【MLB】シーズン開幕直前!! 大谷翔平・山本由伸所属のロサンゼルス・ドジャースを解説

写真:ドジャー・スタジアム ©Getty Images

今オフ、大谷翔平と山本由伸をそれぞれ投打の史上最高額契約で獲得し、日本における注目度が一気に高まっているロサンゼルス・ドジャース。かねてから日本でも知名度の高いチームだったが、大谷と山本がそろい踏みする2024シーズンを前に、あらためてドジャースとはどんなチームなのかに迫っていきたい。 

◇歴史:移転を契機にMLB屈指の強豪へ

今はロサンゼルスのダウンタウンに位置するドジャースタジアムを本拠地とするが、その前身は1884年にブルックリンで設立されている。ブルックリン時代は1度の世界一にとどまったものの、1958年にロサンゼルスへ移転すると、徐々にMLB屈指の強豪としての頭角を現していく。移転2年目の1959年のタイトルを皮切りに6回の世界一を勝ち取り、創設以来のリーグ優勝24回・プレーオフ進出35回はナショナル・リーグで堂々の1位だ。 

近年のドジャースは2017年からMLBトップの662勝を挙げ、3回のワールドシリーズ進出(2017・2018・2020)、そして2020年には悲願の世界一を達成した。今のメジャーリーグでドジャースほど安定した強さを誇るチームはおらず、かつてのヤンキースに代わる「球界の盟主」「悪の帝国」となりつつある。 

◇強さの秘訣:ドジャースを支える2人のキーマン

ドジャースの圧倒的強さを支えているのが、大谷が入団会見でも言及した2人の“キーマン”、オーナーのマーク・ウォルターと編成本部長アンドリュー・フリードマンだ。 

総資産およそ59億ドル(『Forbes』より)と言われるウォルターは、投資会社のCEOを務め、2011年にドジャースを買収。MLBのオーナーの中でも有数の大富豪である上に、ドジャースが結んだ放映権契約は、単純計算で年平均3億3400万ドル(約490億)と言われている。莫大な放映権収入は、ドジャースの強さを支える大きな要素だ。 

その資金を使いこなすのが、MLB屈指の“切れ者”として知られるアンドリュー・フリードマン編成本部長だ。もともとウォール街の投資会社で働いていたフリードマンは、28歳にしてタンパベイ・レイズのGMに就任。資金力に乏しく、それまで一度も勝率5割に達したことがなかった弱小チームを、データ分析を駆使した巧みな運営で強豪チームに作り替えた。その手腕が評価され、2015シーズン前にドジャースがフリードマンをヘッドハンティングした。

◇強さの秘訣:豊富な資金に支えられた育成力

もちろん、資金力を振りかざすだけでは、戦力均衡策が導入されている今のMLBで勝ち続けることはできない。ドジャースの強さを支える両輪のひとつは、抜きん出た育成力にある。ドジャースは常勝であるためドラフト順位が低く、またトレード補強で有望株を放出することも多々ありながら、ファーム組織ランキングでは必ず上位にいる。 

その育成力の秘訣も、オーナー陣の惜しみない投資にある。ドジャースのアマチュア選手を探すスカウトの人数、そして選手の育成を担当するスタッフ(アナリスト、コーチら)の人数の多さはともにメジャー有数。さらに過酷な環境として知られるマイナーリーグでも、自軍の有望株には食生活などで他球団よりはるかに良い環境を提供している。 

ドジャースの育成力の恩恵を受けているのはマイナーリーガーだけではない。他球団から解雇(DFA)されてドジャースに入ってきた選手がスター選手に変貌する。それもドジャースという球団の魅力の一つだ。

◇スーパースターだけじゃない! ドジャースの注目選手

■マックス・マンシー 
33歳 / 三塁手 / 13番 / 9年目
年俸:950万ドル(チーム8位)
主なタイトル:オールスター2回
2023年成績:135試合 36本塁打 打率.212 OPS.808 

ドジャース加入によってキャリアを一変させた選手の代表格が三塁手マックス・マンシーだ。マンシーはドラフトされたアスレチックスでは打率.195(96試合)と全く通用せず、無情にも事実上の戦力外通告(DFA・40人枠から外されること)を受けてしまう。

2017年にドジャースにマイナー契約で加入すると、マンシーはスイングを改造。それをきっかけに翌2018年には35本塁打を放って大ブレイクし、その後もドジャースで合計175本塁打を積み上げている。マンシーは、同僚のクリス・テイラーとともに“フライボール革命の申し子”的存在となっている。 

昨年チーム最多の88試合で4番に入ったマンシーは、3番に入る大谷の次を打つ機会が多いだろう。そして、その卓越したパワーと選球眼で、山本の援護にも期待したい。 

◇もちろんスーパースターもすごい!

ただ、ドジャースのすごいところは、マンシーのような優秀な選手を“脇役”にしてしまう絶対的なスターがそろっているところだ。それがMVPの1・2番コンビ、ムーキー・ベッツとフレディー・フリーマンだ。この2人は前所属の球団でMVPも世界一も経験した後に、ドジャースのラストピースとして加わった。 

■ムーキー・ベッツ 
年齢:31歳
ポジション:二塁手・右翼手
背番号:50番
MLB歴:11年目
年俸:3000万ドル(チーム2位)
主なタイトル:MVP1回・オールスター7回・ゴールドグラブ6回・シルバースラッガー6回 
2023年成績:152試合 39本塁打 打率.307 OPS.987 
レッドソックスから2020年に加入。それまでも何度となくプレーオフに出ながら勝ち切ることができていなかったドジャースが、多くの若手有望株を投げ売って獲得した。ベッツは5ツール(打撃力・パワー・足・守備・肩)をすべて備えるオールラウンドなプレースタイルが特徴で、走攻守で見事に期待に応え2020年にドジャースを世界一に牽引。その後もオールスター級の活躍を毎年続けている。 

■フレディ・フリーマン 
年齢:34歳
ポジション:一塁手
MLB歴:5年目
年俸:2700万ドル(チーム3位)
主なタイトル:MVP1回・オールスター7回・ゴールドグラブ1回・シルバースラッガー3回
 2023年成績:161試合 29本塁打 打率.331 OPS.976
フリーマンも、ブレーブスで世界一とMVPを経験した後、地元ロサンゼルスのドジャースに加入した。ドラフト指名されてプロ入りしたブレーブスでは低迷期も経験しながら、チームの顔としてブレーブスを牽引。2021年の世界一を置き土産にドジャースに移籍した。その武器は2度の最多安打・4度の最多二塁打に輝いた精密な打撃力だ。ドジャース加入後は打率.328のハイアベレージで、大型契約の期待に応えている。 

ベッツとフリーマンは単に選手として能力がずば抜けているだけではなく、高い野球IQとチームへの献身性を持ち合わせているのが特徴だ。ベッツは外野手として6回のゴールドグラブ経験を誇る名手だが、昨年はチームの台所事情からマイナー時代に守っていたセカンドと、そしてショートの守備もこなした。さらにフリーマンは、一塁手で決して俊足といえる選手ではないが、牽制制限が導入された昨年は果敢に盗塁に挑戦。33歳にして自己ベストの23盗塁を決め、失敗はわずかに1個だった。献身性と野球IQは、大谷のプレースタイルにも大きく当てはまるキーワードであり、ベッツ・フリーマン・大谷が並ぶ上位打線はあらゆる意味で脅威になるだろう。 

そのスーパースターコンビに、今シーズンからは投打の史上最高額契約コンビである大谷翔平と山本由伸が加わるというわけだ。 

■大谷翔平 
年齢:29歳
ポジション:二刀流(DH/投手)
MLB歴:7年目
年俸:7000万ドル(チーム1位)
主なタイトル:MVP2回・オールスター3回・シルバースラッガー2回・新人王(2018年) 
2023年成績(打者):135試 44本塁打 打率.304 OPS1.066 
2023年成績(投手):23試合 10勝5敗 防御率3.14 167三振 
大谷翔平は今や球界最大のスターだ。二刀流で球界を席巻し、ここ3年間でMVPを2回満票受賞。昨年は打者だけでも、OPSといった攻撃力を示す指標はベッツやフリーマンのような強打者を差し置いてメジャートップを記録しており、二刀流の進化を止められる者はもはや誰もいない。昨秋に受けたトミー・ジョン手術の影響で打者専念が見込まれる今シーズンは、どのような成績を残してくれるだろうか。ベッツやフリーマン、そして昨年ナ・リーグのMVPだったロナルド・アクーニャ・ジュニア(ブレーブス)らと、MVP争いでしのぎを削ってほしいところだ。 

■山本由伸
年齢:25歳
ポジション:投手
MLB歴:1年目
年俸:916万ドル(チーム9位)
主なタイトル(NPB):MVP3回・ベストナイン3回・沢村賞3回・ゴールデングラブ3回
今シーズンからMLBに挑戦する山本由伸は、日本での実績を考えれば、“日本球界最高傑作の投手”と言っても差し支えないだろう。その実力と25歳という若さから山本の人気はすさまじく、激しい争奪戦の末、ドジャースが投手史上最高額となる12年3億2500万ドルで競り落とすに至った。山本はメジャーで1球も投げていないにもかかわらず、球界の大エースであるゲリット・コール(ヤンキース)の最高額契約の記録を更新してしまったのだ。

◇日本とも縁が深いドジャース

ドジャースには野茂英雄(1995~1998、2002~2004)を筆頭に多くの日本人が所属してきており、日本になじみの深い球団だ。野茂は1995年にメジャーデビューすると、その年に新人王・奪三振王・オールスター選出を成し遂げ、センセーションを巻き起こした。野茂以降では、石井一久(2002~2004)、木田優夫(2003~2004)、中村紀洋(2005)、斎藤隆(2006~2008)、黒田博樹(2008~2011)、前田健太(2016~2019)、ダルビッシュ有(2017)、筒香嘉智(2021)がドジャーブルーに袖を通してきた。その他にも、ブルックリン時代のドジャースのスモールベースボールを、巨人監督・川上哲治氏が参考にした逸話もある。大谷と山本の加入によって脚光を浴びる前も、ドジャースは日本と深いつながりを持っていたのだ。 

◇有色人種の道を開いたレジェンドに、“生きる伝説”も…… 

ドジャースという球団の歴史において、忘れてはならない存在がジャッキー・ロビンソンだ。ロビンソンは有色人種初のメジャーリーガーとして、今日メジャーでプレーする日本人選手の道をも開いた存在と言えるからだ。

ロビンソンは黒人差別の色濃い1947年にメジャーデビュー。近代メジャーリーグでは初の黒人選手として差別に直面しながらも、新人王・MVPなどのタイトルを獲得する活躍を見せ、その後の有色人種選手に大きな影響を与えた。MLBはロビンソンの功績をたたえ、彼が着けていた42番を全球団統一の永久欠番とし、毎年4月15日(ロビンソンのデビュー日)には全選手が42番を着用する“ジャッキー・ロビンソン・デー”を設けている。 

ロビンソンをはじめ、長い球団の歴史の中でドジャースには多くのレジェンドが存在した。しかし、そのレジェンドの中でNo.1と言えるであろう選手は、今もドジャースで現役を続けている。それが殿堂入り確実の左腕クレイトン・カーショウだ。

MVP投票でも重視される、現代MLBで最重要の指標のひとつである総合指標WARで、カーショウは球団史上ダントツトップ。このまま数年現役を続ければ、球団の投手記録はほとんど手中に収める可能性がある。黒田博樹との親交でも知られるほどキャリアは長いが、その実力は健在で昨年も13勝・防御率2.46の活躍で若い投手陣の大黒柱となった。今シーズンは肩の故障で大半の欠場が予想されるが、山本・大谷らとローテーションにそろい踏む日を心待ちにしたい。 

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