肥前町舞台の「にあんちゃん」の心伝え20年 語り部、山口さん最後の講話

「にあんちゃん」の筆者・安本末子さんの同級生で、長年作品の魅力を伝えてきた山口駿一さん=唐津市の肥前文化会館ハーモニー

 唐津市肥前町の炭鉱町を舞台に、両親を亡くしたきょうだい4人が支え合いながらたくましく生きる姿を描いた「にあんちゃん」。著者の同級生で約20年にわたり作品の魅力を伝えてきた山口駿一さん(80)=肥前町=が18日、最後の講話を終えた。体力面で継続が難しくなったが、作品のメッセージがいつまでも地元で語り継がれることを願っている。

 同作は在日韓国人の安本末子さん=茨城県在住=が肥前町で暮らした少女時代をつづった日記。1958年に出版され、ベストセラーとなり、映画化や復刊を経て長く愛されている。地元への記念碑設置に取り組んできた「にあんちゃんの里づくり実行委員会」は同級生約30人でつくり、メンバーの山口さんは安本さんと手紙で近況のやり取りを重ね、小学校で語り部として毎年活動してきた。

 映画上映会とともに最後の講話が開かれ、市内外から約550人が集まった。韓国から肥前町の大鶴炭鉱へ移った安本さん家族の来歴を示し、「炭鉱が閉山に至るころの厳しい状況の中での生活の記録」と説明。地元への記念碑の設置では町内外の読者による寄付を受けて実現し「皆さんの、にあんちゃんへの愛着を感じた」と紹介した。

 安本さんとは小学5年で同じクラスだったが、会話したことは一度もなかった。高校時代に初めて日記を読み、「それが末子さんとの出会い。たびたび休んでいた理由が子守で、苦労していたことを初めて知った」と振り返る。

 体力や健康面で講話の継続が難しくなり、今回を最後と決めた。国語教育などの著作でも取り上げられ、今もなお家族の絆やいたわり合う心に多くの人々が胸を打たれている。「何らかの形で、にあんちゃんの心が引き継がれてほしい」と新たな動きに願いを託す。(横田千晶)

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