ファッション感覚で乗っても似合う!?新型クラウン スポーツ PHEVに初試乗。センスの良さと類まれな信頼感こそ「RS」たるゆえんか?

クラウンとしてはちょっと新機軸なスタンスが「カッコいい!」と大評判になっている、新型クラウン スポーツの上級グレード「PHEV(プラグインハイブリッド)」に公道で初試乗。従来のHEVに対して大きなアドバンテージと言える街乗り×EV走行の気持ちよさを中心に、新たな「スポーツRSの価値」をチェックしてみました。

マルチパスウェイがもたらしたもうひとつの「挑戦」

MM編集部で先日、ちょっとした「議論(四方山話とも言う)」が交わされました。

「イチバン、カッコいい」と思うのは、どの新型クラウン?

全長4720×全幅1880mmは、スポーツZと同じ。全高のみ5mm高い1570mmとなっている。

それなりにありがちですが、そういう話題で盛り上がることができるのも、4つの際立つ個性を取りそろえた新型クラウンならではの面白さ。トヨタが提唱する「マルチパスウェイ」というクルマの未来は、パワートレーンに限らないさまざまな「カタチ」での可能性を秘めています。

それはさておきの四方山話の結果はと言えば、実はみごとに割れました。列席した4人が全員、違う車型を選択。クロスオーバー、セダン、スポーツ、そしてエステート・・・「カッコよさ」の捉えどころはそれぞれあれど好みの問題もありますが、結局はそれぞれのライフスタイルに関係するのも当然と言えば当然かな・・・。

そうは言っても、改めて新型クラウン スポーツの実車を前にしていると、ピュアな「クルマとしてのカッコよさ」では軍配が上がるような気がしてきます。立体感あふれるフロントマスクしかり、ボディサイドの複雑な曲面のコーディネイトが生み出す肉感しかり、大胆に絞り込まれたリアまわりの流麗さもまたしかり。

こんなに「カッコいいクラウン」が必要なの?

とくに今回、試乗したPHEV搭載グレード「クラウン SPORT RS(以下 スポーツRS)」には、HEVの「Z」以上にさりげなく精悍な印象を感じました。エッジを効かせているのはやはり、専用のマットブラック塗装を施したホイールのスポークの間から覗く真紅のキャリパーでしょう。

車両重量は2030kgに達し、スポーツZと比べると220kg重い。それでもWLTC総合モード燃費が1km/Lしか劣らない(20.3km/L)のは、さすが。ちなみに高速道路モードでは0.6km/Lまで差が縮まる。

ブラックのドアウィンドウモールディング(Zにもオプション設定あり)も含めて、クラウンブランドとしては一歩踏み込んだ感のある自己主張はシンプルに魅力的です。スポーツRSの価格は765万円。590万円のスポーツ Zと比べると、そうとうなグレードアップを期待してもよさそうです。

一方で個人的には、その類まれなカッコよさが実は疑問のタネでもありました。クラウンというブランドとして、ここまで躍動感あふれるスタイルが果たして必要とされているんだろうか・・・という素朴な?です。

それは「世界観」に対する「?」と言いかえても、いいかもしれません。ほかの新型クラウンの3つの車型が描く世界観は、なんとなくわかりやすいんです。クロスオーバーはアクティブだし、セダンはフォーマル、エステートはマルチパーパスといったところでしょうか。

さて、それではクラウン スポーツはいかに。素朴な?に応えてくれるヒントは、やっぱりデザインにありました。それも、スポーツRSで採用された新しいインテリアのコーディネイトに。

運転席と助手席、それぞれに似合う「色・気」の使い分け

トヨタが謳うHEV/PHEV共通のクラウンスポーツのコンセプトは「エモーショナルで創造的な雰囲気を持ち、乗り降りや運転のしやすいパッケージと共に、俊敏でスポーティな走りが楽しめる、新しいカタチのスポーティSUV」です。

他の新型クラウンシリーズと同様に、ディスプレイや各種操作スイッチ、シフト、ドライブモード切替スイッチなどを、センターコンソールに集中配置した「アイランドアーキテクチャー」を採用。運転に集中できる適度な包まれ感を生んでいる。

注目したいのは、その「エモーショナルで創造的な雰囲気」の部分。スポーツRS専用に設定された華やかブラックとレッドのカラーコンビインテリアは、オーナーになる悦びをストレートに感じさせてくれる特別感にあふれています。

ブラック×レッドによる左右非対称のカラーコーディネイトのインパクトは鮮烈。Zの設定色であるサンドベージュに比べると運転席側と助手席側のコントラストが思い切り際立ちます。もちろんトータルでのあでやかさはどこに座っても味わえますが、ドライバーの視界はブラックが主となっているので、運転に集中することができそうです。

対照的に助手席側は、常にほどよい高揚感を堪能できる演出です。しかもこの赤がまた、新しい。「センシュアルレッド」と名付けられたカラードレザーは、新開発の光輝材を練りこんだもの。陰影のコントラストが際立つ上に、ほどよいキラ感が楽しめます。

派手すぎない塩梅も絶妙。スポーツウェアにも通じる高い機能性を備えた上質なファッション性を感じさせます。加えて個人的には「なんだか美味しそう」で・・・しっとりとした質感とあいまって、ちょっと高級なベリー系デザートをイメージしてしまいました。

乗る人のセンスの良さをわかりやすくアピール

シートベルトも赤、そこかしこに赤いステッチ。デザインを担当した開発者によれば、そのインテリアが描き出す世界観のひとつが、オーナーの奥様が思い切りオシャレをして運転するシーンなのだそう。

ショルダー部のホールド性を高めたシルエットが、洗練されたスポーティ感を演出するRS専用シート。赤ステッチに加え、本革もスポーツレザーが採用されている特別な仕様だ。運転席は8ウェイ、助手席は4ウェイの電動調節機能を備える。

女性が愛用するような高級バッグをさりげなく後席にポンと置いておくのが似合う、そんなコーディネイトです。

個人的には、奥様とオシャレ友達がふたりで、郊外のショッピングモールやゴルフに出かけるシーンにめちゃくちゃ似合いそう、だと思いましたが、デザイナーが込めた思いは実はもっと深いところにあるようです。

いわく、従来のクラウンでは奥様が運転していると、いかにも「ご主人に借りてきたクルマ」という印象になりがちだったのだとか。クラウン スポーツRSではそんな借りてきた猫感は薄められて、女性であってもしっかりセンスの良さをアピールすることができると言います。

というわけで、クラウン スポーツRSのオーナーにはぜひ「ファッショナブル」という世界観を楽しんでいただきたい、と思った次第。もちろん女性限定というわけではなく、男性だって贅沢なオシャレ時間を楽しんめることは、言うまでもありません。

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E-Fourとショートホイールベースのマッチングも良好

「スポーツ」を謳う以上、走りの楽しさもまた重要なポイント。今回の試乗では、都内一般道のみを走りましたが、ワインディング路での走りの気持ちよさにも多いに期待していいでしょう。

マスの大きさは常に感じられるものの、ハンドリング自体は極めてニュートラル。PDA(プロドライブアシスト)はデフォルトでオフになっているが、それなしでも安心感の高いドライビングを楽しむことができた。

発進時やコーナリング時には最適な前後トルク配分をまるでドライバーの意識と一体化しているかのように操ってくれるE-Four(電気式4WDシステム)は、クロスオーバー(G/X)と同系のメカニズム。スポーツRSでも、卓越したコントロール性を発揮してくれるはずです。

クロスオーバーRSに採用される「E-Four Advance」ほどのアグレッシブな制御は入っていませんが、それはもしかするとクロスオーバーに対して80mm短いホイールベースに対応した最適解なのかもれません。

クロスオーバーでも違和感のないシャープなハンドリングをサポートしてくれたDRS(ダイナミックリアステアリング)もまた、ショートホイールベースなスポーツの特性に合わせて、ゲインをやや低めた味付け。ドライバーが積極的に操る楽しさが、より身近なレベルで楽しめそうです。

タイヤ、ブレーキのアップグレードが安心感につながる

精密な駆動制御とともに、HEV仕様に対しておよそ200kgも増えた車両重量が、街乗りでは「重厚感=質感の高さ」という恩恵につながっているように思えました。なにしろ乗り心地が良いんです!

ホイールベースは、クロスオーバーよりも80mm短い2770mm。最低地上高は165mmが確保されている。

クロスオーバーに対して10mm幅広に設定された21インチの大径タイヤ、ショートホイールベース化はともすれば対アンジュレーション、突き上げなどの面でネガティブ要件につながりそうですが、スポーツRSでもそれらの不快感を見事に「丸めて」います。

スポーツZをベースに、フロアトンネル部にブレースを追加することで、ボディ剛性の最適なバランスを追求。それに合わせた前後ショックアブソーバの摩擦特性や減衰力特性の最適化は一般道レベルでも、コーナリング時のフラットな姿勢など確かなスポーツ性能を感じさせてくれました。同時に、日常遣いにおける心地よいしなやかさ、というメリットをもたらしているようです。

本質はスポーティな走り向けと思われながら、しっかり心地よさにつながる走りのデバイスと言えば、スポーツRS専用の20インチ対向6ピストンアルミキャリパーも、上級感の向上に貢献しています。

2トンを超えるボディながら、ブレーキペダルを踏み込めば欲しいだけの減速Gをスムーズに生んでくれるので、流れをリードするような走りでも安心感が違います。ワイドタイヤの採用と合わせて単なる絶対性能とは違う意味で、スポーツRSの洗練された操りやすさを支えているデバイス、と言っていいでしょう。

EVモード×SPORTモードが気持ち良すぎる

ファッション性に富んだ上級スポーティSUVとして、新型クラウン スポーツRSはハイレベルな仕上がりを実感させてくれました。加えて、街乗り試乗で驚かされたのは、PHEVとしての強みが生きる優れたEV走行性能でした。

51Ahのリチウムイオンバッテリーを床下に配置。重心高の低さは、フラットな乗り味にもつながっている。電力の余裕を生かす方向でフロントにより強力な電気モーターを採用、アクセルワークに対する荷重移動や車速コントロールのレスポンスを高める味付けとなっている。

スポーツ RSでは、EV/HVの優先制御切り替えスイッチをシフト手前に配置。CHARGEモードへの切り替えも、これで行います。

EV走行での航続距離はWLTCモードで90kmを確保していますが、バッテリー残量が十二分であればその最高速度は、新東名高速のハイスピード区間でも大丈夫なレベルに達しています。つまりスペックだけ見ても、街乗りはもちろん有料道路を走るような通勤シーン(あるいはお買い物シーン)でも、ほぼほぼEVとして使うことが可能だと考えられます。

しかもただ「走れるだけ」ではなく、加速する過程そのものが気持ちいい。

NORMAL/SPORT/ECO/CUSTOMという4つのドライブモードを選択可能ですが、オススメは「とりあえずSPORT」。シャープかつスムーズな加速感がシームレスに楽しめます。実際、一般道ではエンジンがかからないように丁寧なアクセルワークを心がけても、面白いように流れをリードすることができました。

HEVと同じA25A-FXS型2.5L直4エンジンの最高出力はやや絞られています(HEV:186ps→PHEV:177ps)。しかし組み合わされる前後2モーター プラグインハイブリッドシステムでは、逆にフロントモーターの出力/トルクはHEVが120ps/202Nmなのに対して、PHEVは182ps/270Nmと大幅に高められています。

リアモーターは同じ54ps/121Nmですから、フロントモーターの余裕がEVとしてのスポーツRSのポテンシャルを高めているカギと言えます。

駆動用電池はHEVのバイポーラ型ニッケル水素電池5Ahに対して、51Ahまで大容量化されたリチウムイオンバッテリーを採用。その余裕を生かして、レスポンスに優れる電気モーターを積極的に活用、優れたドライバビリティを生みました。

ECOモードは少々おっとりし過ぎでは?

ドライブモードがNORMALでも十分流れはリードできるので、ほどほどのゆとり感(と言ってもそうとう速いけど)でOKなら十二分にアリ。

手前がEVとHVの走行モードを切り替えるスイッチ。HVモードでは電力を節約する方向で効率のよい走行状態に切り替える。左側のAUTO EV/HVモードスイッチは、EV走行をメインとしながら必要な時に自動制御でエンジンを作動させる。

ECOでも試してみたのですが、こちらはあえておススメしません。発進時はもちろん、クルーズ状態(あくまで街乗り低速レベル)でもアクセル操作に対するツキが穏やかすぎて、フラストレーションがたまるような気がしたからです。

エンジンを始動させないためにはアクセルの踏み込み加減へのもちろん配慮が必要ですが、目的地から自宅まで往復30~40kmくらいの行程なら、EV走行一択で日々を過ごせそうです。自宅での充電インフラが整っているならなおさら、ガソリンはエマージェンシー用と考えていいでしょう。

さらに、最大50kWまでの急速充電にも対応しているので、出先での継ぎ足し充電でもストレスは少なくてすむはず。WLTCモード(20.3km/L)で単純計算すると、満充電90km分に55Lタンク満タン分を加えてトータル1206km走ることが可能ですが、急速充電も効果的に利用すればさらに超ロング&エコなツーリングが楽しめそうです。

SA充電の30分ルールでは、80%いっぱいまで継ぎ足すのは難しいものの、連続して充電しても効率が落ちることはないそうです。それなら充電時間のロスを考慮しながら。EV走行中心でのドライブ計画が立てやすいかもしれません。

チャージ中にも気持ちよさが持続すると、なお良し

一方、エンジンと電気モーターの協調制御を最適化するHVレンジでの走りはいかがなものでしょうか?

A25A-FXS型パワーユニットは、HEVと同型。VVT-iEやD-4Sといった高効率テクノロジーに加え、可変冷却システムなどによって積極的な燃費向上が図られている。PHEVでは、フロントモーターによるアシスト量が増えている分、エンジン出力自体はわずかに絞られた。

スポーツRSのシステム最高出力は225kW(306ps)。数値的には、スポーツZ(HEV)の172kW(234ps)とクロスオーバーRSの2.4L デュアルブーストハイブリッド:257kW(349ps)の間に位置します。それはもう、遅いわけなどあるはずがありません。条件さえ許せば、強烈なダッシュ力を発揮してくれます。

もっとも、一般道の速度域では速さよりも、電気モーターとエンジン作動領域のシームレスな「分業」ぶりが好印象でした。意識してラフにアクセルを開けたり閉めたりを繰り返さない限りは、想像以上にエンジンの存在を意識することはなさそうです。

対照的に、CHARGEモードはかなりエンジンの主張が明確になっています。バッテリーの充電を行うためにほぼエンジンがかかった状態になるのですが、ややノイジーでレスポンスもかなりダルに感じられました。

「官能的であれ」とまでは求めません。ただ、もう少し操る楽しさをスポイルしない範囲で、音も含めた感性領域での「心地よさ」を高めてもらえると、さらにスポーツRSらしいエモーショナル感が高まるような気がしました。

自由自在の外部給電など、付加価値も盛りだくさん

試乗後、開発メンバーとの懇談の席で「想定しているライバルは?」と尋ねてみました。返ってきたのは、性能目標的に明確に想定したライバルはいません、というレス。

タイトめのコーナリングでは、フラットな姿勢が印象に残った。摩擦特性にまでこだわったというショックアブソーバーのおかげもあるのか、「スポーツ」とは思えない洗練した乗り心地だ。

とはいえ人気沸騰中のSUVカテゴリーの中でも、スタイリッシュかつスポーティなSUVは激戦区となっています。選ぶ側からはそれなりに、シビアな目で見られることは間違いないでしょう。

PHEVに限りませんが、クラウン スポーツという存在が、新機軸てんこ盛りの「新型クラウン」というブランドになおいっそう新鮮な風を吹き込むことは間違いなく、それがどんなふうに受け入れられるのかは、やはり気になるところです。

PHEVならではの実用面でのプラスアルファな才能も活用すれば、そのバリューをさらに実感できることでしょう。普通充電時にエンジンをかけずに室内で過ごせる「マイルームモード」は、日常的に活用できそうだし、アクセサリーコンセントおよび付属のヴィークルコネクターによって、気軽に外部給電できるところも、スポーツRSのマルチタレント性を実感できるはずです。

災害などの非常時にV2H対応も可能。しかもエンジンで発電することによって、最大でおよそ6.5日分(一般家庭が日常使用する電気量から想定)の電力が供給できます。

ちなみに冒頭の議論の際、ひとりのスタッフが最近、知己のポルシェ マカンオーナーの意外な変心に驚かされた、と語っていました。通勤時に前を通るガレージからある日、カッコいいポルシェが姿を消していたのだそうです。

オーナーに消息を尋ねたところ、買い替えたので新しいクルマの納車を待っているのだとか。はい、なにを隠そうそれこそがクラウン スポーツなのでした。

RSかどうかは定かではありませんが・・・なるほど、選ぶ側からすればクラウン スポーツの「立ち位置」はやはり「そのあたり」にあるようです。(写真:伊藤嘉啓)

クラウン スポーツ RS 主要諸元

●全長×全幅×全高:4720×1880×1570mm
●ホイールベース:2770mm
●車両重量:2030kg
●エンジン:直4 DOHCターボ+モーター×2
●総排気量:2487cc
●最高出力:130kW(177ps)/6000rpm
●最大トルク:219Nm(22.3kgm)/3600rpm
●モーター最高出力 前+後:134kW(182ps)+40kW(54ps)
●モーター最大トルク 前+後:270Nm(27.5kgm)+121Nm(12.3kgm)
●トランスミッション:電気式無段変速機
●駆動方式:フロント横置き4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・55L
●WLTCモード燃費:20.3km/L
●タイヤサイズ:235/45R21
●車両価格(税込):765万円

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