ボブ・マーリーの伝記映画、北米No.1発進 『マダム・ウェブ』はシリーズ最低の初動に

年明けから元気のなかった北米映画興行に、一つ目のチャンスがやってきた。2月14日のバレンタインデーから、2月19日のプレジデントデー(大統領の日)までは、3連休を含むホリデーの6日間なのだ。

2月16日~18日の週末ランキングでNo.1に輝いたのは、伝説的歌手ボブ・マーリーの伝記映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』。3日間で2770万ドル、6日間で5100万ドル(見込み)という好発進となった。

これは、エルトン・ジョンの伝記映画『ロケットマン』(2019年)の2572万ドル、エルヴィス・プレスリーの伝記映画『エルヴィス』(2022年)の3121万ドル(ともに3日間)にも匹敵する成績。当初は「6日間で3000万~3500万程度」と予想されていたため、配給のパラマウント・ピクチャーズにとっては思わぬロケットスタートだ。

本作はボブ・マーリーの成功とともに、自身のルーツや政治的な葛藤、妻・リタとの関係を掘り下げる物語で、リタと実子のジギー&セデラがプロデュースと監修を担当。ボブ・マーリー役を『あの夜、マイアミで』(2020年)のキングズリー・ベン=アディル、リタ役を『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年)のラシャーナ・リンチが演じ、監督・脚本を『ドリームプラン』(2021年)のレイナルド・マーカス・グリーンが務めた。

ポイントは観客の支持が非常に大きいことで、Rotten Tomatoesでは批評家スコア43%に対して観客スコア94%、劇場の出口調査に基づくCinemaScoreでも「A+」評価を得た。劇場に足を運んだ客層も多様で、18歳~24歳が21%、25歳~34歳が17%、35歳~44%が22%、45歳~54歳が16%という分布。人種・民族別でも白人37%、黒人31%、ラティーノ&ヒスパニック25%と、あらゆる層から関心を寄せられたことが首位の理由とみられる。

海外市場でも47市場で2900万ドルを獲得しており、全世界興行収入は8000万ドル超えと好調。製作費は7000万ドルなので、この勢いをキープできれば黒字化はそう遠くないはずだ。

息子のジギー・マーリーは、この結果を受けて、「私たち家族は、本作に対する最高の反響を光栄に思います。父の音楽と同じく、この映画は人々のためのもので、父による平和や愛、団結のメッセージは世界の観客につながっています。映画を受け入れ、“ONE LOVE”のメッセージを支えてくださった方々に感謝します」との声明を発表した。日本公開は5月17日。

惜しくも第2位で初登場となったのは、ソニー・ピクチャーズ製作のマーベル映画『マダム・ウェブ』。3日間で1515万ドル、6日間で2580万ドル(推定)というスタートだから、『ボブ・マーリー:ONE LOVE』とは差をつけられてしまった格好だ。『ヴェノム』シリーズや『モービウス』など、ソニー発のマーベル映画としては過去最も低い初動となった。

本作は、コミック『スパイダーマン』シリーズに登場する未来予知能力の持ち主マダム・ウェブを初めて映画化したオリジンストーリーであり、マーベル映画としても異色の本格ミステリーサスペンス。主演のダコタ・ジョンソンをはじめ、シドニー・スウィーニー、イザベラ・メルセド、セレステ・オコナーのタハール・ラヒムとフレッシュな顔ぶれが揃った。監督は『Marvel ジェシカ・ジョーンズ』のS・J・クラークソン。

海外61市場では2570万ドルで、世界興収は5150万ドル(6日間)となる見込み。製作費は8000万ドル(実際には1億ドル以上との情報もあるが)のため、数字的にはかなり厳しいが、ソニーは海外でのテレビ・配信契約のために大きな損失を被らずに済むともいわれる。もっとも、Rotten Tomatoesで批評家13%・観客56%、CinemaScoreで「C+」評価という評価が興行に与える影響は小さくないはずで、今後の巻き返しは難しそうだ。

したがって本作もまた、しばらく続いているスーパーヒーロー映画の低調を脱却できそうにない。ソニーは今年、アーロン・テイラー=ジョンソン主演のR指定マーベル映画『クレイヴン・ザ・ハンター』と、トム・ハーディ主演『ヴェノム3(仮題)』も控えているが、どこかに突破口はあるか。『マダム・ウェブ』の日本公開は2月23日。

そのほか、今週のランキングで目立ったのは第4位『FLY!/フライ!』で、公開9週目&上映劇場は前週比-229館という状況下ながら、週末興収は前週比+27.7%の375万ドル。第6位『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』も10週目ながら前週比+11.2%の340万ドルで、世界興収は6億ドルを突破した。

第5位には聖書をドラマ化した『The Chosen(原題)』シーズン4の第4話~第6話の先行上映が、第10位にはリアム&ルーク・ヘムズワース兄弟とラッセル・クロウが共演したアクションスリラー『Land of Bad(原題)』が初登場。なお、前週の第2位『Lisa Frankenstein(原題)』は2週目にして第9位まで急降下した。

ところで先週、北米映画市場の週末累計興収(2月9日~11日)がスーパーボウルの週末として過去30年間で最低という現実をお伝えしたが、今週も悲しい話題をお知らせしなければならない。なぜならプレジデントデーの週末として、今週末は過去23年間で最低の累計興収を記録してしまったからだ。

3日間で7500万ドル、4日間で8900万ドルという数字は、「スーパーヒーロー疲れ」の影響がいよいよ顕著だと言われた『アントマン&ワスプ:クアントマニア』(2023年)が公開された昨年のおよそ半分。ストライキの影響を受けて、映画館業界はコロナ禍からの復活に急ブレーキどころか、いまや相当のスピードで後退をはじめている状況だ。来たる『デューン 砂の惑星PART2』は、作品さながら業界の救世主となることができるか?

北米映画興行ランキング(2月16日~2月18日)

1.『ボブ・マーリー:ONE LOVE』(初登場)
2770万ドル/3539館/累計4557万ドル/1週/パラマウント

2.『マダム・ウェブ』(初登場)
1515万ドル/4013館/累計2335万ドル/1週/ソニー

3.『ARGYLLE/アーガイル』(↓前週1位)
472万ドル(-24.5%)/3647館(+42館)/累計3646万ドル/3週/ユニバーサル

4.『FLY!/フライ!』(↑前週5位)
375万ドル(+27.7%)/2455館(-229館)/累計1億1482万ドル/9週/ユニバーサル

5.『The Chosen: S4 Episodes 4-6』(初登場)
344万ドル/2228館/累計422万ドル/1週/Fathom Events

6.『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(↓前週4位)
340万ドル(+11.2%)/2347館(-417館)/累計2億982万ドル/10週/ワーナー

7.『The Beekeeper(原題)』(↓前週3位)
325万ドル(-4.2%)/2557館(-500館)/累計5989万ドル/6週/Amazon・MGM

8.『Anyone But You(原題)』(↓前週7位)
241万ドル(-8.9%)/2020館(-785館)/累計8471万ドル/9週/ソニー

9.『Lisa Frankenstein(原題)』(↓前週2位)
203万ドル(-45.1%)/3143館(-1館)/累計766万ドル/2週/Focus Features

10.『Land of Bad(原題)』(初登場)
180万ドル/1120館/累計180万ドル/1週/The Avenue Entertainment

(※Box Office Mojo、Deadline調べ。データは2024年2月19日未明時点の速報値であり、最終確定値とは誤差が生じることがあります)

参照

https://www.boxofficemojo.com/weekend/2024W07/
https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/bob-marley-one-love-madame-web-box-ofifice-1235828725/
https://variety.com/2024/film/box-office/box-office-bob-marley-biopic-beats-madame-web-holiday-weekend-1235915397/
https://deadline.com/2024/02/box-office-bob-marley-one-love-madame-web-1235828289/

(文=稲垣貴俊)

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