副業で「同人ボイス」を作った男性 実際に売れた本数は……【後編】

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オタク向けのダウンロード販売サイトなどを中心に、ユーザーのニッチなニーズを受け止めて広がっている「同人ボイス」の世界。「自分でも作りたい」と、作品を販売している都内の30代男性に話を聞いてみると……。(取材・文:広中務、【前編】より続く)

初台本の完成までは数ヶ月。収録まではスムーズだったが……。

男性は、Web小説を発表するなど同人創作の経験こそあったものの、音声ドラマには初挑戦だった。台本を書き上げ、声優さんに読み上げてもらうところまではスムーズに進んだのだが、音声の「編集」を始めると、思うようには行かない現実に直面することとなった。

「同人ボイス」の編集とは主に、音声のスピードや間隔を調整したり、効果音などを付け足す作業のこと。台本を声優さんがうまく読んでくれたとしても、編集・演出がまずいと台無しになってしまう。

「編集ソフトの使い方は覚えたのですが、音声のタイミングとか間隔が難しくて。おまけに、台本のアラも見えて来て……」

男性は、文章力にはそこそこ自信があった。趣味で投稿していたWeb小説を途中で投げ出したりせずに、ちゃんと完結するまで書けていたからだ。それでも、音声ドラマの台本となると、また勝手が違ったようだ。

「よくもまあ、こんな文章を恥ずかしげもなく人に見せて、しかもお金を払って声に出して読み上げてもらったものだと、いささか自己嫌悪に陥りました」

ただ、この男性がえらいのは、そんな自己嫌悪にも負けずに完成まで持っていけたところ。結局、半年ほどかかったものの、なんとか納得する作品を仕上げることができたという。

「これだと思ったイラストレーターさんにイラストもお願いして、無事に発売することができたのが昨年のことです」

声優さんやイラストレーターさんへの報酬など諸々込みで投資額は「25万円程度」になってしまったとのこと。

さて、こうなると気になるのが、販売本数である。最初に聞いたときには「100本くらい」と見栄を張っていた男性だが、詳しく聞いていったところ、「実は10本も売れていないんです……」と教えてくれた。

結局、ノウハウゼロから手を出すのは、ハードルが高いジャンルだったもようだ。ただ、男性の場合、何かを作り上げた達成感は得られたという。

「本数に関係なく、自分の作品を買ってくれている人がいるのは嬉しいんです。ただ、ここまでの額は、自尊心を満たすには、ちょっと使い過ぎたかなと思っています」

残念ながら「副業」としては大失敗と言わざるを得ないが、金儲けだけが人生ではない。趣味としては満足いく結果になっているようで、男性は「まだ、アイデアはあるので、もういくつかは作ってみたい」と希望を語っていた。

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