ポップしなないで「メジャー2作目『DOKI』で聴いた人の心を掴みたい」

2015年結成のVo.Key.かめがいあやこ、Dr.かわむらによる、軽やかに無常を歌う“セカイ系おしゃべりJ-POP”「ポップしなないで」。2023年2月にメジャーデビューを果たし、多くのタイアップソングも手がけた。独自の世界観に魅了されるファンを着実に増やし、2024年4月からは初のワンマンツアーも控える。

そんな二人が前作『戦略的生存』から、さらに音楽を掘り下げて完成させたのがメジャー2ndフルアルバム『DOKI』が2月14日にリリースされた。まさにポップしなないで“らしさ”が詰まったアルバムになっている。ニュースクランチでは2回目となるインタビューで、制作の過程からツアーにかける意気込みなどを聞いた。

▲ポップしなないで(かめがいあやこ / かわむら)【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-Interview】

これまで以上に音楽に没頭できた2023年

――昨年の2月にメジャーデビューされて約1年経ちますが、ご自身や周りの環境に変化は感じますか?

かめがい デビューしてからの1年間は「メジャーデビューおめでとう」と周りのみんなが言ってくれたり、「今年メジャーデビューしたポップしなないで」と紹介してくれたりすることが多かったですね。お祝いムードがあったんですけど、今年からはメジャーデビュー“特典”は使えなくなりそうです。

かわむら “メジャーデビュー”という言葉自体が面白かったけどね。僕たちは「メジャーデビュー云々……」という言葉を大袈裟に、冗談めかして言うタイプなので。

かめがい もう期限が切れちゃった。「メジャーデビューするぞ!」って決まったときから自分たちの音楽を通して、みんなとどう関わっていくのかを考えてきましたが、2年目はいよいよ“そのときが来たな”という感じです。

かわむら メジャーデビューという“おもしろイベント”はありましたが、ずっと音楽制作はしていたので、メジャーデビュー前から途切れずにつながっている感覚はあります。僕は他の仕事をしながら音楽制作をやっていたんですが、仕事を辞めたというのも個人的には大きな出来事でした。そのおかげで、より音楽漬けになり制作に没頭できた1年でした。

かめがい かわむらくんが平日も稼働できるようになったから、会うことが増えた1年でもあったね。

――昨年の7月からは連続リリースもされ、多作な1年でしたね。

かわむら そうですね。もちろん、その前から楽曲制作はしていて、7月からは連続リリースに向けて加速していったので、ずっと音楽と向き合っている感覚でした。

かめがい 去年はずっと制作とレコーディングをしてたね。

かわむら レコーディングが終わったら、次のレコーディングの準備をして……。今作の『DOKI』に収録する楽曲を考えながら、計画を立てて音楽を作った1年でした。

“ドキッとする”ようなアルバムにしよう

――『DOKI』には、昨年に連続配信リリースした楽曲や、新たなタイアップソング「白昼きみとドロン」などが収録されています。どのようなコンセプトのアルバムになりましたか?

かわむら 改めて“音楽ってなんなのか?”を考えたときに、後ろ向きであっても、前向きであっても、聴いた人の心を掴むべきだと思ったんです。特に「ポップしなないで」の音楽は、聴いた人をワクワクさせるのはもちろん、自分たちのこともワクワクさせなきゃいけない、そう強く感じています。まずは、自分たちが一番、自分たちの音楽を好きでいなきゃいけない。その音楽を聴き、胸を躍らせる鼓動から『DOKI』というタイトルが生まれました。

かめがい かわむらくんがアルバムタイトルをいくつか考えてくれたんですけど、二人とも「DOKIってめっちゃいいね!」ってなりました。

かわむら 抽象的な表現になってしまうんですが、“自分たちの音楽を聴いた人の心を掴みたい”という共通認識があったからだと感じます。

――「ドキドキ」と続くのではなく、「ドキ(DOKI)」になったのは何かの意図が?

かわむら ドキドキだと鼓動が続いていく感じですけど、好きになった楽曲に出会った瞬間の“ドキッとする”ようなアルバムにしようと思ったんです。最初に聴いたときの衝撃が好きになる大きなキッカケになるし、それって美しい経験だと感じるんです。

かめがい 「こういう理由だからコレにしよう」と決めたというよりは、タイトルが見てコレにしよう、みたいな感じで決まったよね。

かわむら 名前がない共通のイメージが、僕とかめがいさんの中にあり、それに名前を付ける作業という感覚なんです。名前が付くことで、あとからいろいろと説明が付くみたいな。

かめがい それにハマったのが『DOKI』というタイトルでしたね。

――そこから意味が広がっていき、『DOKI』とも掛けたツアータイトル「鼓動を聴かせて」へとつながっていくんですね。

かわむら そうですね。ただツアータイトルは、いつもノリで決めちゃうんですけど。「ポップしなないでツアー」でも別に良かったんですが、みんなも自分たちも楽しめるようにという意味を込めてつけました。まぁ、適当だよね。

かめがい たしかに適当に付けたけど、私たちの音楽をただ聴かせるんじゃなくて、「みんなに会いに行くから、みんなの鼓動も聴かせて」と言っている感じがいいなって、いま思った!

かわむら 確かに「聴け!」ではないからね。

かめがい うん。それこそ、みんなの「ドキ(DOKI)」を聴かせてほしいから会いに行く感じがして。

――深層心理にそういった思いがあるからこそ、「鼓動を聴かせて」というツアータイトルになったのかもしれないですね。

かめがい ……そう! その通りです!

――乗っていただいてありがとうございます(笑)。ちなみに、制作にあたり前作『戦略的生存』との違いはありましたか?

かわむら 『戦略的生存』は、いま思い返してみても、自分たちの音楽や覚悟を試される作品だったなと感じます。「並大抵の覚悟じゃいけない」と腹を据えて制作をした印象がすごく大きくて。

それに比べて今作の『DOKI』は、当然、覚悟がある状態から、もう1つ考えることができたアルバムだなと感じます。「自分たちには何ができるか」や「聴いてくれた人に何を与えられるか」と、自分たちの音楽を掘り下げて新しいものを作ろうと制作をしていきました。

ポップしなないでらしいリード曲「魔王様」

――楽曲についてもお聞きしたいので、まずはリード曲の「魔王様」から教えてください。

かわむら この曲は完成したときに“リード曲になるだろうな”と感じてました。歌詞がまだ全然完成していない段階で、かめがいさんにも「タイトルは魔王様でどう?」と連絡したら、最大スーパーいいねをくれて。

かめがい 100万回いいね押した!

かわむら ポップしなないでらしさもあり、自分たちが面白い楽曲にできるテーマだなと。最近はテーマが大きくなりがちな部分があったんですが、「魔王様」は1つのテーマにスポットライトを当てています。結局のところ、勇者であろうが魔王様であろうが、立場は違えど同じ人と人だということを歌詞に込めています。そのテーマ感がすごく気に入った楽曲になっていますね。

――立場や評価を気にしがちですが、まずは同じ人間なんだと。

かわむら そうですね。今の風潮がすごく嫌いというわけではないですが、“こうあるべき”と評価や立場が先行している気がします。1対1で相手のことを考えるのが難しい世の中になっている気がするんですよね。ちゃんと自分と相手に向き合い、考えることも僕たちは大事だと思っているので、共感していただける方がいたらうれしいですね。

――レコーディングはいかがでしたか?

かめがい 「魔王様」は今までの曲で一番音域が広いんです。すごい低音から高音まであって、歌っていて楽しいですね! 1番のAメロに「正直現実ってつまらないよな」という歌詞があるんですけど、そこだけめっちゃ低いんですよ。

後付けではあるんですけど、低音で歌っていることで“投げやり感”が出ていて面白いなって。ポップしなないでは、無情なことを高らかに歌うことが多いんですけど、投げやりな感じが気に入っています!

かわむら 我々は制作するときはすっごい考えるんですけど、最後の最後は適当というか。例えば、ライブでも“準備したんだから、あとは出るもんが出たらそれでいい”というスタンスなんです。

かめがい 準備だけはちゃんとやろうってね。

かわむら いっぱい考えてたくさん準備するけど、結局は気合いなんです。

かめがい 本当にそうだよね。私も歌い方を綿密に計画立ててやるんですけど、最終的には「ハートでしょ!」って。

『ニンジャラ』とは奇天烈な部分に親和性を感じる

――1月24日に先行配信された「白昼きみとドロン」は、TVアニメ『ニンジャラ』のタイアップに決定しています。

〇【MV】ポップしなないで「白昼きみとドロン」

かわむら おこがましいかもしれないんですけど、ニンジャラと我々は世界観が近いと感じているんです。可愛らしいけど、確固たる世界観があるところなど。

かめがい うちらも忍者だしね。

かわむら そう、忍者みたいなもんです。大人のキャラクターが子どもの姿になってたり、奇天烈な部分に親和性を感じるんです。全く違和感なくポップしなないでとニンジャラが重なる楽曲になったように感じますね。

かめがい うまく合体したよね。

――楽曲制作で新しい試みも?

かわむら 他のタイアップ作品もそうなんですが、作品に寄せて自分たちを変質させるのは違うと感じています。ニンジャラという世界観に無いであろう、自分たちの世界観を意図して入れました。ただタイトルに「ドロン」と入っているように、“忍者”という要素が入ることで面白みが増したと思います。

――「ドロン」という音感は、ポップしなないでらしくも感じました。タイアップ曲と知らなくても自然に受け入れられるような気がします。

かわむら 確かに「ドロン」は使う音感かもしれないですね。

かめがい ドロンって、バイバイのときでしょ。「これにてドロンさせていただきます!」みたいな。その感じは私たちのライブ終わりに近いかもね。「これでライブ終わり! バイバイ!」みたいな感じなので。

かわむら 実際に使うしね。「今日はこれにてドロンさせていただきます」って。

かめがい ……あ、そうなんだ。もう使わないでほしい。

全員 (笑)。

自分たちなりに良くしていける1年にしたい

――4月からは初となる全国ワンマンツアー「鼓動を聴かせて」が開催されます。どのようなツアーにしたいですか?

かめがい 東京では何度もワンマンはしていますが、今回のツアーはワンマンで行ったことがない場所も多いんです。対バンの良さもあるけど、自分たちが作ったものちゃんと聴いてもらえるように、しっかり準備が必要だと感じています。そういった構成や準備をするのが私は好きで。今まで足を運べなかった方に見てもらえるので、すごく楽しみですね!

かわむら そうだね。ツアーに行くたび思うんですが、僕たちも行って良かったなと思うんです。僕たちのステージを楽しみにしているお客さんの顔を見るのも楽しみだし、ライブが終わったあとの顔も見るのもすごく楽しみ。ベースにはお客さんに会える楽しみがあって、そのうえで現状で一番自信のあるステージを楽しんでもらうようなツアーにしたいですね。

かめがい 今回のフライヤーのタイトル、じつは私が書いたんですよ。

――そうだったんですね! 雰囲気があってすごくステキです。

かめがい フライヤーのタイトルを書きながら、“本当にワンマンツアーやるんだな”とワクワクしていました。かわむらくんが言ったみたいに、みんなと会えるのが本当に楽しみで、“ライブをしに行く”ではなく“会いに行く”という意味合いがすごく強いですね。

――それでは最後に、メジャーデビュー2年目の目標などあれば教えてください。

かわむら メジャーデビューしてから「ポップしなないでをより良くしていく」という目標を持っているんですが、その歩みは止めずに進んでいきたいと思っています。もしかしたらライブに足を運ぶのが不安な方もいるかもしれませんが、ライブのあり方やライブへの熱量の変化はすごく感じています。そういった変化を自分たちなりに良くしていける1年にしていきたいです。

かめがい 舞台用語で2日目に気が抜けて失敗することを「二落ち」って言うんですけど、ポップしなないでも2年目に落ちないようにしたいです! 昨年は曲を聴いてもらえる喜びや、みんなの生活に入ることができている喜びを感じさせてもらいました。その気持ちを持って、2年目も音楽制作をしていきたいなって思います。

――昨年「ポップしなないで」を知り、今年初めてライブに来るという方もいるかもしれないですね。

かめがい そうかも! 初めましての方もたくさん来てくれたらうれしい!

かわむら あとは楽しんでもらえるよう真摯にやるだけですね。

(取材&撮影:TATSUYA ITO)


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