1000年以上の歴史に幕 「黒石寺蘇民祭」に魅せられた男たちの熱い夜 岩手・奥州市

1000年以上続くとされる岩手県奥州市の奇祭「黒石寺蘇民祭」が17日、長い歴史に幕を下ろしました。

今年で最後の開催となった黒石寺の蘇民祭。祭りの一部を省略したり、時間を短縮したりしての開催となりましたが、最後となる伝統の祭りを一目見ようと約7000人の見物客が国内外から訪れました。

黒石寺蘇民祭は無病息災や五穀豊穣を祈る祭りで、1000年以上前から奥州市の黒石寺で受け継がれてきました。しかし、参加者の減少や祭りを維持していくための担い手が不足していることを理由に、今年が最後の開催となりました。

祭りの保存・継承に取り組む「黒石寺蘇民祭保存協力会青年部」には、現在30代から70代の50人が在籍しています。父親が1977年に保存協力会を立ち上げたという菊地義則さんも、伝統が絶えることに複雑な思いを抱いているといいます。

(菊地義則さん)
「複雑ですし、ちょっと来年以降のことはわからないのだけれども、今年の蘇民祭当日と準備をある意味楽しもうと思っていますね」

青年部の多くは地元・黒石地区の住人で構成されていますが、他の地域に住みながら自ら志願して保存協力会に参加した男性もいます。奥州市の胆沢地区に住む三田恭諭さんです。10年前にはじめて蘇民祭に参加し、祭りの虜になりました。蘇民祭に関わる人は、「お精進」とよばれるしきたりを守らなければならず、三田さんもその一人です。

(三田恭諭さん)
「動物系、肉や魚は一切食べないで、キノコやらこんにゃく、豆腐をいただいています」

祭り前の1週間を精進期間としていて、動物性のたんぱく質や香りの強いニラなどの野菜は食べることができません。

身も心も精進して迎えたまつり当日。三田さんはふんどしに着替え気合十分です。そして午後6時、近くを流れる瑠璃壺川で水をかぶり身を清めたあと、午後10時に祭りはクライマックスです。五穀豊穣にご利益があるとされる「蘇民袋争奪戦」には約270人が参加。汗にまみれた下帯姿の男たちが冷たい空気のなか湯気を出しながら壮絶な奪い合いを繰り広げました。約1時間の争奪戦ののち、最後まで蘇民袋の結び口を握っていたのは、現在の青年部の部長・菊地敏明さんです。最後の蘇民祭で取主となりました。

(菊地敏明さん)
「私にとっては本当に最高に記憶に残るお祭りになりました。」

10年前に祭りに魅了された三田さんは、終了直後から伝統を絶やしたくないという思いがこみ上げていました。

(三田恭諭さん)
「そう簡単に途絶えさせるわけにはいかないので、青年部としても何かしら形を変えて(開催していく)方向で進めていきたい」

1000年以上の歴史に幕を下ろした黒石寺蘇民祭。保存協力会青年部は、来年度以降も蘇民祭に代わる催しを開催できないか黒石寺と協議を続ける予定です

こうした声に対し、黒石寺の藤波大吾住職は「気持ちはわかる」とした上で、「私はやめることを決めた人間ですので、将来のことはわかりません。今言えるのは黒石寺蘇民祭は今年、17日をもって終了となります、ということだけです」と話しました。

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