金価格上昇の裏で低迷する「プラチナ価格」。希少性で勝るはずが…一体なぜ?

ゴールドとプラチナの関係性

「『プラチナ会員』のステータスは維持されるか?」というタイトルのレポートが出ています。ニッセイ基礎研究所の「研究者の目(2024年2月9日)」に掲載されています。

タイトルだけを見ると、「クレジットカードの話だろうか?」と思われるのではないでしょうか。

クレジットカードに限った話ではありませんが、さまざまな会員制サービスでは、たとえば「シルバー会員」→「ゴールド会員」→「プラチナ会員」というようにランクアップします。クレジットカードでも、「一般カード」の上に「ゴールドカード」があり、さらにその上に「プラチナカード」があります。

最近のクレジットカードは、プラチナの上に「ブラックカード」があったりもしますが、ひとまずブラックカードは置いておき、ゴールドとプラチナの関係性について考えてみましょう。

なぜプラチナカード、もしくはプラチナ会員が、ゴールドカードやゴールド会員よりも上位なのかと言うと、貴金属の金とプラチナの関係性にあります。貴金属の希少価値という点では、金に対してプラチナの方が上だからです。より希少性のあるものほど、その値段は高くなります。そのため、かつてはプラチナの価格が、金のそれを上回っていました。

プラチナに“希少性がある”と言われる理由

貴金属の希少性は埋蔵量の差を見ても一目瞭然です。これまで産出された分も含めて、金の埋蔵量は約5万4000トンと見られていますが、プラチナのそれは約1万6000トンです。年間の産出量も、金が約3000トンであるのに対し、プラチナは約182トンです。

金の産出国と言えば、かつては南アフリカがトップのイメージでしたが、状況はかなり大きく変わってきています。南アフリカの産出量はこの15年で大きく減少し、代わりにトップに就いているのが中国です。2022年の金産出量を国別に10位までランキングすると、以下のようになります。

中国・・・・・・330トン

オーストラリア・・・・・・320トン
ロシア・・・・・・320トン
カナダ・・・・・・220トン
米国・・・・・・170トン
カザフスタン・・・・・・120トン
メキシコ・・・・・・120トン
南アフリカ・・・・・・110トン
ペルー・・・・・・100トン
ウズベキスタン・・・・・・100トン

これに対してプラチナはどうでしょうか。

南アフリカ・・・・・・124.4トン
ロシア・・・・・・20トン
ジンバブエ・・・・・・17.1トン
カナダ・・・・・・5.4トン
米国・・・・・・3トン
中国・・・・・・2.8トン
フィンランド・・・・・・1.2トン
コロンビア・・・・・・0.4トン
オーストラリア・・・・・・0.09トン
エチオピア・・・・・・0.01トン

金の年間産出量は、中国、オーストラリア、ロシアの3カ国でほぼ同量ですが、プラチナの場合、南アフリカに集中しています。このように、特定国に偏在していることから、プラチナはもともと地球上にあった物質ではなく、隕石(いんせき)の衝突によって宇宙からもたらされたものという見方もあるくらいです。

金価格上昇の一方、低迷するプラチナ価格

このように世界的に見ても埋蔵されている量が偏在しており、かつ埋蔵量、これまでの産出量のいずれも少ないために、その希少性から金に比べて高く評価されてきたプラチナですが、この10年ほど、金に比べて価格が低迷しています。

そのため、同レポートにもあるように、「『プラチナ会員』のステータスは維持されるか?」という懸念につながるわけですが、なぜ金価格が上昇する一方で、それ以上に希少性の高いプラチナの価格が低迷続きなのでしょうか。

同レポートでは、「安全資産・インフレヘッジ資産として投資需要が多い金は、世界的なインフレ懸念や地政学リスク・景気減速懸念の高まり、ドル離れを勧める一部中央銀行による金購入などを背景に価格を大きく切り上げた。(中略)プラチナにとっても、同じ貴金属である金の価格上昇は価格上昇要因となるが、プラチナの需要の大半は工業用途であるため、世界的な景気減速(並びに減速懸念)が価格の重石となってきた」と指摘しています。

総需要に対する各需要の比率を見てみましょう。

<金>

・宝飾品・・・・・・48.7%
・工業用途・・・・・・6.7%
・投資・・・・・・21.2%
・公的機関・・・・・・23.3%

<プラチナ>

・自動車触媒・・・・・・41.1%
・宝飾品・・・・・・18.1%
・産業用・・・・・・37.0%
・投資・・・・・・3.8%

以上のようになっています。同レポートが指摘しているように、「プラチナの需要の大半は工業用途であるため、世界的な景気減速(並びに減速懸念)が価格の重石となってきた」のは事実でしょう。

また、それと同時に注目したいのは、金の需要に含まれている「公的機関」です。ここで言う公的機関とは、国が外貨準備として保有している金を指しています。

公的機関が保有している金の需要を時系列でみると、2004年から2009年まではマイナスが続いています。つまり外貨準備で保有していた金を売りに出していたことを意味します。

ところが、2010年を機に公的機関による金の買いが増え始めてきました。トン数で言うと、2010年が79トンの買い越しであり、その後は毎年400トンから600トンの買い越しが続き、2022年の買い越しは1000トンを超えました。ちなみに2023年も1037トンの買い越しです。

金が各国の外貨準備に組み入れられているのは、金を「無国籍通貨」として見ているからです。

ご存じのように、金は非常に高い流動性を持っていて、国際金市場でいつでも売却できます。かつ、多くの国が外貨準備の中心として保有している米ドルは、もし米国政府がデフォルトに陥ったりしたら、その時点で紙切れになる恐れがあります。

でも、金は世界共通の価値が認められているため、米ドル危機が生じたとしても価値を毀損(きそん)するリスクがありません。そのため各国政府は外貨準備に組み入れる金の量を年々、増やしています。この公的機関による買い越し増が、金価格を押し上げてきた側面は無視できません。

公的機関に買われないプラチナ

では、プラチナは外貨準備に組み入れられないのでしょうか。同じ貴金属なのだから、金と同様に外貨準備の1つとして組み入れられているようにも思えますが、実はプラチナを外貨準備に組み入れている国はありません。

なぜなら、希少価値はあるものの、希少過ぎて市場での流動性が極めて薄いからです。流動性が極端に低いと、価格の値動きも激しくなりがちです。そのためプラチナは、専ら工業用途が中心であり、公的機関の買いが全くない状態にあるのです。

この公的機関による買いがあり、かつその量が年々増加傾向にあるところで、金とプラチナの価格差が拡大している面もあるでしょう。直近でも、中国の中央銀行である人民銀行が保有している金の量が、15カ月連続で前月を超え、2024年1月末時点で約2245トンになったという報道がありました。

こうした公的機関による金買いは、米ドルに対する信認低下を意味するものという指摘もありますが、いずれにしても公的機関による金の買いが続く限り、希少性を無視した金とプラチナの価格逆転が続きそうです。

それがクレジットカードや会員制のランキングにどういう影響を及ぼすのかは、よく分かりませんが……。

参考
・ニッセイ基礎研究所「『プラチナ会員』のステータスは維持されるか?~プラチナ価格は金価格の約4割に転落」

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。


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