蘇民祭、本紙記者が5年ぶり参加 奥州の黒石寺、最後の開催

伊熊会の参加者とともに夏参りで身を清める和合真也記者(中央)

 体を張って五穀豊穣(ほうじょう)と家内安全を祈る男衆の輝きに触れた。17日開かれ、千年以上とされる歴史に幕を下ろした岩手県奥州市水沢の奇祭「黒石寺蘇民祭」。初参加の2019年以来、5年ぶりに下帯を締めて臨んだ。

 同市江刺の団体「伊熊会」にお世話になった。股と腹にきつく食い込むさらしに気合が入る。午後6時すぎ、寺近くの瑠璃壺(るりつぼ)川(山内川)で身を清める夏参りで祭が始まった。「ジャッソー」「ジョヤサ」。邪を除くというかけ声が響く。男たちが数百メートルの列をつくり、方々からフラッシュの光が注ぐ。男衆も観衆も見たことのない人数だ。

 「蘇民将来」と叫んで水を3度かぶり、本堂やお堂の周り約600メートルを歩いて川に戻る。これを3回。参加者が多くて列が進まない。ぬれた下帯と足袋が体温を奪う。そけい部と足の裏が鉄のように固まり、歩くのもぎこちない。周回を重ねるとかけ声は腹の底から出る低い声に。「これが身を清めることか」。震えながら納得した。

 午後10時ごろ、本堂に通常の2倍以上の約270人が集まり蘇民袋争奪戦が始まった。前後左右から押し込められ、上半身の骨がきしみ、足の指も踏まれた。息ができない。先には蘇民袋を持つ集団がおり、湯気が上っていた。

 (和合真也)

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