腸の専門医が教えるストレスに負けない「丈夫な心づくり」

ストレスは心や体の健康にとって一番の大敵です。しかし、現代社会を生きるうえでは、誰もがなんらかのストレスを感じながら生活しなければいけません。春先は新しい環境などで緊張する場面も多く、想像する以上のストレスを感じる傾向があります。腸の専門家で医学博士の星子尚美氏が、現代社会で生き抜くためのストレスを溜め込まない方法を紹介してくれました。

※本記事は、星子尚美:著『腸のことだけ考える』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

腸の健康にとって一番の大敵は「ストレス」

腸の健康は日々の食事だけでなく、生活習慣によっても左右されます。腸をきれいにするための生活習慣について見ていきましょう。

腸の健康に一番の大敵は、やはりストレスです。過去の私も多忙のなかでの生活習慣の乱れからストレスがたまり、それが腸に悪影響をおよぼして乳がんになってしまいました。

ストレスとは、もともと精神の緊張や心労、苦痛や寒冷など、日常ごく普通に見られる刺激が原因で起こる「生体機能の変化」のことです。ストレスによって腸の働きが低下すると、免疫力が低下したり、脳にも悪影響がおよんだりします。すると、ますますストレスに対抗する力が弱まる、という悪循環に陥ってしまいます。

私たちは、カラダの異変は比較的すぐに気づくことができますが、心が悲鳴を上げていたり、痛みを感じていたりすることには、なかなか気づきにくいものです。自分のカラダを大切にするのと同じように、ぜひ自分の「心」にも目を向け、大切にしていただきたいと思います。次のような症状が出てきたら、高ストレスのサインなので要注意です。

  • 休日に外出したり、人に会ったりするのがしんどい
  • 朝起きるのがおっくうだ
  • お酒の量が増えた
  • タバコを吸い始めた(またはタバコの量が増えた)
  • 疲れやすく、疲れが取れにくい
  • 忘れっぽくなった
  • 身だしなみにあまり気を使わなくなった
  • やるべき仕事があるのになかなか手につかない
  • 仕事に集中できず長続きしない
  • 緊張やあせりを感じることが多くなった
  • ささいなことでイライラする
  • 職場(学校・家庭)での自分の評価が低いと感じている

▲腸の健康にとって一番の大敵は「ストレス」 イメージ:C-geo / PIXTA

「頑張りすぎる自分」をやめてみよう

現代の複雑化した社会で生きるうえでは、誰もが人間関係や家庭、会社などでなんらかのストレスを感じながら生活しています。例えば、転職や部署異動、引越しなどは、新しい環境に適応するべく極度に緊張するため、その人が想像する以上のストレスを感じる傾向があります。

また、会社での昇進や昇給、栄転、結婚などのおめでたい出来事でも、逆にプレッシャーを感じて、多大なストレスを受けることがあります。

現代社会でまったくストレスのない生活を送ることは、あまり現実的ではありません。しかし、過剰なストレスは、カラダに症状が出る前になんとか食い止めなければなりません。

まずは、いかにこれらの日常的なストレスと上手に付き合っていくかを考えることが大切です。ストレスに負けない「丈夫な心づくり」のために、次のようなことを心がけてみてください。

マイペースを貫く

マイペースで過ごすことを心がけ、できるだけ仕事や特定の人間関係などといった「ストレスの原因」を忘れる時間をつくることが大事です。映画やお芝居、音楽、習いごと、スポーツなどの趣味や、仕事などとはまったく別の人間関係など、自分が心地よいと思う「居場所」を見つけてみてください。

日常的にストレスを感じる場所のほかに、もうひとつ軸となる居場所を持つことで、ずいぶんと気持ちが軽くなります。特に好きな音楽を聴くことは、音楽療法の一環でもあり、脳をリラックスさせて活性化してくれるとともに、認知症の予防にも効果があるのでおすすめです。

▲自分が心地よいと思う「居場所」を見つける イメージ:Ushico / PIXTA

完璧主義を捨てる

ストレスを感じやすい人は完璧主義で、「失敗しちゃいけない」と思い込む傾向があります。また、人の期待に応えようとしすぎて、頑張りすぎてしまう人も、ストレスを余計に抱え込むことが多いようです。

例えば、何か頼みごとをされて、とても忙しいから断りたいのに「できません」と言えず、引き受けてしまう人がその典型だと言えます。「せっかく頼まれたのだから、ちゃんとやらなければ」と責任を感じ、疲れているのに無理をしてしまうのです。

その仕事が評価されればまだ救われるのですが、相手にたいして感謝されなかった場合、「私はいったいなんのために頑張ったのだろう……」と、さらに落ち込んでしまいます。

人間のカラダはひとつしかないので、できることは限られています。まずは「頑張りすぎる自分」をやめるところから始めてみましょう。

ノートに書きだして「ストレスを整理」してみよう

思考パターンを変えてみる

腸の不調を訴える患者さんのなかには、神経質だったりネガティブだったり、「こうでなければいけない」という考えを持つ人など、ストレスを抱え込みやすい人が多くいます。そのメンタルの問題が症状の悪化に影響しているのかもしれません。

「こうでなければいけない」にとらわれず、ゆったりとした気持ちで過ごす方法を模索してみてください。そして、自分の思考パターンが、自分の人生の方向性を形づくっているということを、ぜひ認識していただきたいと思います。

例えば、このように考える人がいます。「最近いいことが続いたから、今度は絶対、何か悪いことが起こりそうな気がする」「あんなステキな人と私が仲良くなれるわけがない」「私は年上の上司に嫌われやすい」

しかし、これらは本人がそう思い込むことによって、知らず識らずのうちに「そうなるような行動」へと自らを誘導してしまっているにすぎません。心身の健康のためにも、こうしたネガティブな思考パターンを断ち切ることをおすすめします。

思考パターンを変えるためのポイントとしては、前向きではない考え、否定的な考えをとりあえずやめてみることです。

例えば「あの人は私のことを悪く思っているのでは……」と勝手に推測するのをやめてください。「私が〇〇しないと、みんなから嫌われるのでは……」など、考えても仕方がないことを深く考えないようにしてください。

ノートに自分のこれまでの気持ちや、これからの希望を素直に書き込んでみるのも有効です。書くこと自体がストレス解消にもなるのですが、自分の思考を視覚化してすることで、それまでの自分の思考パターンを変えるいろいろな「気づき」を得られます。

悩みはひとりで抱え込まず、信頼できる第三者や公的な機関に相談することも大切です。悩みごとを自分の頭のなかだけでこねくり回していても、いい結果に結びつくことはあまりありません。それよりは一度、それを他人の頭を通して眺めることで、自分にはまったくなかった発想で、そのストレスに対処できるようになるかもしれません。

ネガティブな思考の方は自分ひとりで悩みを抱え込む傾向にあるので、誰かを頼ることも忘れないようにしてください。

▲ノートに書きだして「ストレスを整理」してみよう イメージ:yosan / PIXTA

ストレスの原因と向き合う

とても勇気がいることかもしれませんが、時には「ストレスの原因」と直接対決するとも大事です。まず、自分が感じているストレスを整理してみましょう。メモ帳などに、次のようなことを書き出してみます。

  • 自分にとって、いま何がツラいのか?
  • それに対して自分はどうしたいのか?
  • 現実的な解決策は何か?

例えば、苦手な人がいた場合、「その人のどんなところを苦手に感じるのか」「どんな振る舞いが自分をツラくさせているのか」「それをなくすにはどうすればいいのか」を書き出してみます。

その人が会社の上司なら、配置換えを希望する、他の部署の上司に相談する、同僚に意見を聞いてみる、社内外の相談窓口を利用する、するなど、具体的に考えられる限りの選択肢を挙げていきましょう。

そうすることで、問題点があらためて浮き彫りになり、自分の今後の課題が見えてくるはずです。そして、自分が一番いいと思った解決策を、実際に実行してみましょう。たとえ思ったような改善が見られなかったとしても、まったく落ち込むことはありません。「私はこの経験から学ぶことができた」と前向きに考える強さを持ってください。

ストレスは必ずしも悪い影響ばかりではなく、うまく付き合うことができれば心に適度な緊張感を与え、人間を鍛えてくれるものでもあります。その都度、対処していきながら、無理せず、ほどほどに付き合っていきましょう。

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