叶井俊太郎氏と「バカ映画への愛」信条は「世の中、ハッタリが大事」 破天荒な人生を人気芸人が語る

漫画家・倉田真由美氏(52)の夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎氏(享年56)が今月16日に死去した。22年6月に膵臓がんが判明し、医師から「余命半年」の宣告を受け、ステージ4であることを公表後も仕事を続け、力尽きた。叶井氏が手がけた作品に出演していた、お笑い芸人でコラムニストのなべやかんが、同氏とのエピソードを通して、その破天荒な生き様をつづった。

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今年は悲しいニュースが続いている。ステージ4の癌でも精力的に活動していた叶井俊太郎さんが亡くなられた。叶井さんに初めて会ったのは河崎実監督の映画『いかレスラー』(※2004年公開、叶井氏は企画担当)の時で、その後も河崎監督作品で何度もお会いした。

叶井さんと言えば映画賞をいくつも取った大ヒット映画『アメリ』を買い付けた事で有名だ。世間的に「叶井さんは先見の明がある」と思われたが、実はポスターを見てホラー映画だと思い、買い付けたというのが本当のようだ。いかにも叶井さんらしいエピソード。

河崎組の現場で会う度、毎回いろんなお話をしたのだが、叶井さんは自信家だというのが伝わるので、その事を聞くと「世の中、ハッタリが大事。映画の企画を通すのだってハッタリだよ。じゃないとクライアントは金を出さないからね」と言ったので、一見、高飛車に見えるのも、実は計算、全ては企画を着地させるための作戦というのが分かり、人柄の良さを感じた。

「トルネード・フィルム」が倒産し、しばらく姿を見なかったのだが、海外からB級以下の映画を買い付けて来る「トランスフォーマー」に入ったと聞き、久々にお会いした。トランスフォーマーの石毛社長から「やかん君のために試写会をやるから観に来てよ」と言われ、観に行ったのが『ムカデ人間』だった。

試写会場で叶井さんに会うと、「俺の復帰作。俺らしいでしょ?」と言われ、まさに言葉通りの作品だった。叶井さんとの話で特に思い出深かったのは『屋敷女』(とんでもないスプラッター・スサスペンス)という映画を買い付けてきた時の事。屋敷に侵入してきた犯罪者から隠れる『パニック・ルーム』のような映画なのだが、『屋敷女』はもっとエグくて家で逃げるのは妊婦、それを侵入して来た女が襲う。腹を殴ったり、最後はハサミで妊婦を…。

「これを奥さんと一緒に観た時はキレられたね。『妊婦の私になんてもんを観せるんだ』って」(叶井さん)。

まさに〝だめんず〟エピソード。叶井さん、面白い人だったな~。最後の方はステージ4でも人前に出たり、「X」で発信したりして生存確認していたけど、それももう見られないと思うと寂しくなる。バカ映画やトンデモ企画に対して愛があり、実現させるために力になってくれる人。こういった人がいないと映画界はダメになってしまう気がする。叶井さんは映画界の宝だった。

(コラムニスト・なべやかん)

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