『春になったら』“雅彦”木梨憲武が治療に意欲? 深澤辰哉と見上愛が演じる恋と友情

『春になったら』(カンテレ・フジテレビ系)は3カ月という期間で父と娘の足跡を描く。ドラマを観ている視聴者は、瞳(奈緒)や雅彦(木梨憲武)とともに一度しかない今を追体験することになる。

一馬(濱田岳)が芸人をやめ、龍之介(石塚陸翔)が家出したことに瞳は責任を感じた。強引に結婚の準備を進めたのは雅彦の病気も理由だったが心の中では迷っていた。瞳は一馬に「今の私には無理」と結婚をやめることを伝える。

雅彦は主治医の阿波野(光石研)に心残りがあると打ち明けた。人生ノートを書き終えたことで急に寂しさがこみ上げてきたのだ。たとえばと前置きして「今から治療を受けたらどうなりますか」と尋ねた。雅彦は実演販売士の同僚にも病気であることを伝え、 来たるべき“その日”に向かって準備を進める。

そんなとき、瞳が倒れた。婚約を解消したことで張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、夜勤明けに職場で気を失って病院に運ばれた。ベッドに横たわる娘を目にして、雅彦は反省する。「佳乃。俺、間違っちゃってたのかな」と亡き妻・佳乃(森カンナ)の遺影に話しかけながら、瞳のために家でパーティーを企画した。

余命わずかな雅彦にとって娘と過ごせる時間は最高のプレゼントだ。それなのに父である自分が原因で瞳は悩み、抱え込みすぎて倒れてしまった。雅彦主催の退院祝いパーティーは娘への罪滅ぼしであり、雅彦が死ぬまでにやりたいことを叶えることになった。

『春になったら』の登場人物は、それぞれの事情を抱えながらも相手のために自分ができることを精いっぱいやろうとする。岸(深澤辰哉)は瞳が一馬と別れたと知り、気になって瞳の家を訪ねる。「自分の番が来た」と思ってもいいのに、それ以上に瞳が落ち込んでいないか心配になって、瞳の気持ちに寄り添いながら自分の気持は胸の奥にしまって、そそくさと帰ってしまう。

一馬は岸に宣戦布告されたあのコンビニで岸と再会した。今度は一馬の方から、岸に向かって瞳のことをよろしくと頭を下げた。戸惑っていた岸も一馬の思いを受け止め、瞳の退院を一馬親子と祝った。エゴを消すのではなく、自分の気持ちに正直になりながら他者も尊重する。目の前にいる相手がどうしてほしいか考える姿勢が、自然と互いを大事にする関係に表れていると感じた。

その輪の中心にいるのが椎名親子であり、娘に掛け値なしの愛情を注ぐ父と、父を最優先に考える娘は自己犠牲ではなく深い信頼で結ばれている。岸に片想い中の美奈子(見上愛)は、瞳ファーストで行動する岸を見て吹っ切れたのかもしれない。「友達でいてね」は、たとえ恋人にならなくても、人生をともに歩む相棒への信頼を言葉にしたのだと思う。

美奈子はうれしかったのではないか。近くにいて好きでい続けた相手は、やっぱり素敵な人だった。岸は自分の気持ちを後回しにしても、好きな人が幸せでいてほしいと願う心の持ち主だった。美奈子は岸のことがもっと好きになったかもしれない。異性としてだけではなく、人間としても。

恋心を言い出せなくて10年を過ごした20代の雅彦と岸には重なる部分もあって、岸のためにもう一度チャンスが来てほしいと願う自分がいる。岸は一見すると本当にこんな人がいるのかと考えてしまうくらい奥手な性格だが、一周回って本当にいそうな愛嬌のあるキャラに仕上げたのは深澤辰哉の功績だろう。一方の見上愛は今作で恋と友情のジレンマを一身に担う。主人公の隣にいる親友二人の奥深さを感じる第6話だった。

(文=石河コウヘイ)

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