エジプトとガザ地区ラファとの境界で囲い建設や造成か 衛星画像

アリス・デイヴィース、ポール・アダムス外交担当編集委員、BBCニュース

エジプトとパレスチナ自治区ガザ地区の境界沿いで、大規模な建設工事が行われている様子が、人工衛星写真から明らかになった。パレスチナ難民を居住させるためのものだと報じられている。

匿名のエジプト関係筋が報道機関に話したところによると、この工事では、イスラエルがガザ地区最南端の都市ラファへの地上攻撃を開始した時に備え、エジプト北部シナイ半島に、壁で囲まれ隔離された緩衝地帯を造っているという。

また、人権団体の報告では、この地域に高さ7メートルの壁が建設されているという。

エジプトは公式には、こうした準備を否定している。

イスラエルのヨアヴ・ガラント国防相も、「パレスチナの民間人をエジプトに避難させる意図はない」としている。

昨年10月7日にイスラム組織ハマスがイスラエルを襲撃し、イスラエルがガザ地区での報復攻撃を開始して以来、エジプトは一貫して、難民のために国境を開くことはないと主張してきた。

エジプトのこのような態度は、パレスチナ人の大規模な強制移住に加担していると思われたくないという理由もあるが、経済的・安全保障的な懸念からでもある。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、国際的な警告にもかかわらず、約140万人が避難しているラファへの大規模な攻撃を始めようとしているもようだ。

イスラエルは、ハマスがラファにおり、「排除」しなければならないと主張している。また、イスラエル人の人質がラファに拘束されているとも考えている。人質のうち、130人は行方が分からなくなっている。

ラファへの攻撃計画に先立ち、イスラエルは民間人に街の北側の開けた場所に移動するよう指示している。

ネタニヤフ首相は、「ラファの北側を整地した地域」についてあいまいな発言をしている。避難計画はまだ初期段階にあるとみられている。

イスラエルはガザ地区北部で戦闘が行われていた戦争初期、パレスチナ人にラファに向かうよう指示していた。

ネタニヤフ首相は15日、「我々は完全勝利まで戦う。これには、民間人を戦闘地域から退去させた後、ラファでも強力な行動をとることが含まれる」と述べた。

こうしたなか、米マクサー・テクノロジーズが撮影した最新の人工衛星画像では、エジプトが来たるべき攻撃の結果に対して、事前に対策を取ると決めた可能性が示された。

2月15日に撮影された画像では、ラファ検問所に近い大きな区画が整備されている。

5日前に撮影された同じ区画の画像と比較するとわかるように、作業はここ数日で完了したようだ。

エジプト・北シナイ県のムハメド・ショウシャ知事は15日、サウジアラビアのテレビ番組に出演し、同地域での活動は、エジプトが過去に行った武装組織「イスラム国(IS)」に対する作戦で破壊された「家屋の記録を作成するため」だと説明した。

ショウシャ知事はまた、エジプトは「ガザ住民のエジプトへの強制移住を認めない」立場だと述べた。

しかし、やはり15日に撮影された別の人工衛星画像では、整備された国境地域に面する道路に建設用の作業車両がいる様子や、大きな壁を建設しているような様子が写っていた。

下の拡大画像では、建設された壁と、地面に置かれた壁用のパネルの隣に、車両が1台写っている。

こうした画像に加え、エジプトの人権団体「シナイ人権基金」のメンバーによって撮影・公表された写真や映像などからも、建設が進んでいる様子が明らかになっている。

シナイ人権基金は今週発表した報告書の中で、映像からは、この地域に7メートルの壁に囲まれた区画が建設されていることが分かると主張した。BBCはこの映像を独自に検証できていない。

報告書はまた、関係筋の話として、この建設作業は、「ガザ地区の住民が大量に流出した場合に、ガザからの難民を受け入れる」ことを目的に進められていると説明した。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、エジプト政府高官と安全保障アナリストがこの報告を認めたと報道。建設中の区画は広さ20.7平方キロメートルで、10万人以上を収容できるとしている。

イスラエルのガラント国防相は15日、「イスラエルにはパレスチナの民間人をエジプトに避難させる意図はない」と強調した。

「我々は、この地域と重要なパートナとの安定の基礎である、エジプトとの和平条約を尊重している」

イスラエルは、パレスチナ人をガザから追い出していると見られるわけにはいかないと分かっている。だが、人々が出て行こうとするのを阻止するわけではない。

エジプトが10万人規模の難民を受け入れてくれるのであれば、イスラエルが邪魔をすることはないだろう(10万人という人数は、シナイ半島に建設されている囲いの収容人数を一部で試算した結果による)。

国連関係者は、大規模な集団避難が迫っているのではないかと深く懸念している。ある関係者は匿名を条件に、「その方向に向かっているようだ」とBBCに語った。

ミュンヘン安全保障会議に出席したフィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官はロイター通信の取材で、ラファからエジプトに難民が流入すれば、「パレスチナ人にとって、エジプトにとって、そして将来の平和にとって大惨事となる」と警告した。

パレスチナ人にとって、境界を越えた避難は追放と感じられるものだ。エジプトへの「追放」は、彼らが最も恐れているものでもある。

ガザ地区の住民の約8割は、イスラエル独立戦争で村から追われた人々の子孫だ。

祖国の最後の一片であるガザを離れることを、多くの人は1948年の「ナクバ(大災厄)」の再来と感じるはずだ。

境界を越えてすぐの難民キャンプが一時的な避難所と説明されても、ガザを離れるときのショックは計り知れないだろう。

イスラエルはこれを自発的な動き、つまりエジプトの招待に応じたものだと表現したいのだろうが、パレスチナ人にしてみれば、イスラエルによる4カ月以上にわたるガザ地区への攻撃の後では、強制的な追放以外の何ものでもないだろう。

ハマスが運営するガザ地区の保健省によると、イスラエルによる攻撃でこれまでに、女性と子どもを中心に少なくとも2万8775人が殺された。

イスラエルは、ハマス率いる武装集団が昨年10月7日に自国領土への奇襲攻撃で約1200人を殺害し、253人の人質を連れ去った後、作戦を開始した。

(英語記事 Israel Gaza war: Satellite images show construction on Egypt's border

© BBCグローバルニュースジャパン株式会社