「きょう縮む」の先に

 昭和の初め、浜口雄幸(おさち)首相は緊縮財政を力説した。「あす伸びんがために、きょうは縮むのであります」。国民には節約を呼びかけたが、意に反して日本は恐慌の坂を転げていく▲昭和史のほろ苦い一ページに、平成からのここ30年を重ねることもできる。昨年の日本の国内総生産(GDP)が半世紀ぶりにドイツに抜かれ、世界4位に落ちた。そのうちインドにも抜かれそうだという▲短期的には、日本は円安によってGDPがドル換算で目減りし、ドイツは日本の上をいく物価高でGDPがかさ上げされた。長い目でみると、バブル崩壊から30年、日本経済が総じて足元しか見なかった結果とみられる▲目先の利益を上げようと、企業は成長の源である設備投資を抑え、賃金も抑え、リストラを繰り返し、生産性は上がらなかった。少子高齢化や人手不足にも、そうなると分かっていながら手を打つのが遅れた▲バブルに懲りて「きょう縮む」道を歩み続けた、その末の姿を見ている気がする。「日本経済は年老いた」と落胆する向きもある▲その一方で、4位でも5位でもいい、肝心なのは身の丈に合ったそこそこの豊かさだと、そう思う人も少なくあるまい。物価高に人手不足と足元は今もぬかるんでいるが、そろそろ「伸びる日」の影なりとも見てみたい。(徹)

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