KOHHとBAD HOP、国内ヒップホップシーンを広げた功績 トレンドにも適応して独自の存在へ

千葉雄喜(元KOHH)による楽曲「チーム友達」が配信開始となり、MVも公開されている。本楽曲は千葉雄喜名義で初のリリースということもあり、まさに今話題となっている最中だ。

2020年にKOHH名義での活動引退を宣言、2022年にKOHH名義でのアルバム『The Lost Tapes』を突如リリースして以降、音楽シーンに姿を見せることはなかった。振り返ってみれば、彼は現在の多様性に富んだ国内ヒップホップシーンを作った存在と言っても過言ではないだろう。簡潔に言えば、国内にトラップ以降の歌唱法を持ち込んだ第一人者だ。

略歴を書いておくと、彼は2008年にKOHHとして音楽活動を開始し、2012年に処女作となるミックステープ『YELLOW T△PE』をリリース。その翌年リリースした『YELLOW T△PE 2』収録曲「JUNJI TAKADA」が高田純次のラジオ番組で紹介され、その名を広めることとなった。その後リリースしたアルバム『MONOCHROME』『梔子』が異例のヒット、さらに韓国のラッパー Keith Apeの楽曲「It G Ma feat. JayAllDay, Loota, Okasian & Kohh」に客演として参加したことで世界に存在を認知される。2018年にリリースされたマライア・キャリーのアルバム『Caution』日本盤ボーナストラック「Runway feat. KOHH」にフィーチャーされたことも大きな話題となった。他にもフランク・オーシャンや宇多田ヒカルとの共演など、彼の魅力はシーンや国境を越える。

日本語ラップでありながらも海外から高い評価を得ているのは、当時は稀有なことであった。その理由は言葉数を減らすことによるトラップビートへの適応だろう。例えば上で挙げた「JUNJI TAKADA」では、トラップビートに文字数の少ないラップを乗せ、さらに語尾を「a a」の2文字でライムする。シンプルな手法だがこれにより馴染みやすいサウンドとなり、海外シーンに日本語の魅力を伝える役割を果たしたのだ。このニュースタイルは国内にも影響を与えている。キングギドラやRHYMESTERらが作った日本語ラップの土壌に一石を投じる形となり、トップへの道を一気に駆け上がった。

もちろんそれだけではなく、KOHHの歌唱センスの高さもポイントだ。文字数が少なく、1文字ずつが聴き取りやすいラップだからこそ、シャウトやハスキーボイスなどでアクセントがつけやすく、楽曲が映えるのだ。そして彼の書くリリックは赤裸々で、思ったこと、感じたことをそのまま歌い上げる。「チーム友達」はまさにそれである。自身の生い立ちやイズムをいかに上手い言い回しにしてラップするかが美徳とされてきた国内ヒップホップシーンにおいて、「ヤバいヤツが現れた」と騒がれる特異な存在であったのは誰もが認めることだろう。そんなKOHH、現・千葉雄喜の現在は『文學界』での連載「千葉雄喜の雑談」でも綴られている。

こうして国内ヒップホップシーンの多様化が進み、2024年、今まさに新たな金字塔を打ち立てようとしているのがBAD HOPである。ヒップホップアーティスト未踏の地である東京ドームでのライブがもうそこまで来ている。

彼らはUSメインストリームのトレンドを取り入れたビートに、等身大のリリックを乗せるスタイルを確立している。ブーンバップ、トラップ、ドリルなど様々なジャンルが乱立する現在のシーンにおいて、海外のトレンドにアンテナを張るBAD HOPの嗅覚は国内ヒップホップシーンの底上げに大きく貢献したと言えるだろう。

東京ドームでのラストライブはさることながら、2014年のデビューから解散まで事務所に所属せず、楽曲の制作から販売、さらにライブの演出までを全て自分たちでプロデュースしているストイックぶりや、有観客で行われるはずだったアリーナライブをコロナ禍の自粛要請のため無観客で開催、赤字覚悟でステージに臨むワイルドさも彼らが大衆を惹きつける理由だろう。ラストアルバム『BAD HOP』を携えたドームライブを経て、彼らもまたシーンに名を残すレジェンドとなる。

彼らが提示した新たなスタイルにより、今や大衆に受け入れられる音楽となった日本語ラップ。メディアで取り上げられる機会が増えたのはもちろん、最近ではヒップホップを聴くイメージがないアーティストからも「BAD HOPめっちゃ好きで……」という言葉が出たりする。また、様々な背景はあるが日本語ラップ楽曲がYouTubeの急上昇ランキング上位に滞在していることが多いのも、ラップ/ヒップホップというスタイルが国内でも受容されるようになった証拠と言えよう。名だたるレジェンドたち、そしてKOHHやBAD HOPによって開かれた国内ヒップホップシーンに、今後新たな足跡を残すアーティストの出現を期待したい。

(文=コバヤシタイキ)

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