性犯罪歴を開示する「日本版DBS」創設へ…子どもと触れ合う男性保育士の“本音”

幼児教育に力を尽くす島田さん(右)と藤本さん(左)(撮影:榎園哲哉 ※画像の一部を加工)

性被害から子どもたちをどう守るか。政府は保育園や学校など子どもたちと接する職場への就職希望者の性犯罪歴を開示する日本版の「DBS」(Disclosure and Barring Service、ディスクロージャー・アンド・バーリング・サービス=前歴開示および前歴者就業制限機構=)の創設を加速化させている。来年度以降にも実現する見通しだ。

現場で日ごろ子どもたちに接している男性保育士らは創設をどう捉えているのか、“本音”に迫った。

DBS議論「シッターのわいせつ行為」きっかけで活発化

東京都心から電車で約40分のJR行徳駅(千葉県市川市)にある「コンパス幼保園」。取材で訪れた筆者を、子どもたちの弾けるような声が迎えてくれた。

こうした子どもたちの弾ける声が曇らないように、DBS導入への動きが進んできた。

2020年6月、東京都目黒区のマンションで、ベビーシッターの男性(当時30歳)が、請け負った5歳の女児の身体を触るなどして逮捕された(後に懲役3年・執行猶予5年の有罪判決)。この事件を機に、いわゆる「日本版DBS」導入への議論が活発化した。

DBSは、イギリスで行われている性犯罪歴の有無を明らかにする開示制度。子どもに関わる事業者が就業希望者の承諾を得て、開示を依頼。性犯罪歴がある人物の採用を未然に防ぐ。

昨年4月に発足したこども家庭庁で制度化に向けた準備が進められており政府は今年1月、「日本版DBS」の創設に関する法案の概要をまとめた。

性的嗜好「10回会っても分かるわけがない」

コンパス幼保園(市川市と船橋市に2園開設)の設立者で総園長の島田裕二さんは、長く格闘技界でレフェリーとして活躍してきた。総合格闘技の「高田延彦vsヒクソン・グレイシー戦」といった歴史的名勝負も裁いてきた“レジェンド”だ。

かつて海外の選手と接した時、無気力な日本の若者とは異なる自分の夢などを語るキラキラした表情に強い印象を持ち、教育、とりわけ幼児教育の必要性を感じ、幼保園を開設したという。

園の運営者として心掛けていることは、「(性犯罪などの事件を)対岸の火事にしないように」ということ。

「起きたらどうする、起きないためにどうする、というリスクマネジメントを働くみんなと共有している」(島田さん)

ただ、働いている保育士らの性的嗜好(しこう)などを採用時に把握することは困難だと話す。

「(保育士らを)採用するときは履歴書を確認し、面談し、現場に入れるが、10回会っても(性的嗜好が)分かるわけがない。性的なことでなくとも、お互いに話す中で、そんな趣味があったの、と後になってから気付くこともある。コミュニケーションをしっかり取ることにもっとも力を入れている」

性犯罪歴ある人「雇用することはなかなか難しい」

今後、DBSが創設された場合、採用の際に性犯罪歴をどう参考にするか。

島田さんは「雇用することはなかなか難しい。保護者も理解しないのではないか」とする一方で「ただ、どこかに救いがあってもいいと思う。違う輝きかたをしてほしい」と、子どもたちと接しない仕事を選び働くことを提案する。

コンパス幼保園で保育士を目指し、現在保育士補助として働く藤本京太郎さんも格闘界で活躍してきた一人。「京太郎」のリングネームでプロボクサー、キックボクサーとして約50試合を戦ってきた。

「(リングで)応援されてきた。自分が誰かを応援する仕事に就きたい」と保育士を志したという藤本さん。鍛え上げた体を丸めて子どもたちと接し、「レンジャー先生」と呼ばれ慕われている。藤本さんは園児に接する際などについてこう語る。

「向こうがフランクに接してきても、密着し過ぎないようにしている。小さな子のトイレやおむつ替えのときなども気を使っている」

加害の「背景」想像しない限り犯罪減らない

元園長・保育士の経験を生かし、保育現場で起こる問題などを語り合うWEBメディア「ホイクタス」を開発・普及させている石井大輔さんは、保育現場にいた頃、子どもとの触れあい方について、ほかの保育士から注意を受けた経験があるといい、手をつなぐなど保育士としてはよくあるスキンシップでも人一倍気を配ってきたと振り返る。

さらに、長年の現場での経験を踏まえ、DBS創設について次のように語る。

「性犯罪は絶対にだめだし、DBSにも賛成している。ただ、同時に加害者がなぜそういう(性加害を与える)ことになったのか、ということも想像していただきたい。加害者自身が虐待や性加害を受けていた可能性もある。そういう背景を想像した上で対策を講じない限り、性犯罪が減ることはないと思う」

保育園や幼稚園はほとんどの子どもが通う場所だ。

前述の藤本さんは、こうした保育施設が性被害とは無縁の安全な場所であってほしいとした上で、「いろいろな経験をしてもらい、自分の意志を持ってやりたいことを見つけてほしい」と子どもたちにエールを送る。

子どもたちが安心できる環境で、のびのびと成長できる。日本版DBS創設は、そんな当たり前の環境づくりを後押しする“ツール”にほかならない。

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