味方への要求、川崎らしさの提示。新キャプテン・脇坂泰斗が目指すJリーグで突き抜けた存在への挑戦【スペシャルインタビュー後編】

14番を背負い、今季は新キャプテンに就任。まさに川崎の顔となった脇坂泰斗が新シーズンに懸ける想いとは。去就が注目されたオフを含め、2024年への決意を語ってもらったインタビューの後編をお届けする。

――◆――◆――

川崎で戦う。

そう決意したからこそ、2024年への想いは並々ならぬものがある。

「個人の力でチームを引き上げるのは、ひとつテーマとして挙げています。それは監督から言われたことでもあります。基準を高めていく存在ではないですが、自分がもっと突き抜けることで、味方の基準が上がっていく。それを求めていってほしいと監督にも話してもらえて、そこはチャレンジしていきたいです」

求めるのは自らがアイコンとなり、チーム力を高めること。そして例年以上に“勝たせられる存在”になることだ。多くの選手が入れ替わったなか、鬼木達監督も今季のテーマをこう語っていた。

「(川崎は)技術で差をつけて勝ってきたはずなので、そこはもう一度、取り組まなくてはいけないですし、新しい選手にも分かってもらわないといけないです。逆にやってきた選手もなんとなくこれくらいでとなってしまわないように」

“止めて・蹴る”を高次元でこなせる脇坂だからこそ、チームメイトの見本となり、川崎らしさを伝えることができるのだろう。その意味でも、満を持して新キャプテンに就任したことも納得できる。

【PHOTO】まずは一冠!国立競技場で力強い声援を送り続けた川崎フロンターレサポーターを特集!(Part1)

脇坂は始動日にこうも語っていた。

「今年はどんどん味方に要求していければと考えています。やっぱりチーム全員で良くなっていきたいですし、厳しいところも言っていければなと思います」

その言葉の裏には自らにプレッシャーをかける側面もあった。

「周囲に要求することで、自分ももっとやらなくちゃいけない。そこはチームのためであり、自分のためでもある」

それはリーダーとして川崎を引っ張っていく決意表明でもある。様々な世代の選手を、まとめるには苦労もあるだろう。ただ脇坂には自分流のコミュニケーション術もあるという。

「何かを伝える時、僕は人のキャラクターを見て、人に合わせたほうが良いと思います。それぞれ自分との関係性は異なりますし、何が正解か分からないですが、思ったことを伝えるだけでなく、先輩ヅラをするのではなく、普段のまま接するほうが、自分からの言葉は自然と相手に入っていくんじゃないかなと。良いところは褒め、改善点があれば伝える。

特にメンタルの部分は、客観的に言われるからこそ気付く部分も多い。自己評価と他人からの評価のギャップを理解できれば、若い選手たちの今後につながるんじゃないかなと思うので、そこも話していきたいですね」

ちなみに多くの選手が入れ替わった今季だが、チームの雰囲気は良いと話す。ムードメーカーであった登里享平は抜けたが、ひとり心強い存在もいるというのだ。

「セガちゃん(瀬川祐輔)はノボリくんとはタイプは違うんですが、自分ではしゃぎながら周りを盛り上げてくれる。それを意図的にやっているのか、素でやっているのかは分からないですが(笑)。元々明るい性格で、先頭に立ってやってくれている印象がありますね」

さらに副キャプテンに就任した大卒2年目のFW山田新や、登里から伝統の2番を継承したDF高井幸大らにも期待を寄せる。

「新は上からも下からもいじられて、愛されている。彼のような新しい選手が出てくるのも、チームが変わっていくなかで良いことだと思います。

高井は高2からプロとしてやってきて、年齢的には高卒2年目ですが、そこに甘えて欲しくないと言いますか、もっともっとやれるはずです。彼もクラブの幹となる存在だと思うので頑張ってもらいたいですね」

その優しい眼差しには、すでにキャプテンとしての温かさが含まれているように感じる。

【PHOTO】華やかなダンスパフォ! Jクラブチアが国立に大集合!

【記事】「とっても華やかです」国立にJクラブチアが大集合!「アビチアちゃん完全優勝」「袖あってよかった」などの声

【PHOTO】編集部が厳選! ゲームを彩るJクラブのチアリーダーを一挙紹介!

新シーズンへのトレーニングを眺めていると、脇坂の姿がやたら大きく感じるのは筆者だけではないだろう。抜群のキープ力から秀逸なパスを通したかと思えば、即座に切り替えてインテンシティ高くボールを奪い返す。まさに攻守で絶大な存在感を放っているのだ。本人も力強く頷く。

「相当、良いと思います。身体はキレているのかなと。厳しい練習をやっているなかで身体が動いていると感じますし、ボールタッチの感覚も研ぎ澄まされてきている。キャンプ期間でも成長できている実感があります」

オフには球際の強さ、守備面を強化しようと、下半身に負荷のかかるトレーニングを積んできた。その成果がキャンプを通じて表われているのだという。

「具体的に言えば、下半身の筋トレを少し増やしました。まったくやってなかったわけではないですが、量や回数を増して。すると、ボールの奪い合いでの“キワ”の部分などでパワーが出るようになりました。

守備面は自分の課題で、自分自身でボールを奪えればもっと状況は変えられるはずだと感じていました。自分自身が上に行くために、そういったアプローチの仕方はオフを見据えてやってきたので、新シーズンではレベルアップした姿を見せられるんじゃないかなと思います」

脇坂が常に意識しているのはさらなる高みだ。

「突き抜けた存在になりたい。口で言うのは簡単ですが、自分の特長である技術、そして自分のたりない面も伸ばしてひと皮も、ふた皮も剥けていきたい。

もっと上手くなりたいし、日本のトップである日本代表を目指すには、人と同じことをしていたら絶対に辿り着けない。人とは違うことをしていきたい」

先日発売したばかりのサッカーダイジェストの選手名鑑のアンケートで、脇坂は今季の目標をこう記していた。

「絶対的になる。MVP」

自らにベクトルを向け、環境に左右されずに高みを目指し続ける先に、さらなる進化と悲願のACL制覇が待っているのだろう。強い覚悟を持った14番の新たな挑戦は楽しみで仕方がない。きっとJリーグファンも楽しませてくれるはずだ。

キャプテンで14番。風格はレジェンドの中村憲剛にかなり似てきた。それでも彼は彼の色を示してくれるに違いない。脇坂泰斗のカラーで周囲を染められるように。

前編はこちら。

■プロフィール
わきざか・やすと/1995年6月11日生まれ、神奈川県出身。173㌢・69㌔。FC本郷―エスペランサSCJrユース―川崎U-18―阪南大―川崎。J1通算146試合・25得点。日本代表通算4試合・0得点。3年連続でベストイレブン入りを果たす。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

© 日本スポーツ企画出版社