ミン・ヒジン、NewJeansを成功に導いた異端の発想 「トレンドを無視した方がむしろ創意に富む」

NewJeansの躍進が止まらない。2022年7月のデビューから約1年半、彼女たちが何かしらのアクションを取る度に大きな話題を呼び、その一挙手一投足から目が離せない状況が続いている。2023年に輝いたアワードやノミネート、日々更新されるレコードを上げ出したらキリがなく、もはやその人気ぶりは説明不要と言っても過言ではないだろう。

そんな彼女たちの活躍を支えるのが、総括プロデューサーのミン・ヒジンだ。S.M.entertainmentからキャリアをスタートした彼女は、デザイン面を受け持つクリエイティブディレクターとしてSHINee、f(x)、EXO、Red Velvetらの制作に携わり、人気グループへと押し上げるのに一役買った。そこからHYBE(当時はBig Hit Entertainment)へ活躍の場を移し、2021年にHYBE傘下の新規レーベルADORを設立。その第一弾としてNewJeansをデビューさせた。

彼女のプロデュースはそのグループやシーンにおける常識の刷新、誰も見たことのない地平への挑戦が感じられる。結果論ではあるが、実際にNewJeansは登場以前と以降でK-POPの潮流を変えてみせた。とはいえ、脈々と支持されてきた大衆文化や歴史を否定するわけではない。それらへのリスペクトを込めながら、様々な時代の音楽や文化を掛け合わせることで新たな作品を生み出し、多くの人々に感動を届けている。

リアルサウンドでは、ミン・ヒジンにメールインタビュー。NewJeansへと至る彼女のルーツから、プロデューサーとしての思考、グループが世界的な人気を獲得するに至った要因などを聞いた。(編集部)

■NewJeansを起点にK-POPトレンドの変化を体感

ーーNewJeansはデビュー以降、目覚ましい勢いでグローバルな人気を獲得しています。客観的にはプロジェクトとして素晴らしいスタートを切った1年だったと感じますが、プロデューサーとしてNewJeansのデビュー~現在までの期間をどのように振り返りますか?

ミン・ヒジン:とても忙しく走ってきましたが、予想して計画した通りにいった安堵感もある一方で、これまでのいろいろな出来事が脳裏に浮かび、万感の思いが交錯します。

ーーデビューから約1年半の活動期間において、一番成功したと感じる点、驚いたことなどがあれば教えてください。

ミン・ヒジン:NewJeansを起点にK-POPトレンドの変化を体感しました。ずいぶん前から創作から事業まで、すべてのプロセスを併せて作業することを望んでいました。20年以上この業界に携わって感じたことですが、エンターテインメント事業はプロデュースと経営が同時に有機的に運営された時、初めて真の花を咲かせることができると思います。したがって音楽と視覚的コンセプトの具現化、マーケティング、事業がすべてひとつに連結され、一糸乱れずに動かなければなりません。

ですからすべての要素を分離して、コンセプトが重要だ、音楽が重要だ、メンバーが重要だ、マーケティングやビジネスが重要だ、といった比較論理は意味のないことだと感じます。それぞれ比較優位ではなく、互いが緊密に組み合わさっている関係だからです。繊細かつ緻密にそれぞれの領域を繋ぎ、実際に可視化して成果を出すということは、ブランディング以上の価値を含んでいると思います。

デビュー6カ月目に発表したNewJeans『OMG』の2曲ともビルボード「HOT 100」にチャートインしました。続いて発売されたNewJeans 2nd EP『Get Up』のタイトル曲3曲も同様です。「Ditto」、「OMG」はそれぞれ5週間と6週間、「Super Shy」は8週間チャートインしました。これといった海外PRやリミックスの発売なしに収めた成果なので、励みになります。

ーーNewJeansのメンバーとして、あの5人を選んだ理由とは?

ミン・ヒジン:理由はいくつかありますが、なにより5人の個性が極めて異なるということが挙げられます。グループ内で重複するポジションやイメージを作りたくありませんでした。不必要な競争構図やストレスを作りたくなかったからです。グループでの活動はチームワークが非常に重要です。全く異なる性格や個性の融合は個人個人に競争力があるという前提の下で、集団内に自然と自信を誘発させ、安定感を形成することができます。自発的にお互いの個性を尊重し、それぞれの魅力を自信を持ってアピールすることができる環境を生み出したかったのです。

ーーNewJeansのパフォーマンスやキャラクターについて、活動期間を通して新たに発見したグループの強みやメンバーの魅力はありますか?

ミン・ヒジン:たくさんあって説明が難しいですね(笑)。簡潔に述べるなら、NewJeansのメンバーたちの強みは、常にポジティブに学ぶ姿勢で仕事を楽しんでいるという点です。もちろんすべてが完璧ではなく、当然その過程には失敗もありますが、彼女たちは若くて純粋で才能に満ちあふれています! プロジェクトごとに私達は新たな学びの道に進んでいるので、スポンジのようなメンバーたちの未来が非常に楽しみですね。

ーーNewJeansの楽曲・映像・ビジュアルから伝わる“親近感”や“等身大”な雰囲気は、どのような狙いを持ってデザインされたのでしょうか?

ミン・ヒジン:自然な雰囲気のグループができたらいいな、という望みがありました。それが時代の流れであり、従来のスタイルとの差別化の面でも正しいと思ったのです。私が追求する音楽の方向性にも合致します。日常の自然さを、作り出した物として具現化するということは容易ではありません。個性に対する理解はもちろん、実際にも最大限人為的でない条件を備えなければならないという、非常に細かくデリケートで神経を使うことだからです。インタビューでは少々難しい説明かもしれませんが、メンバーや私のためにも「コンセプトのためのコンセプト」を作りたくはありませんでした。

ーーNewJeansの独自性は、従来のK-POPファン層とは異なる人々も魅了しています。この状況は戦略的なものだったのか、もしくは偶発的なものだったのか、どちらでしょうか?

ミン・ヒジン:最初の曲のコンセプトを決めて、チームの方向性を作る時から念頭に置いていた点でした。私の長年の望みのひとつですが、常に大衆文化のシーンでもっと様々な音楽と表現が紹介されてほしいと願っています。実際にその一環としてNewJeansというグループを企画したので、私たちがチャレンジするすべてのことが、大衆にどのような嬉しいシグナルとして作用するのだろうと思いました。そうなってこそシーンがより発展的で新しい方向に動くと思いました。

ーー緻密な市場分析を行った上でプロデュースされている印象を受けます。ミン・ヒジンさんが市場分析において重要視しているのはどんな要素ですか?

ミン・ヒジン:仕事に対して緻密なタイプではありますが、それが市場分析には該当しません。私は市場に関する資料を集めて分析するのではなく、目に見えない洞察力を信頼します。市場にすでに明らかになったシグナルを集めて分析し反映することは、むしろ遅い歩みを作ると思います。破片を集めるより全体的な流れに集中します。大衆の普遍心理に基づき、時代的な流れとその行方に注目して大きな流れを掴んで、それを表現するにあたりディテールの要素として、トレンドの片鱗をあちこちに配置して活用します。場合によってはトレンドを完全に無視することさえあります。目標と方向性が明確で、結果物に完成度まで揃えば、トレンドを無視した方がむしろ創意に富むことが多いです。

ーーNewJeans 1st EP『New Jeans』は4曲で13分、NewJeans 2nd EP『Get Up』は6曲で14分と1曲1曲が非常に短いです。尺の短い楽曲は世界的なトレンドでもありますが、楽曲を短くするメリットをどのように捉えていますか?

ミン・ヒジン:ショートコンテンツを狙って短くするという推測が多いですが、私たちはそうではありません。曲ごとに展開や流れというものがありますが、その構成の中で自然に曲の長さが決まるタイプです。場合によっては多少ありきたりな展開に感じられるヴァースやブリッジなどが削除されたりしますが、それもまた曲の洗練された流れのためであったり、完成度を基準に決めるものですから、意図的に曲の長さを決めて作業したりオーダーするというようなプロセスはむしろなんだか異質に感じられます。Interludeトラックの場合、文字通り「間奏」として挿入されるトラックなので長さにこだわる意味がないように、曲ごとに異なる理由と基準で長さが決まります。これまで曲の完成度のほかに、意図的な理由でわざと長さを調整したりすることはありませんでした。

■自分だけの感覚が通じる可能性も世の中に存在する

ーーこれまでミン・ヒジンさんは、様々なカルチャーを時代・文脈を超えて融合させることで、世間が驚くような作品を生み出してきたと感じています。今注目しているカルチャーや音楽はどんなものですか?

ミン・ヒジン:そうですね……私が思うに「注目される何か」は概ね本能的な直観に自信が加わって完成度が出てきたと思います。したがって、ある特定のジャンルや文化に影響を受けることよりは、好みに基づいた多様な文化的ソースをどのように再解釈、再構成し、新しい手段として完成度の高い表現をするのかに集中する方だと言えるでしょう。そのため、常にすべてのことに対して開かれていて関心が高かったりもしますが、逆にすべてに関心を失ったりもします。

ーープロデューサーとしてのルーツを教えてください。

ミン・ヒジン:幼い頃の私は音楽、映画、本が特に好きでした。特に音楽は幼い頃から、特定のジャンルに限られない自分だけのスタイルというものが明確にありました。例えばFrancis Lai、 Antonio Carlos Jobim、 Bruno Nicolaiなどです。それぞれフランス、ブラジル、イタリアのミュージシャンなんですが、特に様々な第三世界の音楽に夢中で、熱心に探して聴いていた記憶があります。その中でもAstrud Gilbertoの「The girl from ipanema」は私の人生最高の曲とも言えますが、楽しくもあり、仕事においてもとても大きな勇気になってくれた曲です。1964年に発表された「The girl from ipanema」は、当時ビルボード「HOT 100」で5位、アルバムチャートで96週間ランクインし、歴史上最も売れたジャズアルバムとして記録され、グラミー賞でも「今年のレコード」を受賞しました。ジャズという主流でないジャンルが大衆的に大きな異変を起こしたという事実が、私のビジョンにも触れていて、暗黙的に大きな力になりました。素敵な音楽はジャンルや時代を問わず、いつでも愛されることができるという確信を得ることができたのです。Astrud GilbertoやDusty Springfieldなどの淡泊で雰囲気のある歌唱スタイルを好む傾向が、グループのメンバーを選抜、構成する上でもある程度適用されていたような気もします。

13歳の頃だったと思うのですが、ラジオで偶然耳にした歌をどうしても探したかったことがありました。ところが当時はインターネットやスマートフォンがある時代ではなかったので、歌を探す方法がなく、あてもなく近所のレコードショップに駆け込み、恥ずかしさを押し切って店員さんの前でしゃがみ込んで歌を歌いました。もちろん歌詞も知らなかったし、聴いた記憶をたどって適当に口ずさんだのですが、そのレコードショップの店員さんが見事に探し当ててくれて、そうやって知ったミュージシャンがEarth, Wind & Fireでした。その店員さんがEarth, Wind & Fireの数多くのアルバムの中から、六本木ヴェルファーレ公演のライブアルバムを選んでくれたんですよ。そのライブアルバムでEarth, Wind & Fireというバンドに初めて接したんです。今でもEarth, Wind & Fireのすべてのアルバムの中で、あの時のヴェルファーレのライブアルバムが一番好きです。カセットテープが伸びるほど聴いて、そのアルバムの全曲すべてのアドリブを真似できるほどでした。私はもともときれいにレコーディングされたスタイルが好きな方ですが、あのライブアルバムがあまりにも印象的だったために、後日正式レコーディングバージョンのアルバムを聴いた時には少しがっかりしたほどでした(笑)。幼い頃に刺激を受けた様々なことが私の人生と仕事に影響を及ぼしたことはあまりにも明らかです。

ーー2ステップやドラムンベースをはじめ、NewJeanの楽曲には多彩なリズムアプローチが見られます。それらがここまでリスナーの熱狂を呼ぶと予想していましたか?

ミン・ヒジン:NewJeansのデビュー前は、誰も私たちの「多様なアプローチ」について予想することができませんでした。おそらく「期待」よりは、既存のものとは違う見慣れない異質感を憂慮する声を多く聞かなければいけませんでした。ところが大衆的に成功すると、その心配が歓迎の声に変わりました。結果的に成功がトレンドを牽引したわけですが、NewJeansが成功するかどうかについての多くの予測が虚像だったように、今後のトレンドの変化を予測するということも、どれほど意味のあることなのかわかりません。成功に牽引されたトレンドに従うよりは、持続的に新しい個性が市場に多様に広がることを願います。 NewJeansの成功が証明するシグナルはひとつです。「予測とは違う、自分だけの感覚が通じる可能性も世の中に存在する」ということ。

ーーダンスにおいても、ガールズクラッシュ的な攻撃性やクールさではなく、無邪気なかわいさやメンバーのナチュラルな表情を引き出そうという意図が感じられます。振り付けは、どんなところにこだわりを持っていますか?

ミン・ヒジン:私は総じて人間味が感じられる自然な動きが好きです。また、極端に女性らしい動作よりは中性的で淡泊な動きを好み、曲と相まって総合的な心地よさを生み出すことができるスタイルを追求します。同じダンスを踊っても人によって表現や雰囲気は変わるので、スキルに重点を置いた定型化された動作を磨かせるより、実際にメンバーたちが音楽を感じながらステージごと楽しめる形を作りたいと思いました。

ーーNewJeansは韓国におけるアワードでの複数受賞をはじめ、NewJeans 2nd EP『Get Up』が全米アルバムチャート(Billboard 200)で首位を記録、『Billboard Music Awards: 2023(BBMAs)』にて「Top Global K-Pop Artist」受賞、『2023 MTV Video Music Awards』ノミネートなど、輝かしい記録を次々と残しています。こういったアワードや記録を振り返った際に、NewJeansが世界的に高く評価された理由はどんなところにあると考えますか?

ミン・ヒジン:ある特定の集団をターゲットにしたというより、普遍的な感情に集中したからだと思います。私はいつも「私が必ず欲しい何かは、他の人々にとっても必ず欲しい何かであるだろう」という前提で仕事をする方です。

ーー日本デビューや単独公演などを心待ちにしているファンも多いのですが、NewJeansに対して我々はどんなことを期待していれば良いでしょうか?

ミン・ヒジン:大いに期待してくださってもいいと思います。

(文=泉夏音)

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