政治家主催の「パーティー券・300万円分」を購入した社長…3年後、税務調査で告げられた「多額の追徴課税額」【税理士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

ニュースを賑わす、政治家の裏金問題。その舞台となったのが、政治資金パーティです。政治資金パーティー券は、支援企業など購入者側の税務処理にも影響がおよぶ可能性が大いにあります。本記事では、A社長の事例とともに、税務リスクを回避するための適正な会計処理について、税理士法人OGUの小串嘉次信税理士が解説します。

パーティー券購入に至った経緯

経営者Aは食品卸を営むA社の創業社長である。真面目で実直なA社長は長年に渡る信用と実績によってA社を資本金5億円、売上金額100億円規模の企業に育て上げてきた。今期の会社の利益は5億円程度計上されそうである。

A社がこれだけの会社に育ったのは、大手スーパーを営むO社のお陰である。O社のO社長はA社へ大量に発注してくれるだけではなく、これまで多くの取引先を紹介してくれた大恩人である。A社長はO社長に対しては足を向けて眠れないほどの恩義を感じていた。

O社長からの紹介で出会った青年の正体

ある日、O社長から電話がありA社長にぜひ会わせたい人がいるということで、後日アポイントメントを取った。A社長はどのような人と会わせてくれるのか楽しみに、その日を迎えた。

O社長と同行してきたのは溌溂とした好青年Sであった。O社長「このS君は私の大学の若い後輩で政治家を志しこの度国会議員に当選したんだよ。先が楽しみだから紹介しておくよ」ということであった。

S議員は「今度お近くで私の後援会主催のパーティーがあります。A社長にも是非ご臨席賜れば有難いです」と誘ってきたのであった。

A社長はO社長の顔を潰さないためにも、日ごろのお返しをする気持ちで「もちろんパーティー券買わせて頂きます。一枚2万円ですね。承知しました。150人分まとめて買い取りましょう。合計300万円ですね。後日経理部から支払います」と約束した。

A社経理部ではA社長から指示を受けS議員後援会側に支払いを起こし、パーティー券購入費の領収証の交付を受けた。

A社経理部長は政治家のパーティー券購入費用は、実質的に政治献金の一種であると判断し、全額を「寄付金」として会計処理をした。一般寄付金であるとの判断から損金算入限度額は、

(資本金5億円×0.25%)+(所得5億円×2.5%)

この合計額を1/4した金額であるから343万7,500円

今回の支出額300万円はその範囲内であるため、全額損金として税務申告を行った。

一方、A社長はあとになってパーティー開催の当日がほかの取引先とのゴルフで、参加自体が難しいことに気が付いた。しかし、パーティー券をまとめて購入したことでO社長の顔が立ったのならそれでよかったと考えたのである。結果的にそのパーティーにはA社側からの参加者はいなかった。

3年後、税務調査がやってきて…

3年後、A社に国税当局から税務調査の事前通知があった。

A社長は真面目で実直な性格であり、A社経理部長も社長同様に誠実な人柄である。A社長は経理部長に「君に経理を任せているから安心だ。調査対応はよろしく頼む」と肩を強く握った。経理部長は自信満々に「社長は安心して、どうぞ私にお任せ下さい」と返すのであった。

税務調査の担当者はベテラン調査官のC上席であった。C上席は、まずA社長に会社の概況や現在の経営状況などの説明を求めた。

A社長は丁寧な態度で説明を行ったうえで、「経理の実務的な部分は経理部長に任せておりますので、直接ご確認いただけますか?」とC上席に尋ねる。C上席は3年間分の総勘定元帳を持ってくるよう依頼しながら、経理部長との直接のやり取りを承諾した。

パーティー券購入の経緯を知り、冷や汗をかく経理部長

――C上席「3年前の寄付金勘定にあがっている300万円のエビデンスを見せてもらえますか」

経理部長はパーティー券購入費の領収書を持参し、「パーティー券購入費とはいえ実質的にS議員に対する政治資金の寄付だと当社では捉えまして、寄付金勘定で会計処理しています」と説明した。

「そうですか。パーティー券の購入としては金額が大きいですし、事情があるのでしょうかね。……事情をご存じの方はどなたかいらっしゃいますか?」とC上席から尋ねられた。経理部長は「この寄付の件は社長がご存じですので、お呼びしてきます」と、社長室に向かった。

A社長は調査の席に着いて、このパーティー券購入はこれまで世話になったO社長の頼みで面会したS代議士のパーティー券をO社長の顔を立てるために購入したことや、当日は結果的にパーティーそのものには不参加であったことなどをC上席に説明した。

ひととおり説明を聞いたC上席は経理部長に向かってこう告げた。

「購入の事情を聞いてみますとパーティー券購入費用は単なる寄付ではなく、取引先であるO社長への供応という趣旨から、交際費に該当するものと私は判断します。経理部長はいかがお考えですか?」

経理部長は社長からこのパーティー券購入の経緯を調査の席上で初めて聞かされたので内心動揺しながら「交際費ですか……そういう解釈もありますかねえ」と言葉を濁した。

経理部長は、A社は資本金が5億円なので、交際費として支出した金額全額が損金不算入となること、しかし接待飲食費であれば支出額の50%が損金算入できることを思い起こしながらC上席にこう主張した。

「たしかに状況的には交際費かもしれませんね。しかし、パーティー券購入費用なので飲食はつきもの。議員さんや参加者との接待飲食であるとの理解ができますから、接待飲食費として50%の損金算入は認められるでしょう」と言った。

それに対しC上席は冷めた顔でこう言った。

「A社長はパーティーには不参加であったとご説明されましたよね。であれば接待もなく飲食もなかったことになります。つまり、接待飲食を伴わないのでA社はO社長に対する供応の意図に基づいてパーティー券を購入した事実となります。従って当方としては飲食を伴わない単なる交際費になると判断します。このため、全額損金不算入であるとの結論になります」

税務調査における結果

A社長に告げられた追徴課税額

今回のケースの場合、政治家のパーティー券購入費用が寄付金として経理したことが否認され、交際費認定された結果、全額が「損金不算入」という税務処理となりました。

300万円の損金が否認された場合、実効税率がおおむね30%と仮定すると90万円の増差税額となります。その税額に過少申告加算税10%と納付日までの延滞税がかかるため、おおむね100万円の追徴税額を納める必要が出てくるでしょう。

「政治家のパーティー券購入費用=寄付金」という定番的判断のみに囚われることなく、経理担当者にはその支出の経緯、意図、状況、参加メンバー等を総合判断して勘定科目の決定を行うという慎重な判断が求められることになります。

小串 嘉次信

税理士法人OGU

税理士

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