60歳からは“出ていくお金”を減らしたい…定年→フリーランスで活用可能な節税術「小規模企業共済」とは【メガバンク出身のコンサルタントが伝授】

(※写真はイメージです/PIXTA)

「60歳で完全引退」が難しい日本。役職定年などにより「現役時代ほど収入が期待できない」という人は、副業などで“新たな収入源”をつくることと、“出ていくお金”を減らすことが重要です。そこで、『50代 お金の不安がなくなる副業術』(エムディエヌコーポレーション)著者の大杉潤氏が、副業(フリーランス)や中小企業経営者が活用可能な節税スキームについて、自身の経験を交えて解説します。

フリーランス、中小企業経営者のみが使える「節税スキーム」

副業でも事業が拡大して、雑所得ではなく、事業所得が発生する規模になると、さまざまな節税スキームの活用が可能になります。フリーランスや小規模企業を支援するために、国がさまざまな税制上の特典を用意しています。

ただ売上や利益を拡大することだけに邁進するのではなく、実質的にキャッシュが手元に残るように、節税スキームをできる限り活用していくのが、事業を長く続けていく秘訣です。

フリーランスになると、売上が大きく伸びる月もあれば、ガクンと落ちたり、売上が上げられなかったりする月もあって、安定しないのが普通だからです。

しっかり稼いだ時期に得られたキャッシュフローを使って、売上がない月の落ち込みをカバーできるよう、なるべく税金で現金が外へ出ていかないように管理することは、売上を上げることと同じくらい大切なことなのです。

フリーランス(個人事業主)や小規模企業を支援する節税スキームの中で、私がぜひ勧めたいのは、「小規模企業共済」です。

これは、フリーランスや中小企業経営者のための退職金を、節税しながら準備できる仕組みで、節税効果もあって現金を残すのに最適です。

雇われる働き方の会社員で、正社員には通常、退職金制度があり、とくに長い年月を1社で勤め上げた会社員は、老後資金として活用できるまとまった金額の退職金を得ることができます。

ところがフリーランスや中小企業経営者の場合は、自分で自分の退職金を用意する必要があり、そのための支援として「小規模企業共済」というスキームができました。

小規模企業共済は「元本割れ」に注意

具体的には、月額7万円を限度として、毎月退職金の原資を積み立てていくもので、積立金額の全額が所得控除となります(その分、所得が減少して、所得税の節税になります)。

年間では、84万円分の節税枠ができると考えていいでしょう。ただし、「つみたてNISA」と違うのは、自分で運用商品を選ぶということはできず、中小企業基盤整備機構に積立金を預けて運用してもらう形になります。

取り崩すのは原則として、事業をやめる時になり、積み立てた全額プラス運用益が退職金という扱いで、退職所得の優遇税制が受けられるのです。

退職金が受け取れて優遇税制の対象にもなり、かつ、積み立てている時から所得控除も受けられて二重の意味で節税になるので、これを利用しない手はありません。

私もフリーランスになって何とか事業が軌道に乗り始めた時から積み立てを始めました。やってみると、とてもメリットの大きい仕組みであると実感できます。

注意点としては、原則として事業をやめるタイミングでしか換金できないこと。退職金という位置づけなので仕方ないのですが、その時の運用期間が20年未満だった場合には元本割れとなる可能性があります。毎月払い(積み立て)のほかに年払い(1年前払い)の仕組みもあるので便利に使えます。

積み立て期間”40ヵ月”で現金化できる節税スキームとは

それから、事業をやめるタイミングでなくても現金化できる節税スキームもあります。私も起業してすぐにはこの仕組みを知らなかったので、最近活用を始めました。

通称「経営セーフティ共済」(正式名「中小企業倒産防止共済」)といって、同じく中小企業基盤整備機構が運営しています。

この商品は、フリーランスや中小企業の販売先(取引先)が倒産して代金回収ができなくなった時の保険として、掛け金を積み立てるという仕組みで、保険の掛け金の全額が経費として計上できます。こちらは、所得控除ではなく保険料なので経費として計上します。金額は月額20万円を限度として5,000円から可能です。

小規模企業共済と同じように年払いも可能です。

実際に、取引先が倒産して代金回収ができなくなった場合には、掛け金の10倍までの借入ができます。年間240万円の掛け金が最高額ですが、掛け金累計額の限度が800万円となっています。もし、限度額いっぱいまで掛け金が溜まっていれば、その10倍の8,000万円までの借入が可能になります。

実際の活用法としては、掛け金を積み立てた期間が40か月を超えると、共済を解約して解約金を受け取る時に、元本割れをしなくなります。

そういう意味では、経費計上して節税をしながら行う貯蓄のような感覚で利用する中小事業者が多いのです。

解約手当金を受け取った時には売上に計上することになるので、その年は所得税や法人税が増えることになりますが、売上が増えて儲かった時に掛け金を積み立てて節税しながら、売上が下がった時に解約すれば、売上高の波を平準化する効果があり、メリットが大きいのです。

筆者が計画中の節税スキーム術

私の場合は、「定年ひとり起業」という形で年齢が高くなってからスタートしたのですが、妻が社長の合同会社とフリーランス(個人事業主)の大杉潤という法人・個人の両方で、経営セーフティ共済を活用しています。

計画としては、年齢的に事業を徐々に絞り込んで整理縮小のフェーズになって売上が減ったタイミングで解約し、売上を補填する使い方がいいかなと思っています。

さらに、そこから数年で事業をやめる時には、小規模企業共済を解約して退職金を受け取るという形です。

これを法人と個人で、時期をずらしながら順番に行っていけば、たとえ仕事がほとんどなくなったとしても、数年間は今とあまり変わらない事業規模が維持できて、ライフスタイルも変える必要がなくなります。

そうこうしているうちに受給を繰り下げた年金を請求してもらえるようにすれば、そこで収入がまた増えます。

最高75歳まで受給を繰り下げられるので、そこまでいけば通常65歳からもらう年金の1.84倍の金額がもらえます。

そう考えると、節税スキームを活用できる副業(事業所得の規模)やフリーランス、小規模ファミリーカンパニーの設立による起業は、会社員にはないメリットがかなりあります。同じ金額を稼ぐとすると、手元に残るお金は大きく増えるでしょう。

さらに応用編ですが、今後私が検討しているのは、ファミリーカンパニーの「旅費規程」です。

これからハワイをはじめ海外でのセミナー事業、現地情報を発信する事業などを立ち上げようと考えているので、現地までの往復旅費が経費になるわけですが、実際に出張する人に日当を出すことが、旅費規程があれば可能になります。

この日当は給与所得や役員報酬には入らないので、所得税の対象にならず、税金や社会保険料をかけずに現金を法人から個人へ移すことができます。法人の方では日当の支払は当然、経費計上ができます。

たとえば、ハワイに30日間出張して、日当を1万円と規程で取り決めれば、月額30万円を所得税や社会保険料のコストをかけずに、法人から個人へ現金を移すことが可能です。

これから顧問税理士に相談して検討しようと思っていますので、まだ決めたわけではないのですが、メリットがあるのではないかと思って研究しています。

税制は頻繁に変更される上、タックス・コントロールは専門性が高いので、ここまで書いてきた節税スキームの活用は、ぜひ専門家である税理士と相談の上、進めてください。

大杉 潤
経営コンサルタント/ビジネス書作家/研修講師

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