2020年に鹿児島県鹿屋市で女性会社員=当時(35)=を絞殺したとして強盗殺人などの罪に問われた男の被告(31)の裁判員裁判で鹿児島地裁は22日、判決を言い渡す。検察側は殺意を持ってシートベルトで首を絞めたとして無期懲役を求刑、弁護側は殺意はなく強盗致死罪の成立にとどまると反論する。公判では専門の異なる法医学者2人が女性の死亡した経緯を推察。2人の証言への評価が罪状認定の鍵となる。
最大の争点は殺意の有無。被告がシートベルトで首を絞めたかどうかを巡り、双方意見が対立している。
検察側は女性を司法解剖した鹿児島大学大学院法医学分野の林敬人教授を証人尋問し、遺体の状態から死亡の経緯を推察した。
林教授は「遺棄から1カ月半後に発見された遺体は腐敗が激しく、内臓も血管もほとんど残っていなかった」と証言。その上で、首の骨折や頭部のうっ血に着目し「首を絞めた時に頭に血が上ったとみて矛盾がない」とし、窒息死に至るのは絞殺のみと結論づけた。
弁護側は、偶発的に窒息死した可能性があると主張する。窒息に関する論文を多数執筆する福岡大学医学部法医学教室の久保真一教授は、大柄な女性が狭い車内で被告ともみ合いになった過程に注目。被告が女性の背中を圧迫した際に胸郭(きょうかく)運動障害となり窒息までの時間が短縮されることや、抵抗した女性が低酸素状態になることもあると指摘し、「さまざまな条件が重なり窒息死した可能性がある」と述べた。
起訴状によると、被告は20年9月、鹿屋市の駐車場に止めた女性の軽乗用車内で車を自由に使わせるよう要求。抵抗されたためシートベルトで首を絞めるなどし窒息死させ、車を奪い垂水市の土手に遺体を遺棄したとされる。
軽乗用車内はドライブレコーダー映像などが残っておらず、客観的物証が乏しい。裁判員らの判断材料は被告の供述に加え、出廷した2人の証言が大きなウエートを占める。
証人尋問では、聞き慣れない医療用語が飛び出すたび裁判員が眉をひそめる光景が繰り返された。真っ向から意見が割れた法医学者の証言を裁判員らがどう受け止めたかが、殺人か致死かの判断を左右することになりそうだ。