「ポリアモリー(複数性愛者)」が結婚することはできる? 慰謝料は請求できる? 日本の法律での扱いを弁護士が解説

ポリアモリーへの理解は日本でも広まっているが…(vershinin89/ PIXTA)

1月、フジテレビ系のワイドショー「めざまし8」で、俳優の東出昌大氏が北関東の山奥にある小屋で“半自給自足生活”を送る姿が放映されSNSなどを中心に話題となった。

番組では20代の女優3人(松本花林、さいとうなり、烏森まど)が東出氏の暮らす小屋の近くに移住したことも明らかにされた。その後、ネットニュースなどでは「山奥の『ハーレム生活』」と東出氏が女優たちと同居しているかのように報じられたが、現在の「めざまし8」公式YouTubeには「※一部報道で東出さんと、さいとうなりさん、松本花林さん、烏森まどさんが同居しているように報じられてますが、そうした事実はありません」と記載されている。

「ポリアモリー」が認知されるようになってきたが……

東出氏は2020年に女優の唐田えりかとの不倫が発覚し、当時の妻であった女優・杏と離婚。

現在の女優3人との関係についても、番組のスタッフは「新しいスキャンダルの火だねになりかねない」と指摘したが、東出氏は「言う人はもう勝手に言えって感じなんです」と返答した。

結局、東出氏が「ハーレム生活」を過ごしているのは誤解であった。だが、現在は離婚して既婚者でない人であっても、複数人の異性と共同生活を過ごすと現在の世間では「スキャンダル」と認識されることが、一連の経緯からうかがえる。

一方で、近年の日本では「ポリアモリー(複数性愛)」が注目されるようになってきた。ポリアモリーとは、お互いの合意の下で、異性や同性のパートナー複数人と恋愛関係や性的関係を築くライフスタイル。

2023年には評論家の荻上チキ氏の著書『もう一人、誰かを好きになったとき:ポリアモリーのリアル』(新潮社)が出版され、話題となった。

一方で、性的志向や性自認が多数派とは異なるLGBTQ(性的少数者)への理解が広まっているのに比べて、ポリアモリーへの理解は深まっていない現状もある。東出氏でなくとも、有名人が複数の相手と同時に恋愛関係や性的関係を築いたら「スキャンダル」とされるだろう。

そして、日本の法律では婚姻関係は「一夫一妻制」が原則だ。婚姻中の人間が配偶者以外の相手と性交渉を行うことは「不貞行為」とされ、配偶者から慰謝料を請求される原因や離婚理由にもなる。

ポリアモリーは「複数婚」とも訳され、性的関係や恋愛関係に留まらず、異性や同性複数人が「家族」として過ごす場合もある。アメリカでは、ポリアモリーを法律上「婚姻に準ずるもの」として、医療保険などに関する権利を認める条例を制定した自治体も複数存在する。

日本で「複数婚」をすることは可能なのか。慰謝料や戸籍などはどうなるのか。家族法にも精通している、安達里美弁護士に話を聞いた。

法律では「複数婚」はどう扱われる?

──民法732条では「配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない」と定められています。一方で、婚姻届を提出しておらず制度上は「夫婦」ではないが、社会的には夫婦同然の生活をしている男女は「内縁」の関係を持つものと扱われます。婚姻関係と内縁関係の違いについて、とくに法律的に発生する権利や義務、保護される利益などの違いを教えてください。

安達弁護士:婚姻関係と内縁関係の明確な違いは、「婚姻届が提出され、戸籍上、夫婦として記載されているか」です。逆を言えば、その点以外は婚姻関係にある夫婦と同じ状態である場合に内縁関係と評価できるのだと思います。

法的な権利義務については、内縁関係は民法に関することは婚姻関係に準ずる扱いがされることが多いので、たとえば内縁が解消された場合、財産分与を請求する、認知された子がいれば養育費を請求するということは可能です。一方、相続権はないなど、法律婚と異なる扱いとなることもあります。

弁護士として、内縁関係で裁判をする場合に難しいところは、法律婚とは違い、「2人は内縁関係だったか否か」という根本的な点から争いになることです。戸籍という証明手段がないため、「内縁関係ではなくただの恋人でした。恋人が別れただけですから、財産分与は請求できませんよ」という反論がなされた場合、内縁関係であったことを立証する必要があるのですが、これが難しいケースも多くあります。

弁護士として内縁関係の方の裁判をする場合、戸籍という証明手段がないため、たとえば「内縁関係ではなくただの恋人でした。恋人が別れただけですから、財産分与には応じられませんよ」という反論がなされた場合、内縁関係の立証が難しいケースもあります。

婚姻届は提出しなくても、住民票上の世帯を同一にし、続柄を「夫(未届)」、「妻(未届)」とすれば内縁関係の証明になると思いますので、将来の争い防止のために検討してみる価値はあると思います。

──法律用語として「重婚的内縁関係」というものがあるとも聞きます。具体的にはどのような状態が重婚的内縁関係となるのか、このような関係も法律上保護されるのでしょうか。

安達弁護士:①AとBが法律婚した、②Bが家を出ていった、③その後、BがCと内縁関係になったというような場合、BとCの関係は重婚的内縁関係と呼ばれることがあります。

このBとCの内縁関係が法律的に保護されるためには、AとBの婚姻関係が事実上離婚していると同視できるような状態にあることが必要とされています。そのような条件を満たす重婚的内縁関係と認められた場合は、前記した通常の内縁関係と同様の法律上の保護を受けることになります。

──仮に男性1人が女性3人と同じ住居に暮らしており、一定の恋愛感情や性交渉が存在したり共同作業をしたりしている場合には、男性と各女性の間には「内縁関係」が存在すると見なされることになるのでしょうか。

安達弁護士:民法上、重婚が禁止されていますので、その趣旨から考えると前記した法律上の保護を受ける内縁関係が複数成立することはないでしょう。端的に言えば、「配偶者としての法律上の保護を受ける人は1人」ということです。

──ポリアモリーの方であっても、「互いに複数性愛者であるから貞操義務はなく、不貞行為に対する慰謝料なども請求しない」といった契約書を定めたうえで1人の相手と法律上の婚姻をして、複数性愛を実施する、ということは可能なのでしょうか。

安達弁護士:その契約に詐欺、錯誤等の意思表示の瑕疵(かし)がない、つまり双方心の底からの真意に基づいて納得して契約書にサインしている前提であれば、当事者間では有効と考えてよいと思います。

ただ、どちらかが最初からだますつもりだった、途中で考えが変わったかは別として、その後、不貞慰謝料を支払ってほしいと訴訟を提起した場合、裁判所の判断で「このような契約は公序良俗に反して無効」となる可能性はあるかなと思います。

──現在、同性婚が認められず同性愛者の利益が異性愛者のようには法的な保護が受けられないことは「差別」である、という認識が広まっています。同様に、複数婚が認められず複数性愛者の利益に法的な保護がなされていないことは差別と言えるでしょうか。また、複数婚が法律などによって将来的に認められる可能性はあるでしょうか。

安達弁護士:現状の日本社会の価値観の下では、複数婚が認められていないことは差別とは言えない、と私は考えます。

今後、社会の多数派が「複数婚を認めるべきだ」という流れになれば、法律上複数婚が認められることもあるでしょう。ただ、その際、関係者全員の利害関係を調整する新しい法律が必要になります。

すごく単純化して言えば、「Aという人にB、C、Dという法律上の妻がいたが、今回、Bとは離婚することとなった」というとき、妻が1人であれば財産分与は通常婚姻から別居時に築いた財産の2分の1ですが、妻3人なので、2分の1の3分の1つまり6分の1にするのか、年金分割の按分(あんぶん)割合は1人であれば0.5ですが、妻3人の場合は0.5を3分の1ずつみたいな形にするのかなど、ルールを新たに定めなくてはならない点が多いということです。

また、複数婚においては、話し合いがスムーズにいかない場合、Bは夫であるAだけではなく、他の妻であるCやDとも裁判しないとならないかもしれませんね。そうなると、結婚相手であるAの人柄だけではなく、妻仲間のC、Dの人柄も重要になるので、Cと婚姻する際にBの承諾が、Dと婚姻する際にB、Cの承諾がいる…ということになるのでしょうかね。自由を愛するが故の複数婚ではないのかと思うと複雑です。

また、複数婚においては、単婚の場合よりも法律が複雑になることも考えられます。

たとえば、離婚の際にAが「Bに全財産あげるよ!」ということがCやDの意向を無視してできるのか、それともCやDの許可が必要なのかか、「どんな事情があっても6分の1以上は財産分与できない」としてCとDの保護を図るのか、など。法律はどのような価値観に基づいてこのような問題の基本ルールを決めるのかと考えると、複雑すぎて頭が痛くなります(笑)。

将来、複数婚が法律上認められるにしても、単婚とは異なる価値観の法律が必要かもしれませんね。

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