退職金とiDeCoは受け取る順番で手取りが変わる? 税金を「抑えやすい」受け取り方とは

iDeCoに加入する会社員や公務員が増えている。2023年中は32.2万人が加入し、うち26.5万人を2号加入者(会社員や公務員)が占めた(出所:iDeCo公式サイト iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入等の概況(2023年12月))。

会社員や公務員の加入が広がったことで、退職金とiDeCoの双方を受け取る人が増えると予想される。

退職金とiDeCoの一時金は、どちらも退職所得に相当する。受け取り方によっては税負担が増しやすいため注意が必要だ。

退職金とiDeCoを同時に受け取るときの注意点を紹介したい。また異なる年に受け取るとき、どちらを先に受け取れば税額を抑えやすいのか整理する。

退職金とiDeCoの同時受給は税金が増えやすい

退職金とiDeCoを同時に受け取るとき、それぞれ単体で受け取るときと比べると税額が大きくなりやすい。

まず、退職金の所得は額面から退職所得控除額を差し引いて求める。さらに残額を2分の1にした金額に対して課税される。

退職所得控除額の計算式は以下の通り。例えば勤続期間が30年なら退職所得控除額は1500万円となる。

【退職所得控除額の計算式】

※iDeCoは勤続年数を加入期間に読み替える

※上記の計算で退職所得控除額が80万円に満たない場合、退職所得控除額は80万円

出所:国税庁 退職金を受け取ったとき(退職所得)

同じ年に退職金とiDeCoを受け取った場合、退職所得控除額は勤続年数(加入期間)が最も長いものを使って求める。ただし重複がない部分は加算できる(出所:国税庁 同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき)。

具体的に以下の条件で退職所得控除額を求める。

・退職金の勤続年数:43年(23歳~65歳)
・iDeCoの加入期間:20年(41歳~60歳)

退職金の勤続年数は43年、iDeCoの加入期間は20年だ。それぞれ単体で退職所得控除額を計算すると前者は2410万円、後者は800万円となる。

しかし同じ年に受け取る場合、期間が長い退職金(43年)のみを使い退職所得控除額を求める。それぞれの退職所得控除額を合計したり、両者の期間を合計した63年を使って退職所得控除額を求めたりすることはできない。

それぞれ単体で受け取るケースと比較し、同一年の受け取りだと退職所得控除額が減少する。したがって税負担も増えやすい。退職金とiDeCoの同時受給は注意が必要だ。

別の年に受給する場合、退職金とiDeCoはどの順番で受け取るべき?

退職金とiDeCoを異なる年に受け取る場合も注意したい。勤続年数や加入期間に重複する部分がある場合、その重複する部分を減額して退職所得控除額を求める場合があるためだ。

結論から言うと、一時金として退職金とiDeCoを異なる年に受け取る場合、原則としてiDeCoを先に受け取る方が税額は抑えられやすい。退職金の方が減額の対象となる範囲が小さいためだ。

退職所得に該当する収入(退職金やiDeCoの一時金など)を受け取るとき、前年以前から「一定の期間」までにその他の退職所得を受け取っている場合、退職所得控除額は重複する部分が減額される。重複する部分とは、以下のケースだと41歳~60歳の部分を指す。

・退職金の計算期間:23歳~65歳
・iDeCoの加入期間:41歳~60歳
・重複期間:41歳~60歳

また「一定の期間」は退職金で4年間、iDeCoで19年間だ。

・退職金:前年以前4年間に受け取ったその他の退職所得
・iDeCo:前年以前19年間に受け取ったその他の退職所得(※)
※2022年3月31日以前に受け取るものは前年以前14年間

出所:国税庁 退職手当等に対する源泉徴収

上記から、iDeCoの方が減額の対象となる範囲が広いことがわかる。例えば65歳で受け取る場合、iDeCoは46歳以降に受け取った退職所得があると減額の対象となり、退職金は61歳以降に受け取った退職所得があると減額の対象となる。

したがって、より長くさかのぼるiDeCoを先に受け取ることで、退職所得控除額を満額で適用しやすくなる。

例えばiDeCoを60歳、退職金を65歳以降に受け取れば、重複する期間を無視してそれぞれの受給時に退職所得控除額を計算できる。なおiDeCoの受給可能年齢は最短で60歳だ(出典:iDeCo公式サイト iDeCo(イデコ)の加入資格・掛金・受取方法等)。

一方、iDeCoの受給を退職金より遅らせると、重複する期間があれば退職所得控除額は減額される可能性が高い。

iDeCoは最長75歳まで受給を遅らせられる(出所:iDeCo公式サイト 加入者の方へ)。その場合、56歳以降に受け取った退職金があると、退職所得控除額は重複部分が減額される。

高年齢者雇用安定法から、企業の定年は原則として60歳以上に定められている(出所:厚生労働省 高年齢者の雇用)。退職金を55歳までに受け取れば、75歳で受け取るiDeCoの一時金も退職所得控除を満額で適用できるが、法令から難しいと考えられる。

税額をできるだけ抑えたい場合、iDeCoを先に受け取る方が望ましいだろう。

年金での受け取りも視野に入れたい

退職金が64歳までに支払われる企業の場合、iDeCoの一時金を最短(60歳)で受給しても退職所得控除額は重複部分が減額される。

退職所得控除額を満額で適用できない場合、iDeCoを年金で受け取る選択肢も検討したい。

iDeCoの給付は一時金だけではない。全額または一部を年金形式で受け取ることもできる(出典:iDeCo公式サイト iDeCo(イデコ)の加入資格・掛金・受取方法等)。

年金形式で受け取るiDeCoの給付金は、退職所得ではなく、公的年金等の雑所得として扱われる。退職金を一時金、iDeCoを年金で受け取れば所得区分が異なることから、重複期間に伴う退職所得控除額の減額は起こらない。

また公的年金等の雑所得は、収入から一定額を差し引く公的年金等控除額が適用される。その他の雑所得より税負担が小さくなる可能性がある。退職所得控除額の減額が想定される人は年金形式も検討してほしい。

ただし公的年金等の雑所得には、公的年金(厚生年金、基礎年金)の受給額も含まれる。また退職金を一時金ではなく年金形式で受け取る場合も公的年金等の雑所得に該当する。これらを合算した収入が公的年金等控除額を上回る場合、税金が発生する点には留意したい。

文/若山卓也(わかやまFPサービス)

若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。


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