「たったこれだけ!?」年金月33万円の〈子のいない〉元共働きのおしどり夫婦…70歳夫が亡くなったら?〈遺族年金見込み額〉に66歳妻、大激怒 【CFPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

ライフプランの選択肢が増え、子供を持たない夫婦も増えている昨今。2020年の国勢調査によると、「夫婦のみの世帯」は2005年から150万世帯ほど増加しています。では、もし子供がいない家庭で配偶者に先立たれた場合、遺族年金はどれくらい受け取れるのでしょうか? 本記事では、Aさんの事例とともに、子供がいない夫婦の年金についてCFPの伊藤貴徳氏が解説します。

おしどり夫婦のもとへ届いたある「知らせ」

Aさんは現在、夫と2人で暮らしています。お互いに子供を望まない生活を選び、早40年。2人とも無事に定年退職を果たし、現在はそれぞれの年金を受給してセカンドライフを過ごしています。

そんなある日、Aさんのもとへ高校時代の同級生のご主人が亡くなったという訃報が届きました。若いころからご主人とも親しくしていたAさんは、葬儀への参列を済ませ、家路に戻るとき、Aさんはこんなことを思います。

「自分や夫が亡くなることが、他人ごとではない年になったのね……。もしも夫が先に逝ってしまったら、私はいくら年金を受け取れるのかしら」

定年までサラリーマンだったAさん夫婦の場合

夫70歳(65歳定年まで会社員) 退職時までの平均年収600万円
妻66歳(60歳定年まで会社員) 退職時までの平均年収450万円

■現在の受取年金額
夫:19万円
(内訳)
老齢厚生年金 月約12万円
老齢基礎年金 月約7万円

妻:14万円
(内訳)
老齢厚生年金 月約7万円
老齢基礎年金 月約7万円

→合計月33万円

日本の年金制度について

日本には公的年金制度というものがあり、大きくわけると3つの種類があります。

・原則65歳から受け取ることのできる「老齢年金」
・障害状態となった場合に受け取ることのできる「障害年金」

・死亡した場合に遺族が受け取ることができる「遺族年金」

いずれかの状態となると受け取ることができる(65歳以上は種類によっては併給も可)

Aさんは現在66歳、夫は70歳なので、2人とも老齢年金を受給しています。 年金制度は2階建となっており、定年までサラリーマンだったAさんの夫は厚生年金と国民年金の両方を受け取ることができ、月換算でおよそ19万円の年金を受け取っています。

現在受け取っている「老齢年金」は、本人に万が一のことがあった場合には「遺族年金」となり、一定の遺族が受給することができます。 もし現時点でAさんの夫に万が一のことがあった場合の妻への遺族年金を考えてみましょう。

Aさんはいくら遺族年金を受け取れる?

■夫存命時の年金は?

夫の老齢年金
老齢厚生年金 約12万円
老齢基礎年金 約7万円

Aさんの老齢年金
老齢厚生年金 約7万円
老齢基礎年金 約7万円

合計 約33万円

■夫死亡時の年金は?
下記のいずれか大きいほうが遺族厚生年金となる

Aさんの老齢厚生年金12万円の3/4→9万円
Aさんの老齢厚生年金12万円の1/2→6万円
妻の老齢厚生年金約7万円の1/2→3.5万円

9万5,000円
→9万5,000円が遺族厚生年金となる (Aさんの老齢基礎年金は消滅)

Aさんの受取年金額
妻の老齢厚生年金 約7万円→9万5,000円へ増額
妻の老齢基礎年金 約7万円

妻の合計受取年金 約16万5,000円

仮にAさんに万が一のことがあった場合、今後の年金受取額は1ヵ月あたり約33万円から 約16万5,000円となることが判明しました。

「たったこれだけ!? 40年一緒にいて、2人で働いてきたのに……。夫に万が一のことがあれば夫の分の生活費は減るとはいえ、さすがに少なすぎるわよ!」とAさんは激怒します。

夫が死亡した場合、老齢厚生年金は遺族厚生年金となり、妻のAさんが受給できます。 遺族厚生年金の受給権者は下記のとおりのため、妻も対象なのです。

・子のある配偶者
・子(18歳の3月31日まで)
・子のいない配偶者
・父母
・孫
・祖父母

しかし、遺族基礎年金の受給権者は下記のとおりです。

・子のある配偶者
・子

つまり、子のいない配偶者であるAさんは遺族基礎年金の受給権者とはならず、夫の老齢基礎年金は遺族基礎年金として受け取ることはできないのです。

ちなみに、子とは18歳と3月31までの方のことを指すため、たとえば子供がいたとしてもすでに18歳を超えているような場合も子のある配偶者とは認められませんので注意が必要です。

いまからできる備えとは?

Aさんは現在の年金水準であれば過不足なく生活できていると言います。しかし、夫に万が一のことがあった場合に受け取れる年金額では、Aさんの生活は立ち行かなくなるかもしれないと強い危機感を覚えました。

「これからのいろいろな可能性を考えて、いま一度生活を見直してみようと思います。もしかしたらお金のかかる病気にかかるかも知れないし、私が先に逝ってしまうことだって考えられる。いまは無理なく生活できているけど、少しずつでもこれからのために取っておきます」

Aさん達のように子供のいない家族は、もし身の回りになにかあったときでも自分たちでなんとかしなくてはいけない状況が多く考えられます。加えて、いまは人生100年時代。将来までの長い道のりのなかでは経済的なリスクにさらされてしまうこともあるでしょう。

現状が問題ないことは十分素晴らしいことです。現在の生活費用が確保できているであれば、次は「万が一のときにも同じ生活が継続できるのか」考えてみることをお勧めします。

<参考>

伊藤 貴徳

伊藤FPオフィス

代表

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