強引な編集が観る者の想像力を刺激するB級モンスター映画 『ドクター・モリスの島/フィッシュマン』

ドクター・モリスの島 フィッシュマン-HDリマスター版- Blu-ray発売中 価格(税込):5,500円 発売元:株式会社ニューライン 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング (C)La Pratella 76 S.r.l. / Minerva Pictures S.r.l.- Rome, Italy. All Rights reserved.

飯塚克味のホラー道 第74回『ドクター・モリスの島/フィッシュマン』

60~80年代のイタリア映画界は、フェデリコ・フェリーニやルキーノ・ヴィスコンティなどの巨匠作品を輩出する一方、世界的にヒットしたアメリカ映画を模倣した作品を量産する映画工場でもあった。西部劇が流行ればマカロニウエスタンを生み出し、『フレンチ・コネクション』(1971)がオスカーを獲ればユーロクライムを、『エクソシスト』(1973 )がヒットすれば似たようなオカルト映画を、それこそ山のように生み出した。

ホラー・マニアックスの第14期として、今回初BD化された『ドクター・モリスの島/フィッシュマン』も似たような流れで作られた作品である。ベースになったのは1977年に作られ、日本では翌年に公開されたH・G・ウェルズ原作の『ドクター・モローの島』だ。漂流した青年がたどり着いた孤島で、人間の獣人化を研究するマッドサイエンティストに出会うという話だが、特殊メイクの進歩もありなかなかのヒットになった。筆者は子どもだったため映画館での鑑賞こそ逃したが、テレビ放送の時はしっかりチェック。翌日は、やはりテレビで見て感化された同級生がイスに登り「掟とは何だ~」と映画の一場面を再現していた。

そんな作品にいち早く反応し、’79年に本作を作り上げたイタリア映画界はさすがと言うべきか。日本での公開は’80年の2月16日。正月と春休みの間となる閑散期だった。いかにもなパクリタイトルに、B級感漂うポスターの映画を見るには、中学生だった筆者の小遣いはあまりに少なかった。そのため映画館で出会うことはなく、初見は海外版のDVDだった。おなじみの漂流シーンで始まり、漂着した島で人体実験が行われていたという、やはりおなじみの展開。意外だったのはポスターにある女性がフィッシュマンに襲われるような場面がなく、ヒロインのバーバラ・バックがメロンセーキのような緑色の飲み物を彼らにふるまい、フィッシュマンたちをコントロールしていたことだった。

全体的に緩い展開ではあるが、脱出劇や、ジョセフ・コットン演じる科学者が突然出現するなど、それなりに見せ場は設けられている。すごいのはクライマックスだ。島の火山が噴火し、マグマがあふれ出てくるのだが、そのマグマに屋敷が呑み込まれるミニチュアの特撮と、リアルサイズで作られたセットの屋敷が燃え盛る映像、更には資料映像として貸し出されたであろう本物のマグマの映像。質感が全然違うのに、3種の映像が何とも強引に繋がれている。今の若者世代からしたら「なんじゃこれ?」と言いたくなるだろうが、リアル世代にはこれぞ映画の醍醐味!見る側の想像力で欠点を補い、次のシーンに気持ちを繋いでいく。何とも懐かしい感覚を思い起こしてくれるのだ。

ドクター・モリスの島 フィッシュマン-HDリマスター版- Blu-ray発売中 価格(税込):5,500円 発売元:株式会社ニューライン 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング (C)La Pratella 76 S.r.l. / Minerva Pictures S.r.l.- Rome, Italy. All Rights reserved.

ヒロインのバーバラ・バックは『007/私を愛したスパイ』(1977)のボンドガールで世界的に有名になった後、ジャンル系の映画などに出演し、『おかしなおかしな石器人』(1981)でリンゴ・スターと運命的な出会いを果たす。以降、音楽イベントなどで夫となったリンゴと同席する以外はほぼ露出ゼロという人生を歩んでいる。本作はそんな彼女の輝ける時代を焼きつけている。マーゴット・ロビーの元祖のような美しさは今見ても全く変わらず、その美貌に驚く若い人もいるのではないか。

そして本ソフト最大の目玉は北米公開版の収録だ。本作は『スクリーマーズ』とタイトルを替えて北米で公開されたのだが、買い付けたのが何とあの低予算の帝王ロジャー・コーマン。日本の『子連れ狼』2本を1本に再編集して『ショーグン・アサシン』としてヒットさせた人物でもあり、本作でも好きなように変更を加え、別物にしている。具体的にはまずオープニングだ。宝物目当てに、夜中に島にやって来た白人たちがフィッシュマンに襲われてしまう。他にもこんなに変えるか?というくらいショッキングシーンがたくさん用意されているので、是非チェックしてほしい。

もう一つの目玉が日本語吹替版だ。タイトルのドクター・モリス、実は映画の中に出てくることはない。日本の配給会社が勝手に付けたウケ狙いのタイトルだったからだ。だがテレビ放映時、それではやばいと思った吹替のスタッフたちはそれらしき人物をモリスと変更し、収録を敢行。吹替がない部分の字幕もモリスと変更され、『ドクター・モリスの島』に生まれ変わらせている。

ハイクオリティな本編はもちろん、特典や吹替でも存分に楽しめる作りの本ソフト。映画ファンとして見逃すことはできないだろう。


飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【商品情報】
ドクター・モリスの島 フィッシュマン-HDリマスター版-
Blu-ray発売中
価格(税込):5,500円
発売元:株式会社ニューライン
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
(C)La Pratella 76 S.r.l. / Minerva Pictures S.r.l.- Rome, Italy. All Rights reserved.

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