「モノを守っていくではなく、モノを作っていく姿勢が今のサッカー界では一番大事で、何より面白い」
風間監督はそう力強く語る。
「自分の地位を守る、降格しないことをまず意識する。今のサッカー界ではそういう姿勢が多いのかなと。でも南葛はそうでなくて、今までにないものを作りたい。クラブとして昇格だけを目指すのではなく、地域を巻き込みながら新しいものにトライしていこうと」
その挑戦の指標には、風間語録が満載だ。
「喜怒哀楽の“怒”がないスタジムを作りたい。スタジアムに来たお客さんは怒っていて楽しいのか。喜び、楽しみ、喝采などが溢れたスタジアム、一番良いモノを作っていきたい。それを目指したいとみんなで話している」
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風間監督はかつて川崎や名古屋を率いた際にも、スタジアムを映画館や遊園地に負けないような、誰もが足を運びたくなる場所にしたいと強調していた。
「外国ではお客さんが暴れているから、自分たちも暴れなくちゃいけないなんてことはないよね。言ってしまえば、勝負事だから勝敗がついてしまうのは仕方がない。その都度、怒っていても良いものはできない。どんな結果になっても今日来て良かったよねと、そんな空気感のスタジムを作りたい」
その理想の実現へ南葛のクラブカラーは大いに後押しになっているようだ。
「このクラブの良さは決断の速さ。そして『トライしてみれば良い。トライして上手くいかなかったらまたやれば良い』という前向きな姿勢が根付いている。そこが一番大事だなと」
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2月にはかつて川崎をともに盛り上げた天野春果氏のプロモーション部部長の就任も発表された(天野氏が所属する「株式会社ツーウィルスポーツ」と契約)。
「川崎時代には選手に『様々な場所に行って活動をして良いですか?』と聞かれたけど、そういう活動は今や当たり前になって、他のチームでもやっている。一方で南葛では映画監督の人が動画を撮ってくれたり、ユーチューブを活用したりと、それ以上の活動をやっていこうとしている。やはりサッカーが面白くなくてはいけないけど、そのなかでいろんな取り組みができている」
年始には『キャプテン翼CUPかつしか2024』と題してU-12の大会を開催し、多くの人で賑わった。その光景からも地域のエネルギーを感じたという。
「天野ともここは川崎に似ていて、地域の方々との距離感も近いよねと話していて。葛飾区とその周辺の地域には250万人くらいの人口がいて、子どもも多い。だからもの凄い活気を感じるよね」
その中心に『キャプテン翼』の存在があるのも大きい。
「なんでみんな『キャプテン翼』が好きかと言うと、人を貶すことがないし、怒りの感情もない。純粋なスポーツの世界が広がっていて、登場するみんなが技術を追求している。サッカーを楽しむことの素晴らしさを伝えてくれているわけで、それが一番大事だよね。
『キャプテン翼』は世界共通で愛され、自分の孫の代まで知っている。縦と横にここまで広い漫画ってなかなかない。勝負の世界を描いているけど、根底にサッカーが好きな想いを誰もが持っていて、翼くんの『ボールはともだち』という言葉がそのまま表現されている。
だからみんなが楽しくて安らぐし、南葛でもそういうグラウンドを作り、そういう選手を育てたい。そして選手たちにはそういう気持ちでプレーしてもらいたい」
風間氏は今年で63歳を迎える。「63歳なんて隠居して飲んだくれて、寝ているだけと思っていた」と笑い飛ばすが、まだまだ精力的だ。
サッカー界を盛り上げ、真の楽しさを伝えるために――。かつて川崎が一大ブームを巻き越したように、いやそれ以上に、南葛の活動は面白くなりそうな可能性を大いに秘めている。
南葛のシーズンが始まるのは3月。地域の人々が自然とスタジアムに足を運ぶ光景は徐々に現実のものになりそうな予感が漂う。その空間を体験する価値はあるに違いない。
取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)