【医師が伝授】ポイントは油!認知症リスクが最大23%下がった○○食事法とは

認知症グレーゾーンで「いろいろなことがめんどうくさい脳」になると、食事をおろそかにしがち。ところが、外食や出来合いの総菜などが中心の食事は、脳へのリスクを高めます。一方で、認知症リスクが最大23%も低下したという報告がある、科学的に検証された「脳によい食事」もあります。そこで今回は、認知症専門医・朝田隆氏による著書『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』(アスコム)から、認知症リスクを下げる食事法のヒントを少しだけお届けします。

認知症リスクが最大23%下がった脳によい食事法とは?

科学的な検証が進んでいる認知症対策に有効な食事としては、「地中海食」があげられます。地中海食とは、地中海沿岸に位置する国(イタリア、ギリシャ、スペインなど)で昔から食べられている伝統的な料理のことです。WHO(世界保健機関)も健康のための食生活の指標として地中海食を推奨しており、認知症の引き金となる脳血管障害や糖尿病などの生活習慣病の予防にも役立つといわれています。

2023年3月にも、イギリスの電子版医学誌(BMC Medicine)で、地中海食をとっている人は、そうでない人にくらべて、認知症のリスクが最大23%も低くなったという報告がされました。この報告は、6万人以上の人を対象に、平均約9年にわたって追跡した調査結果に基づくものです。地中海食の内容を、とる頻度ごとに分類して示したのが下の図です。これは「地中海食ピラミッド」と呼ばれ、食べる頻度の多い食品ほど下に記されています。

ざっとあげると、地中海食の特徴は、次のとおり。

・肉よりも魚が多い
・食用油はオリーブオイル
・ナッツ・豆類、野菜、果物など、植物性の食品が豊富
・適量の赤ワイン

すべてを取り入れるのは難しくても、少しでもこれらの食材を食べることを意識しましょう。その積み重ねによって食習慣が変化していき、認知症グレーゾーンからUターンできる確率が高くなります。

肉より魚がいいのは「脂肪酸」に秘密がある!

では、なぜ地中海食では肉より魚がおすすめされているのでしょうか?その理由は、魚に豊富な「オメガ3」と呼ばれる不飽和脂肪酸(DHA・EPA)

オメガ3脂肪酸を日常的に摂取していると、脳の記憶力・学習能力の向上に役立つといわれており、65歳以上の日本人、約1万3000人を対象とした東北大学の研究ームの調査でも、魚を食べる量が最も少ないグループにくらべて、魚を食べる量が最も多いグループは、認知症リスクが16%も低下したことが報告されています。

魚のなかでもマグロ、カツオ、サバ、イワシ、サンマといった背の青い魚にオメガ3は多く含まれています。手軽にサバ缶やイワシ缶などを活用してもいいですね。また、わかめ、昆布、ひじきといった海藻類にもオメガ3は豊富ですし、人気のエゴマ油やアマニ油も、オメガ3脂肪酸(α−リノレン酸)の有効な補給源となります。

なお、肉については、油脂の分類では「飽和脂肪酸」に分類され、魚のオメガ3よりヘルシー度は劣ります。しかし、肉はたんぱく源として非常にすぐれているのも事実。長寿の人は、年をとっても肉をよく食べている人が多いともいわれていますから、しゃぶしゃぶのように脂を抜いて食べる調理法なら、肉も“善玉食品”に変身します。地中海食でも、脂の少ない赤身の肉は月数回ならOKとされています。

最強の組み合わせはオメガ3とオリーブオイル!

オリーブオイルは、不飽和脂肪酸の「オメガ9」に分類されるオレイン酸が豊富で、オメガ3同様、認知症に対する効果が報告されています。

アメリカの研究チームによる動物実験では、オリーブオイルの豊富なエサを与えたマウス(アルツハイマー病の遺伝子を組み込んだマウス)は認知機能が高いことや、アルツハイマー型認知症の原因になるといわれるアミロイドβの蓄積が少ないことも確認されました。

なお、同研究で使われたオリーブオイルは、オリーブの実を搾ってろ過しただけの高品質なエキストラバージンオリーブオイルです。

先に紹介したオメガ3のエゴマ油やアマニ油は、酸化しやすいことから加熱調理に使えないため、日常の食生活にはこれらのオメガ3の食用油とオリーブオイルを上手に組み合わせて使用すると、最強の認知症対策となります。

本文は『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』(アスコム)より一部抜粋・編集しています。

画像提供:Adobe Stock

著者メッセージ

認知症に限らずあらゆる病気の予防の基本は、栄養・休養・運動です。 栄養では、以前から欧米で心臓病やがん予防にこの地中海食のよさが知られてきました。 近年、認知症予防効果も喧伝されるようになりました。
私自身は、地中海食の特徴は伝統的な和食のそれに似ていると思っています。
ただ、もっとも大きな違いの1つは、赤ワイン。 そのポイントはポリフェノールによる抗酸化作用です。日本人では、緑茶から抗酸化物質が沢山摂られているはずです。
食事でナッツを摂ることも、和食との大きな違いです。 ナッツと和食で私が思いつくのは、ほうれん草の白和えくらいです。ナッツの取り入れは色々やってみる価値があります。これまでの和食メニューに新たなワンポイントを加えることで、日本版地中海食になるはずです。


書籍紹介

『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』(アスコム)

認知症グレーゾーンの正式名称は、MCI(軽度認知障害)。
MCIとは、日常生活に大きな支障はないものの、本人やご家族にとっては「最近ちょっとおかしいなあ」と感じるさまざまな警告サインを発する状態。いわば、正常な脳と認知症の間の状態です。

認知症に認知症になる人はその段階として、必ずこのグレーゾーンを通るのですが、全ての人がグレーゾーンから認知症に移行するとは限りません。現状維持する人もいれば、適切な対応することで認知症への移行を遅らせることもできます。さらには、4人に一人は健常な脳の状態にÜターン(回復)できることがわかっているのです。

一方でそのまま認知症へ進行してしまう人もいます。
つまり、ここが「認知症の分かれ道」。

では、回復する人と進行してしまう人の違いは、いったいどこにあるのか?
それがこの本のテーマです。

・恋愛ドラマを観るだけで脳内にある物質があふれ出す
・瞑想よりも塗り絵が脳にいい理由
・思い出を話すだけで脳が元気になる「回想法」
・脳にいい「ほめ方」
・認知機能が平均34%アップした「すごい歩き方」
・脳を意図的に混乱させる方法
・2つ以上の作業を同時に行う「デュアルタスク」で脳を活性化するワケ
・認知症リスクが最大23%下がった脳によい食事
・脳のごみを洗い流すよい睡眠

などなど、日常の習慣をちょっと変えるだけで、Uターンへの道はひらけます。
そのための方法を、この本ではたくさん書きました。
日本の認知症治療の第一人者と知られる著者が、40年にわたり、2万人以上の患者と向き合いたどりついた答えです。

難しく考えず、「これならできそう」「楽しそう」と思うものから試してください。

著者紹介

朝田 隆 (あさだ たかし)
認知症専門医。東京医科歯科大学客員教授、筑波大学名誉教授、医療法人社団創知会 理事長、メモリークリニックお茶の水院長。
1955年島根県生まれ。1982年東京医科歯科大学医学部卒業。東京医科歯科大学神経科精神科、山梨医科大学精神神経医学講座、国立精神・神経センター武蔵病院(現・国立精神・神経医療研究センター病院)などを経て、2001年に筑波大学臨床医学系(現・医学医療系臨床医学域)精神医学教授に。2015年より筑波大学名誉教授、メモリークリニックお茶の水院長。2020年より東京医科歯科大学客員教授に就任。アルツハイマー病を中心に、認知症の基礎と臨床に携わる脳機能画像診断の第一人者。40年以上に渡る経験から、認知症グレーゾーン(MCI・軽度認知障害)の段階で予防、治療を始める必要性を強く訴える。クリニックでは、通常の治療の他に、音楽療養、絵画療法などを用いたデイケアプログラムも実施。認知症グレーゾーンに関する多数の著作を執筆し、テレビや新聞、雑誌などでも認知症への理解や予防への啓発活動を行っている。

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