焼や輪島塗で楽しんでもらおうと、2人が2005年に開業した。禅宗で料理を担当する僧の名前を店名とし、多くの観光客らが訪れる人気店に成長した。

 江戸末期に建てられた家屋は、主屋を囲むようにいくつもの建物が並ぶ。地震では、昨年9月に完成したギャラリーの土壁が剥がれ落ち、展示中の珠洲焼など約100点近くが割れる被害が出たが、建物の損傷は小さかった。

  ●目的ないと続かず

 地震後、夫妻はしばらく家や店の片付けに追われた。「目的がないと続かない」と営業再開を見据えて作業に励み、2月に入って週末限定のランチ営業にこぎつけた。井戸水を引いているためトイレや風呂も使用でき、宿泊の受け入れも行っている。

 ただ、メニューは「元通り」とはほど遠い。例年、この時期は旬のイワシを使った料理や岩のりのおむすびを出しているが、海産物が取れず、提供できるのは地元野菜や肉を使った料理のみだ。

 夫妻によると、再開して間もなく、市内の家族連れが来店した。このうち高齢の女性は輪島塗の赤わんや珠洲焼の茶わんに盛られた料理に笑顔を見せ、大喜びで帰っていたという。

  ●客の笑顔が励みに

 この女性は、避難所でプラスチックの容器に入った食事ばかり口にしていたことから珠洲焼や輪島塗の器がうれしかったと話していたそうで、信子さんは「お客さんの笑顔が何より励みになった」と話した。

 来店客の多くは災害支援の関係者で、数人しか利用がない日もある。それでも信子さんは「できるだけ能登の食材を楽しんでもらえるよう準備したい」と話す。市郎さんも「(珠洲焼)の窯を修復し、ギャラリーも再開できるよう順次立て直していきたい」と生き生きと語った。

 珠洲を含め、奥能登はインフラへの打撃が深刻で、元の日常はまだ遠い。ただ、被災地の人たちは一歩ずつ、着実に復興への歩みを進めている。

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