杉咲花が引く手あまたな理由 初の医師役に挑む『アンメット』は新たな代表作に?

杉咲花が、4月スタートのドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)で主演を務めることが発表された。本作は、“記憶障害の脳外科医”という前代未聞の主人公が、目の前の患者を全力で救い、自分自身も再生していく新たな医療ヒューマンドラマ。杉咲は、フジテレビ系連ドラ初主演となる本作で、初の医者役に挑戦する。

杉咲花が出演している作品は、絶対にいいものになる。そんな信頼を抱くようになったのは、いつからだろう。

思い返してみると、彼女の演技に初めて衝撃を受けたのは、2013年放送のドラマ『夜行観覧車』(TBS系)だった気がする。同作で杉咲が演じていたのは、学校でいじめられているストレスから、母親に家庭内暴力を振るうようになってしまった女子高生。

思春期特有のすべてをぶち壊したくなるような苛立ちを全面にむき出しにしていた鬼気迫る演技も印象的だったが、筆者が感銘を受けたのは、心の奥が見え隠れする表情。「うっせぇ!」「くそばばぁ!」「触んな!」と毒づきながらも、瞳のなかにはピュアな部分が残っていた。本当は、「お母さん、助けて」と全力で訴えているのかもしれない……と思う瞬間が多々あったのを覚えている。

そのほかにも、『十二人の死にたい子どもたち』(2019年)や、昨年公開の『法廷遊戯』や『市子』など、陰と陽で分けたら陰に位置する作品の、“影”を際立たせることができるのが、杉咲の強みだと思う。

一方で、『花のち晴れ~花男 Next Season~』(TBS系)や、『恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~』(日本テレビ系)のような王道ラブストーリーでも、輝きを放つことができるのがすごい。作品によって、自分が求められているのが影なのか光なのかを瞬時に察知し、180度異なる魅力を出せるのが、引く手あまたな理由なのだろう。

今回、杉咲が演じるミヤビは、ある事故で脳を損傷し、重い後遺症を抱えながら生きている。過去2年間の記憶がないだけでなく、今日のことも明日には忘れてしまうなんて、想像しただけでも過酷すぎる。それなのに、この物語にどこか光を感じるのはなぜだろう。

“アンメット”とは、直訳すると“満たされない”という意味を持つらしい。きっと、生きているなかで「満たされない」と思った経験がない人はいない。どんなに幸せな人でも、必ずどこかに満たされない想いを抱えている。そんなわたしたちのなかにある影に、ミヤビが寄り添ってくれるような気がするのだ。

たとえ満たされなかったとしても、ありのままの自分を愛してあげればいい。そうしていくうちに、いつか心が満たされる日が来るから……。本作は、そんなメッセージを届けてくれる作品になるはず。

ちなみに、本作の原作者・子鹿ゆずるは元脳外科医。そのため、作中に登場するさまざまな症例や医師たちの生き様は、リアリティを持ったものになっている。個性豊かな同僚たちと、毎回登場する患者たちによって、ミヤビがどのように変化していくのかも見どころのひとつだ。

また、ミヤビが事故によって忘れてしまった2年間の記憶というのが、本作の鍵を握ってくるらしい。取り出せなくなってしまった記憶のなかにある大きな秘密とは。物語が進むにつれて、ミヤビの本当の思いが明らかになっていくようだ。

『夜行観覧車』の怪演で脚光を浴び、2020年には『おちょやん』(NHK総合)で朝ドラヒロインに。今後も、『52ヘルツのクジラたち』『朽ちないサクラ』『片思い世界』と3本の映画で主演を務めることが決まっている杉咲にとって、『アンメット ある脳外科医の日記』は新たな代表作になるにちがいない。前代未聞の主人公・ミヤビを通して、彼女の新たな一面に出会えるのが楽しみだ。

(文=菜本かな)

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