越境ECの翻訳のコツ(提案翻訳とは)

前回は、ECサイトや商品ページの第一印象を決める、商品写真について解説しました。今回からは、売るための文章作成で工夫することを、翻訳と説明内容の2回に分けて説明してまいります。まずは翻訳についてです。

外国語に翻訳する前に日本語から日本語の翻訳を

越境ECを行うには、外国語で商品説明をしなければならないですが、問題は元の日本語が悪いと、翻訳した外国語もおかしなことになるということです。「元の日本語が悪い」とは、文法的におかしいとか、翻訳しにくい日本語独特の単語や言い回しを使っているという意味ではありません。「根本的な日本語特有の性格を理解していない」ということです。

「根本的な日本語特有の性格を理解していない」とは、日本文化を根本的に理解していないという話になります。では、それは何かというと、私たちの社会が「ハイコンテクスト社会」だということです。ハイコンテクストとは、共通認識や文化的背景、知識などを前提として会話が進む特徴があり、行間を読む、空気を読む能力が問われることです。そのため、日本語ネイティブでの会話では、主語の欠落は頻繁に起こり、時には目的語さえなくなる場合もあります。

対称的に欧米圏はローコンテクストなので、必ず言葉の方程式に則って説明を行い、極端に文章が崩れることはありません。なお、アジアは総じてハイコンテクスト型ですが、同じアジアでも文化が異なれば、省略して通じるものと通じないものがありますので、基本的に日本語特有の性格を丸出しにしていては、どこの地域でも通用しないでしょう。

SNSに日本で見つけたヘンな英語を掲載し、笑いを取っているものがあります(われわれも海外のヘンな日本語で笑ってるのですからお互い様です)。多くは、第二外国語の日本人が一生懸命書いた末のミスなので、許してくれよという感じがしますが、過去に考えさせられる投稿がありました。

「万引きは必ず警察に通報します」

「shoplifting isl’ll contact the police(ママ)」

ちょっとおかしな箇所はありますが、それは置いておきます。ここでは、「(当店は)万引き(犯と認めた場合)は、必ず警察に通報します」のつもりが、「(社会通念として)万引き(という行為自体)は、(自らで)必ず警察に通報します」というニュアンスになっています。さらに厄介なのは、この日本語の場合、翻訳された英文を、再度日本語に自動翻訳などで訳し直しても「万引きは警察に連絡します」になるので、翻訳された英文が間違っていることに気付きにくいんですよね。これは本当の主語が抜けているがゆえに、別の単語を主語にしてしまわれた典型例です。

そのため、外国語に訳す前に(翻訳できる人に依頼する前に/自動翻訳にかける前に)以下のことを心がけて下さい。

1、主語が何かを確定させる

端的に言うと、日本語学習者が使う教科書のような表現に直しましょうということです。そのほうが外国語ではいい文章になります。

2、長文は複数の短文に分ける

長文は複雑な構文を使用するので、おかしな文章になりやすいため、複数の短文に分けると良いという意味です。例えば、

「この自動販売機にICカードをかざすと、ジュースが買えるので、受け取り口からジュースを取って下さい」を「(あなたは)この自動販売機にICカードをかざします」「すると(あなたは)ジュースが買えます」「そしたら(あなたは)受け取り口からジュースを取って下さい」と分けると、単純な構文ですので、ぎこちない説明には見えますが、ディスコミュニケーションは防げます。

3、日本語特有の慣用表現は避ける

これは言うまでもないことですが、慣用表現は外国語に翻訳できない場合もありますので、違う言い方に変えましょう。ここまではいわば準備体操のようなものです。

単に翻訳しても購入はされない。提案しながら翻訳すること

翻訳と一言で言っても、いろいろな性格があります。論文などの場合は正確に翻訳していく必要があります。しかし、映画や音楽の場合は、意味的に通じていて、ストーリーが崩れていなければ、正確な翻訳はされていない場合もあります。

越境ECにおける翻訳は、この両者のミックスと言っていいでしょう。不正確に理解されては困るので、しっかりとした文章である必要はあります。しかし、日本人を相手に説明するわけではないので、日本人が相手のときにはやらない表現力というのも求められます。海外の人が直感的に理解できるようにするため、越境ECの商品説明だけに行う「提案」も必要です。

それを私は「提案翻訳」と読んでいます。私の造語なので、ネットで調べても出てこないと思います。ここでは、その提案翻訳のいくつかを、個人的な事例を交えて説明します。

1、商品の背景を深掘りし、相手文化も考慮する

例えば、商品の深掘りをして、その商品が神道に行き着いたとします。そうすると「神」という言葉が頻出しますが、日本の「神」と欧米圏の「神」は性格が違います。にもかかわらず、「The God」と訳すと売れない可能性があります。私の場合、過去に実際にありました。そこで「Sacred(神聖な)」に変えました。その結果、売り上げがたったということがあります。また、同時に日本人相手のときには、この例のように、神道まで遡った説明を普段はしないということは多いと思いますが、外国人に響くのはこういうところです。しっかり、商品のルーツまでさかのぼりましょう。

2、日本文化を詳しく知らない人でも、知っているワードは使い倒す

私達が外国に行く時、果たしてどこまで相手の文化を知って訪問するでしょうか? せいぜい昔からよく言われている有名なことくらいで、深く勉強してから行く人というのは一握りでしょう。

外国人もそれは同じで、一般的には日本文化の深いところまで理解して来る人は一握りで、多くの人はアニメや漫画がきっかけで、古い文化と言っても、誤解も大いに含みながら、サムライ、ニンジャ、フジヤマ、ゲイシャあたりは聞いたことがあるといったところでしょう。しかし、商品の深掘りをしたときに、こういった大抵の外国人でも知っている事象に突き当たったら、積極的に利用すべきでしょう。よく知られたワードというのは、よく検索されるワードでもあるので、自社製品を見つけてもらえやすくなるためです。

実際の例では、富山県の高岡市の高岡銅器の説明の際に、高岡の街の歴史を深掘った時がありました。簡単にまとめると、「江戸時代に前田のお殿様が、全国から鋳物職人を集めたことがきっかけで、金属加工で有名な街になった」ということでした。はい、ここで「サムライ」というワードが使えるわけです。これを積極的に使いました。ちなみに、注意しておきますが、ウソはいけません。あくまでも商品の深掘りをしたときにこうした事象に突き当たった場合のみです。

3、敢えて翻訳しない

全文翻訳しないというわけではありません。一部を敢えて翻訳しないというテクニックもあるということです。例えば、日本語学習中の外国の人が書いた日本語を想像してみてください。一生懸命書いてくれているので、読みにくいところはあっても、しっかり理解しようと時間をかけながら読んだという経験のある人もいるでしょう。なぜ、ネイティブの文章より時間が掛かるのかというと、見慣れない表現とか、違和感のある助詞(てにをは)があったりするからです。

これは、海外の人でも同じです。私たちが書いたぎこちない外国語は、相手にも読みにくいのです。そこを逆手に取るのです。海外の人が文章を読む時に見慣れない表現やスペルミスがあると、その文章周辺の読むスピードが落ちたり、文章のキリのいいあたりから読み直したりします。つまり、じっくり理解させることができるという利点があるのです。そこで、あえて一部は翻訳せずにローマ字表記にしたり、わざと間違えるというのもテクニックになります。

4、外国で誤解されて、間違われて定着しているワードも積極的に利用する

相手が間違っていたら、正したい衝動に駆られるものです。でも、その間違いが、単純にその人だけの間違いの場合は正してあげると良いですが、「海外で誤解されたまま定着してしまっており、海外の人はそれが間違いだとは思っていない」という場合の間違いは、正さずに利用してしまったほうがプラスです。

例えば、これは個人的な経験なのですが、仏教の四天王を説明しようとしたときです。仏教の世界では四方から来る邪なものから仏法を守る人たちなので、個人的にはFour Guardiansと訳そうかと考えました。あるいは固有名詞でもあるし、Shiten-Nohとローマ字にしようかと思っていました。ところが、海外ではFour Heavenly Kingsで定着していることが分かりました。これは漢字の「四」「天」「王」を逐語訳しただけです。正直言ってひどい翻訳だなと思っています。でも、ここで我を出して自分の考えた翻訳を押し通しても、定着していないのですから誰も検索してくれません。そこで、渋々定着してしまったワードを使用しました。

越境ECの目的はモノを売って金を稼ぐことです。そのためには相手が間違っていても、本人は間違いだと思っていないという場合は利用するのが得策です。相手が間違っていると見るや指摘しまくる「文化警察」は他の方に任せましょう。もちろん海外で定着してしまっている「誤解」を利用したくないという向きもあるでしょう。もちろんそれはそれで問題ないです。ただし、売って稼ぐことが遠のくというだけです。

今回は、翻訳する前に意識することと、売るという目的からブレずに工夫することについて経験則から書きました。次回はトレンドを掴む方法と、海外の人の目を引く商品説明についてご説明いたします。

寄稿者 横川広幸(よこかわ・ひろゆき)ジェイグラブ㈱取締役

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