6歳までに子どもの主体性を育む親子関係の作り方【井坂敦子のまなびスポット訪問】

By 学研キッズネット編集部

「花まる子育てカレッジ」ディレクター、音声配信Voicy『コソダテ・ラジオ』の
パーソナリティとして活躍する井坂敦子さんによる連載企画。知的好奇心を育む学びスポットや子育て関連施設を、井坂さんの視点からレポートします。

今回お話を聞いたのは「森のようちえん・タテノイト」舘野繁彦さん・舘野春香さんご夫婦

「森のようちえん・タテノイト」の運営者である舘野繁彦さんと舘野春香さんご夫婦は、共に地球惑星科学を専攻し、その道を極めたプロフェッショナル。アメリカのサイエンス誌に論文が掲載されるなど華々しい経歴を持つお二人です。娘さんの誕生をきっかけに保育士の資格を取り、2020年4月、秩父郡横瀬町に園を開きました。

森のようちえん・タテノイトを見学させていただき、里山というフィールドで自然の持つ多様性に気づき、全てを与えすぎない環境こそが子どもの主体性を養い、イマジネーションを育てるという、学びの原点を見ることができました。

お二人が子どもへの接し方でこだわっていることとは? 自発性を大切にするためには?また、親と子のより良い関係性を築くためにはどうすれば良いのか、お話を伺いました。

親が楽しむ姿を子どもに見せるそれが主体性を育む第一歩

ー子どもの知的好奇心や探究心を伸ばしたいと思うのが親心。かく言う私も、娘が幼い頃朴の葉を見つけたときに「これはお面にできるんだよ」とか「おにぎりを包めるんだよ」など、自分の知識を教えて娘の興味を深めた方が良いのか、ぐっと黙ってしたいようにさせるべきなのか悩んだこともありました。

「子どもは敏感ですから、親の考えをすぐ感じ取ってしまいますよね。そうすると一気に興味が引いていってしまいます。私は基本的にこれをしたら楽しいかもと伝えたくなる時は、まず自分がやってみます。例えばお面にしたら楽しいよ!と伝えるのではなくて、お面にして自分が楽しむんですね。子どもはそれを見て、なんだか楽しそうと
思えば近くに寄ってきて同じことをしますし、楽しそうにしている子どもを見ると他の子どもも集まってきます。こんな遊びがあるよと言葉にするのではなく、やってしまう方が子どもが興味を持つことが多いように思いますね」(春香さん)

ー親の思惑が見えてしまうと子どもはすぐに察して「別に興味ない!」となってしまいますよね。思惑は隠す、なるほど!

「パズルなどの知育玩具にしても大人が子どもに押し付けてしまうと、それは探究学習ではなくていわゆる教科学習をやらせているのと同じ構造になってしまうんです。主体的ではないですよね。主体的になるのを待つ、ということが大事だと思います」(繁彦さん)

ー大人は“待つ姿勢”が大切なんですね。

「後は大人も主体的かどうか。それに尽きる気がします。親御さんが主体的に学びを深めているかと言うと、実際はしていないパターンも多いんですね。新しく何かにチャレンジしている姿を見せる方が、子どもには説得力がある気がします」(春香さん)

ー本当にそうですよね。お母さん、お父さんという役割をもらうと、全部母として父としてちゃんとしなきゃいけない時間になってしまいますし、楽しむと親としての役割を放棄しているような後ろめたさを感じている人も多いように思います。新しく何かに取り組む姿勢を子どもに見せることも大事なんですね。

小さいながらも全てが自己選択その機会が自己肯定感をも育む

ー森のようちえん・タテノイトでは、子ども一人ひとりが自分で遊びを選びます。与えられる機会が多かった子どもからすると、自分は何をすればいいんだろうってなりますよね。

写真提供/森のようちえん・タテノイト
写真提供/森のようちえん・タテノイト

「いわゆる一般的な保育園や幼稚園は、先生からの指示があって子どもが動くもの。ここでは全てが自己選択です。その機会が十分にあるのはものすごく意味があることだと思います。幼稚園、小学校、中学校、高校と指示されて動くことの連続では、自分から行動することはなかなか難しいですよね」(繁彦さん)

ー確かに。上司や先輩から言われたことは頑張ってできるけれど、好きにやっていいよと言われると戸惑ってしまう大人も多いように思います。

「実際に転園してきて何をして遊べばいいの?という子どももいます。でも子どものすごいところは、一ヶ月も経つとごっこ遊びやかけっこなど、好きな遊びを自分で見つけるんです。ただ、変わる子どももいますけど、変わるのに時間がかかる子どももいます」(春香さん)
「それは多分、園が変わっても家庭が変わるのに時間がかかるからだと思うんです。親御さんが家庭で子どもに指示したり、こうなってほしいという思いが強ければ強いほど、子どもは自分で何かを作り出せないんですよね。人がやっていることと同じことをしてしまったり。それには、親が子どもにこうあってほしいという思惑が根っこにあるからだと思うんです」(繁彦さん)

ー周りと同じことをすることで安心感を得る子どももいますよね。それが幼い頃から行動として出て、気持ちもそうなってしまうのは悲しいことですよね。

「多分、こうしてほしいと強く思う親ほど、自己肯定感が低いように思います。そして子どもも、自己肯定感が低くなってしまう。世代を超えて、自己肯定感の低さが伝播するんです。その結果、自己肯定感の低い社会ができあがってしまいます。小さいながらも自分で選ぶ機会を与えていけば子どもは変わりますし、子どもが変わらなければ、まずは親が自分を振り返ることが大事だと思います」(繁彦さん)

子育ては試行錯誤の連続迷って悩んだ先に成長がある

ー第一子を出産して、何のスキルもない状態から親としての人生がスタートします。子育てには指針となるものやある程度の大枠はありますけど、どこまで抑えてどこまで許容すれば良いのか、その線引きに迷う親御さんも多いように思います。

「私は迷うことってすごく大切だと思うんです。自分で迷って考えて試して失敗して、でもたまにはうまくいって。その繰り返しの中で、自分なりの子育てが見つかっていくのではないでしょうか。でも、最短で正解を求めてしまい、ネットで検索して出てきたからやってみたけどうまくいかないと言う人も。実際は存在しない、子育てのマニュアルを手に入れたいと思う人が多いように思います」(春香さん)

「親子って結局対人関係だと思うんです。自分を見つめる機会にもなりますよね。子どもを見ていると、自分が使うイヤ~な表現を使っていて、ああ…と思うことも(笑)」(繁彦さん)

ーわかりますわかります(笑)。子どもを見ていて、私のせいでごめんねと思うことも多いです。だからこそ鍛えられるところもありますよね。

「この声がけをしたらうまくいかなかった、でも別の方法ならうまくいった。その試行錯誤が楽しいんですよね。子どものことだけでなく自分のこともわかりますし」(春香さん)

ー確かに。試行錯誤を繰り返して乗り越えた先に、子どももだけでなく親としての成長もありますよね!

親子関係の再構築には時間が必要幼少期からの関係性が重要

ーとは言え、子育ての試行錯誤を途中で諦めたり放棄してしまう親御さんが多いのも事実。

「幼児期にいい親子関係を築けなかったのは、宿題を残したままの状態で子どもが成長するのと同じこと。思春期以降に関係性が作れなかったところをリカバリーしなければいけない時がきてしまいます」(繁彦さん)

ー一番重要な時期に逃げてしまうと、大きくなってからその弊害が出てくると言うことですよね。

「年齢を重ねれば重ねるほど、親子関係の再構築には時間がかかります。逆に言うと、それだけ幼少期の子供との向き合い方が重要と言うことなんです」(春香さん)

ー子どもも一人の人間。コントロールしてはいけないのにしようとしてしまう親も多いです。

「親と子、良い関係性を築くのに早いに越したことはありません。小さい頃から作ってほしいと切に願います」(繁彦さん)

ー今日は興味深いお話をありがとうございました!

こどもとの接し方について「親子とはいえ、結局は対人関係だ」という舘野繁彦さんの言葉に、ハッとしました。親子というのは、特別な関係で遠慮なしに相手にぶつかっても良い、甘えを許してくれる関係だと思い込んでしまっている自分に気がついたからです。夫婦というのも、そうだと思います。家族といえども、「親しき仲にも礼儀あり」ではありませんが、相手の考えや感じ方を尊重する姿勢を忘れてはいけないなと。

教育的に良いことをしてあげたいという気持ちから、「これ面白いから、やってごらん!」と言いたくなるのも、同じ理由からだと感じます。そんな教育的な提案をしたら、即座に子どもには見破られて、手を引っ込めてしまうのが経験的にわかっているのに……。

舘野春香さんがおっしゃったように「自分が先に楽しんじゃう!」姿が、実は子どもには魅力的に見えて、やる気に火が付くんですよね。親自身が「子どものため」の前に、存分に自分が楽しむことが大事だなと改めて思い、自分の知りたいこと、好きなことに邁進したくなりました。

森のようちえん・タテノイト

埼玉県秩父郡横瀬町大字横瀬1263-4
0494-40-1021
https://tatenoito.jp

撮影/鈴木謙介 文/末永陽子

井坂敦子(いさか あつこ)さん

中学校高等学校教諭一種免許状(国語) /保育士/食育カウンセラー/表千家師範

「花まる子育てカレッジ」にて年間約100本の子育てや教育に関する講演会や対談を企画運営。著書に『入学後の学力がぐんと伸びる 0~6歳の見守り子育て』(KADOKAWA)。Instagramやブログ「わが家の小学校受験顛記」も好評。英国留学中の高校生とボーダーコリー3頭の母

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