「めちゃくちゃいいバッター」初実戦でポール直撃弾の西武新外国人アギラー。松井監督や同僚が感じた新4番候補のポテンシャルとは?

西武の新4番候補ヘスス・アギラー(33)が18日の紅白戦、白組の4番で先発出場。1打席目に左翼ポール直撃の“来日初アーチ”を放ち、南郷スタジアムに訪れた多くのファンをどよめかせた。

MLB通算114発の豪砲が早くも炸裂した。白組が1点を追いかける1回裏、二死3塁の場面でアギラーの来日初打席が回ってきた。

「自分の仕事をする」。そのことだけを心がけて、紅組先発の隅田知一郎(24)と対峙した。

右打者のインコースへ投げ切ることをこの日のテーマにおいていた隅田が、アギラーのインコースを攻め続ける。いずれも際どいコースだったが、高い集中力で見極めるアギラー。3ボール1ストライクと打者有利なカウントを作った。

5球目、再びインコースへ投げ込まれたストレート。厳しいコースだったが、腕をきれいに畳んでボールにしっかりコンタクトすると、打球は綺麗な放物線を描いて、あっという間にレフトポールに直撃した。

「本当に最後は切れるかなとも思ったのですが、ありがたいことに(スタンドに)入ってくれて、本当によかったなと思います」

対戦した隅田は、新たに加わった頼もしい助っ人に、どんな印象を持ったのか。

「日本人の打者なら、あのコースは見逃すと思います。カウント3-1からのベストボール。詰まってはいたんですけど(腕を)畳んで長打を打てる。めちゃくちゃいいバッターだと思います。打たれたので説得力はないですけど…(苦笑)」

隅田は対戦が終わった後の7回、アギラーの第3打席からも強烈なインパクトを受けていた。

「やっぱり、あのサードライナーを見ても、すごい打球を打っているので(相手には)脅威になると思います」

紅組5人目・豆田泰志(21)のストレートを見事に捉えたサードライナー。野手の正面だったためアウトになったが、アギラー自身もこの打球には好感触を得ていた。

「とてもスピンの効いたボールを投げてくるので、本当にびっくりしたのですが、自分のスイングはしっかりできていたので、いい当たりを打つことができました。捕られてしまいましたが感じは悪くないので、今後も継続したいなと思っています」
打つ方では3打数1安打だったが、一塁の守備でもスタンドを沸かせた。

白組4人目・松本航(27)が6回、無死一、二塁とピンチを招く。バントシフトが敷かれ、一塁手のアギラーはかなりの前進守備をとった。それを見た打者の山野辺翔(29)が一転バスターに切り替える。さらに前進するアギラーを強烈な打球が襲ったが、素早く反応しライナーでキャッチすると、慌てて帰塁する一塁ランナーより先に自ら一塁ベースを踏んでダブルプレーを完成させ、窮地を救った。
「アメリカに比べると、日本の野球はバントやランナーを動かすことが多いので、そこにちゃんとアジャストして、遅れないようにと心がけていました。守備も(自分の)売りだと思っているので、1年間健康で、守備でもバッティングでもチームに貢献したいなと思っています」

初実戦から攻守で頼もしさを見せた新4番候補の姿は、松井稼頭央監督の目にどう映ったのか。

「(本塁打は)見事だったね。インコースのちょっと難しいところだったと思うけど、素晴らしかった。その後の打席の内容も非常によかったと思います。(守備では)山野辺の打球はね、ちょっとドキッとしたけどね。(反応が)早いね、早すぎるでしょ(笑顔)。本当に楽しそうにやってくれているので、そのままやってもらえればいいと思います」

チームに合流してから約2週間。松井監督が言うように、陽気な一面を出して周囲に笑顔を振り巻きながら、本当に楽しそうにこのキャンプを過ごしている印象がある。この日の試合でも、イニング間には観戦に来ていた地元の野球チームの子供たちへボールを投げ入れたり、自身のファインプレーで帰塁できず、一塁で起き上がれなかったランナーの高松渡(24)を軽々と担ぎ上げて起こすなど、お茶目な一面を見せることは多い。

しかし、練習ではしっかりと意図を持って取り組んでいる姿がある。試合前の打撃練習、ティーバッティングでは右手のみから初め、続いて左手のみ、そして両手打ちへと移行していくのだが、打球をネットの正面にではなく、右方向へ意図的に打っているように見えた。得意だと言うボールへのコンタクトの意識しているのかと尋ねた。

「そうですね。バットのヘッドがホームベースのできる限りストライクゾーンを通るような練習方法で、それは(試合で)自分のスイングができるための準備でもあるので、そういう感じでやっています」

その後のフリー打撃では、アウトコースのボールは同じく右方向へ飛ばしていたが、インコースは一転、引っ張って強い打球を飛ばしていく。

「ちゃんと外のボールは(右方向へ)流して、インコースは引っ張るという意識でやっています。プロになってからも同じような意識で打っていて、それでメジャーリーガーにもなりましたし、結果も出ているので、それが自分のスイングをするために欠かせないことなのかなと思っています」
陽気な中でも実直に練習する姿は、松井監督の目にもしっかり留まっていた。

「練習に取り組む姿勢もそうですが、このキャンプでずっと、全てのメニューに入って常にやってくれている。そういうところもチームにとっては非常に大きいことだと思います」
試合後、宿舎に帰る前には、ボールを渡した野球チームの子どもたちが球場前でアギラーを待っていた。そんな彼らの求めに快く応じ、笑顔でサインする姿を間近で見た少年少女たちは、よりいっそう憧れの眼差しを向けていた。

そんなアギラーにも憧れの存在がいる。MLB通算3174安打を放ち、2012年には三冠王に輝いたほか、数多くの打撃タイトルを獲得。去年、21年間の現役生活に別れを告げたミゲル・カブレラ(40)。アギラーの母国ベネズエラ出身のスーパースターだ。

「本当に国民的なヒーローなので、僕もそうなれるように、ファーストの守備も含めて、自分のベストを常に尽くそうという気持ちでプレーしています。日本に来たことも、そういう思いがひとつあるのかなと思っています」

縁あってやってきた異国の地で、憧れの存在に近づくことができるのか。2021年まで西武でプレーした同じベネズエラ出身のエルネスト・メヒア(38)は、豪快な一発と時折ヒーローインタビューで見せる茶目っけたっぷりな姿が多くのファンを虜にしたが、試合結果だけではない振る舞いも含めて、メヒアの再来となれる可能性を大いに示した新4番候補の日本デビュー戦となった。

取材・文●岩国誠

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